あるところに一人の少年がいました。
少年の父親はフィリピン人、母親は日本人でした。
少年が小さい頃に父親はいなくなり、少年は母親に育てられました。
少年の母親は破天荒な人でした。
男の出入りが激しく、家を空けることも多い母親でした。
少年はそんなお母さんに一生懸命絵をかきました。
自分とお母さんの絵です。二人が笑ってる絵です。
お母さんに、喜んでほしかったのです。
でも、お母さんはだんだん家に戻らなくなりました。
その日食べるお米もなくなりました。
そしてとうとう、少年が中学3年になったころ、母親はどこかに行ってしましました。
少年を置いて。
中学校を卒業して、少年は働き始めました。
派遣社員で全国を転々として、でも、まじめに一生懸命働き、穏やかな日々を過ごしていました。
東京に仕事口を見つけて移ったときでした。
少年はその生い立ちから、よく馬鹿にされていじめられていました。
そんな彼に声をかけ、かばってくれた人がいました。
林、という人でした。
彼は少年をかばってくれただけでなく、こう言ってくれたのです。
「ビトって、いい名前だな」
それまでその名前でいやな思いをしたことは数知れずありました。
からかわれたり、変な名前だと言われたり。
そう言われるのが悲しかったのは、
少年が、その名前を愛していたからです。
嫌な名前だったけれど、でも大好きな名前でした。
なぜなら、お母さんがつけてくれた名前だからです。
めちゃくちゃだったお母さん。でも、お母さんは大好きな映画の大好きな主人公の名前を、自分につけてくれたのです。
その名前は、少年が持っているたった一つの、お母さんの愛でした。
その名前を、ほめてくれた。
そして、何人だろうと関係ないよなとも、その人は言ってくれました。
言うことさえ聞いていれば、その人は優しくしてくれました。
でも、ある日大きな抗争を起こして、少年は林の残忍性を目の当たりにします。
怯える少年に、追い打ちをかけるように、少年は警察に逮捕されます。
林の犯した殺人と傷害の罪を着せられたのです。
少年はびっくりしました。否定していたら、刑事さんから殴る蹴るのひどい暴行を受けました。
怖くなった少年は、自分がやったと認めてしまいました。
そうして、彼は少年院に入ることになったのです。
17歳でした。
6年の月日が流れ、少年は青年になっていました。
刑務所から出て、町村宗助、という保護司の方にお世話になることが決まりました。
町村さんはとてもいい人でした。
昔の仲間のキンタやひとなつこいブルたちといっしょに、町村さんの愛情を受けて、
青年は少しずつ、心を修復していくことができました。
人を信じることができるようになりました。
夢を持てるようになりました。
自分の未来を思い描けるようになったのです。
そして、その夢をかなえるために、彼は一生懸命努力を始めました。
そんな最中、昔の対立していたグループの一員が同じバイト先に入ってきました。
彼は弱みを握っているため、青年をいいように利用していました。
でも、青年はもう利用されることになれきっていました。それは、青年の人生にとっては当たり前のことだったのです。
そうしているうちに、その男は、青年に覚せい剤取引の罪をおしつけようとしました。
青年はまたしても逮捕されました。でも今度は、以前とは違いました。
青年には、本当に心配してくれる人たちがいたのです。
彼らが奔走して、敏腕弁護士さんに弁護を頼んでくれました。
青年の冤罪は晴れ、無罪放免になりました。
青年は嬉しかった。
自分のことを心配し、自分のことを弁護して、救ってくれた人ができたことが。
だから、青年は素直にその気持ちを伝えました。「ぼくは、先生のことが好きですよ」
嫌われているとしても。
もう一人、青年を驚かせる人がいました。
花ちゃん、という声の出ない女の子でした。
彼女はなぜか青年に目いっぱいの好意を寄せてくれました。
青年はとまどいます。なんで?
