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売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

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2019.02.10
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SNSで繋がっている米国紳士服デザイナー、ジェフリーバンクスさんがアップした書き込みで、パーソンズ・スクール・オブ・デザインの元ファッションデザイン学部長フランクリゾーさんの逝去を知りました。リゾーさんは数多くのデザイナーをセブンスアベニューに送り出した伝説の教育者、ひとつの時代が終わったような気がします。

かつて原宿クエストで「クエスト・ニュースタンダード・フォーラム」の企画立案とコーディネーターを担っていたとき、私はパーソンズの実践教育を日本のファッション業界に知って欲しくてリゾー学部長をゲストとして招聘しました。IFIビジネススクールが開講する直前のことです。

ちょうどその頃、うちのご近所の奥さんが突然訪ねてきました。私がファッション業界で働いてると聞いて、高校3年生の娘Yちゃんの進路を相談しに来ました。ご自身は親の命令で好きな道に進めなかったけれど、娘には好きなデザインの道に行かせてやりたい、どうせ行くなら一番いい学校に行かせたいのでアドバイスをください、と。

ニューヨークのパーソンズがどんな学校なのかを説明し、ちょうどいまファッションデザイン学部長が来日中なので話を聞いてみてはいかがでしょう、とリゾーさんを紹介しました。Yちゃんは当時金沢市にあったパーソンズの提携校KIDI パーソンズで基礎課程を終えて渡米、パーソンズ本校に入学しました。その2年後、Yちゃんの様子を見に行った奥さんが「もの凄い量の宿題にびっくりしました。徹夜しても完成できないくらい厳しい学校」と。パーソンズは半端な宿題ではありません。

リゾーさんはよく言いました。「デッサンを上手に描けとは言いません、たくさん描けとは言います。たくさん描くうちに1つのデザインリソースをどんどん膨らませる術を身につけらる」、つまり学生のデザイン構成力、展開力を伸ばす教育手法なのです。「粗っぽくても良い、たくさん描けと言ってます。描けないのはただ怠けているのです。日本人留学生は上手に描こうとするからスピードが遅い」ともおっしゃっていました。確かに、3年生までは日本人は見かけますが、卒業となると少ないですね。

ニューヨーク出張のたび、私はジュニア(3年生)、シニア(4年生)に特別講義をしてきました。授業が終わると受講生たちは教壇に集まり、自分のポートフォリオを私に見せますが、全ての学生のスケッチブックには1ページに同じようなデッサンが必ず数体描いてあります。既製服の歴史の長い米国では1つのネタを膨らませて一体感のあるコレクションを創作する教育だからでしょう。

リゾー学部長の時代、パーソンズにはCRITIC(批評家)という名物講座がありました。リゾーさんが著名デザイナーや大手アパレル企業の企画室を説得し、学生にアトリエワークを体験させる実践カリキュラムでした。学生は7、8人のグループに分かれ、ダナキャランはじめセブンスアベニューのデザイナーの下でアシスタントデザイナーになったつもりで創作を始めるインターンシッププログラムです。

最初はブランドの理念、歴史、デザイン哲学をデザイナー本人から教わります。次に学生は売場で実際に販売されている商品をチェック、デッサンに入ります。デザインがまとまった時点でデザイナー本人からアドバイスを受けて修正し、トワルを組みます。トワルが完成するとアトリエで実際に使っている素材が提供され、サンプルが完成した時点でデザイナーの批評を受ける仕組み。

「原価の高いレースをふんだんに使ったら小売価格はどうなると思う?」、あるいは「ダナキャランがこんな服つくるわけないでしょっ!」と、デザイナー本人からきつい指導を受けますが、一方でデザイナーは一連の作業を通して自社に合いそうな才能を発掘、卒業間近にスカウトします。CRITICはデザイナーを目指す学生を実践で鍛えると同時に学生と企業のお見合いでもあるプログラムでした。

CRITICで完成したサンプルは年度末のガラショー(業界リーダーが千人以上ブラックタイで出席するファッションショー。1億円以上の収益金は奨学金にまわる)で発表、STUDENT OF THE YEAR(最優秀学生)が選ばれます。このプログラムを引っ張ってきたのがリゾー学部長、彼が退任してまもなくCRITICはなくなりました。彼の人材を育てようとする情熱と教育理念に共感し、著名デザイナーも大手アパレル企業も協力を惜しまなかったということですね。

リゾーさんとはたびたび会食しました。CFDA(米国ファッションデザイナー協議会)のスタンハーマン会長を紹介してくれたのも彼でした。普通に会話しているときはほんとに優しい目線のおじさん、でも話が教育のことになるや表情は一変、怖い先生の顔になるのがとても印象的でした。米国ファッションデザイン界の偉大なメンター、ご冥福をお祈りします。






Last updated  2019.04.24 16:11:23
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