今までの人生で、女の子に好かれたためしはありません。初恋の子には、フォークダンスで「なんかキタナイ」と手を振り払われました。
そんな自分が好かれるわけがない。
そう頑なに思い込んでいた青年。
でも、女の子の想いは真剣で一途でした。そして、彼女もまた辛い過去をもっていることを知りました。
彼女が本当に自分を好きなんだと分かったとき、青年は強くなろうと決心しました。
彼女を守れるような人間になろう。ずっと守っていこう、と。
でも、不幸が次々に襲ってきます。
町村フーズが食中毒疑惑に巻き込まれ、大手の会社の罪をなすりつけられて危機に立たされました。
林が出所し、ビトをまた自分の仲間にしようと画策し始めました。
裏から手をまわしてビトの居場所を奪おうとした林は、社長を追い詰めます。
そして社長は自殺してしまいました。
それでも青年が自分になびかないと知った林は、今度は女の子を利用しようとします。
それもうまくいかず、林は最後に、青年を利用して自分の復讐を果たそうと企てるのです。
林は青年が無類のお人好しであることを知っていました。自分と同じ孤独を抱えていることを知っていました。どうすれば青年が自分の言うなりになるかもよく分かっていました。
自分を差別しない存在に極端に弱く、その相手から無理難題を押し付けられても唯々諾々と従ってしまう。林は青年が自分に恩義を感じていて、簡単に断ち切れないことを読んでいたのです。
そこで彼は青年に哀願します。最後でいいから、手伝ってくれ。
あれだけ暴君だった林に頭を下げられ、彼を自分の人生から断ち切るにはかなりの苦しさを覚えていた青年は、ついついその懺悔と懇願に負けてしまいます。
そして、交番襲撃の罪を、かぶせられてしまいました。
そのあと、青年を助けに来た少女が、林に見つかって、目の前で殴る蹴るの暴行を受けました。それは、青年に甲斐を殺させるためでした。
林は青年をベッドに拘束し、拳銃をつきつけて脅します。そのうえ青年の目の前で、少女を犯すといったのです。
お前が言うことを聞かなければ犯す、と。
少女は青年を愛していました。それはもう、青年にも分かっていました。
林に好きにされてしまったら、少女がどんなにボロボロに傷つくか。
そして林は、それだけにとどまらず、彼女が抵抗でもしたら、彼女を躊躇なく殺してしまうかもしれません。そんな人であることを青年は知っていました。
林は青年が自分に弱いことを知っています。
自分の願いを最後には聞き入れてしまうだろうと思っています。
だから強気で青年に迫ります。
逆上した青年から銃をつきつけられても平然としてます。
青年には撃てっこないからです。
だから、彼は、言ってはならない一言を口にしてしまいました。
「このフィリピン野郎が。」「あのねーちゃんやっちまうぞ」
三度目でした。一度目は林の殺人の罪を着せられ、二度目は、最後の願いとだまされ、三度目に、信じていた根幹が崩されたのです。
とっさに、青年は引き金を引いてしまいました。
林は死にました。
もう、自分の人生は終わりだと青年は思いました。
少女と一緒にその場を離れ、町をさまよいます。けれどもパトカーを見て、捕まるのは時間の問題だと悟ります。捕まれば、もう二度と少女と会えないかもしれない。
だから、自分の人生で一番穏やかだった場所。一番幸せに過ごせていた場所に、彼女を連れて行こうとしたのです。そこは彼の思い出の中で宝物だったから。だから、少女に見せたかった。
富士山を見て、彼は自首を決意します。けれども彼を憎む刑事の画策によって、青年は凶悪犯に仕立て上げられ、捕まって裁判にかけられました。
みんなが必死に自分を救おうとしてくれました。
けれど、判決は「死刑」
そして、青年は林を殺した罪の重さに苦しみます。
自分の人生をさんざん蹂躙した林。極悪非道で極度に暴力的で冷酷だった林。どこかに殺しても仕方がなかったという思いがあったのかもしれません。しかし、林の母親の言葉を聞いて、林もまた自分と同じ孤独な存在だったことを知ります。
殺されていい命なんてない。
林もまた、懸命に生きていた命だった。それを握りつぶしたのは、自分のこの手。
だから、青年は自分も死のうと思いました。
林を殺した罪は、自分の命でしか贖えないと思ったのです。
必死に説得してくれる弁護士の声も、必死で訴える少女の涙も、遠いところのできごとでした。
そして青年は少女に、もう会わないと告げるのです。
少女を自分から解放してあげるために。
2015年。
死刑執行にサインがされました。
青年の死刑が、執行されます。
弁護士は青年を救うために最後まであきらめず奔走します。
間に合うことができるのか。
それは来週。
哀しすぎる人生だよね。
ビトは結局、自分の存在意義を感じられるようになりかけたら潰され、
自分を好きになれそうになったら潰され。
一度も心底から笑える瞬間を持てないまま生きてきてる気がする。
林を殺した今、心底から笑うのは難しいかもしれないけど、
でも、生きて償って、償いを胸に秘めつつ周囲の人の幸せのために笑える人間になってほしい。
自分の価値をちゃんと実感できる瞬間を彼に与えてください。
ドラマ制作者の方々。
お願いしますよ。
このまま死ぬなんて絶対だめですよ。
第一視聴者が救われないよ!3ヵ月返せ!と思っちゃうよ。
ビトを救ってくれたら、ありがとうこの3か月、だよ。
結末によってこれほど印象が変わるドラマも珍しい。
すべては結末にかかっている。
星に願いを。