1868913 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

売り場に学ぼう by 太田伸之

PR

Profile


Nobuyuki Ota

Calendar

2019.09.02
XML
建築家の平沼孝啓さんに誘われ、昨年の伊勢神宮大会に続いて今年も「建築学生」(主催NPO法人アート&アーキテクトフェスタ)ワークショップの最終発表会に参加しました。今年の会場は島根県出雲大社の境内。これまで高野山金剛峰寺、比叡山延暦寺、平城京跡、琵琶湖竹生島、明日香村古墳、伊勢神宮と歴史的な場所で開催されてきましたが、今回は日本神話の聖地、私には初めての訪問でした。

このワークショップは全国の大学、大学院から応募して選ばれた学生たちがランダムにグループ分けされ、開催地の歴史や風土、文化、地場産業などをまず調べ、設計するフォリーのコンセプトをグループで話し合います。次にデッサンを描き、中間発表でプロの建築家や構造家のチェックを受けて修正、途中グループ内で激しく議論するようです。

最後に現地に乗り込んで約1週間合宿しながらフォリーを製作、プレゼン当日一般の方々にもお披露目します。フォリーの製作には地元建設業者の方々が素材の加工や技術面で献身的にサポート、事務局運営は応募してきたボランティアの若者や学生さんたち、手作り感満載のイベントです。

大学でも教鞭をとっている建築家や構造家の先生方の熱血指導も実に素晴らしい。中間発表、公開日前日の施工時も熱心に指導され、ときには学生と一緒になってフォリーを組み立てる先生もいます。自分の学校の学生でもないのに、まるで担任の先生みたいに。そして当日プレゼンでの、超辛口なんだけど愛情たっぷりの講評、これが非常に感動的なんです。

  

  

今年の出雲大社は、日本書紀にも登場する国つくりの原点。祭祀を行うトップの名称が一般的な「神主さん」ではなくて「国造(こくそう)さん」と呼ぶ、読み方変えたら「くにつくりさん」、しかも千家さんと北島さんと2つの家が代々務めてきました。ネット解説によれば南北朝時代に2家に分かれたんだとか。大きな屋根、言い伝えられる長い階段(出雲大社見学が初めての私は長〜い階段があるものと想像していましたが、実際は違いました)、それらを支える巨大な柱、巨大しめ縄、石州瓦、ほかにもこの地方には因幡の素兎や神在月(神無月に全国の神様がここに結集するので)の逸話があります。これらを学習して参加学生はデザインしています。

  
   (最優秀賞)

8つのグループは合宿の宿舎でもあった公共施設で自ら材料を加工し、組み立て実験をしてから会場の出雲大社境内に搬入、自分たちが選んだ地点にフォリーを建てます。建てながらあれこれ修正を加え、どうにか発表の前日に完成させます。発表当日、まず講評者が8つのフォリーの前で各グループから製作意図や苦労をヒアリング、そして審査会場に移動して学生のプレゼンを受けます。グループ長はテーマを決めた理由、原材料選択や製作の苦労話をデッサンや模型を見せながら発表、1グループごとに講評を受けます。

そして、今年最終的に最優秀賞に選ばれたのはは、木材をボルトで止めたフォリー(写真上)を製作したグループ、写真のように建島哲さん(多摩美術大学学長)から賞状を贈られた3人組でした。メンバーはたったの3人、グループ発足当初は他のグループ同様5人のメンバーでしたが、作業が進行する途中で意見が対立して2人が離脱、残された3人でなんとか作り上げました。ワークショップ世話人である平沼さんは、上級生が抜けて分裂状態になってしまい、場合によっては他のグループにメンバーを吸収させようかと思っていたとか。3人でよく頑張りましたね。

  
   (最優秀賞の学生たち)

惜しくも次点は薄い鉄板で(写真下)組み立てたグループでした。実は途中休憩の時間にこのフォリーを巡って講評者の間でちょっとした議論がありました。鉄板使っていいのか、鉄板加工処理の問題、構造物としてどうなのか等々。私も採点時に最優秀賞のグループに最高点を入れようか、それともこの鉄板グループにしようか迷いました。が、私も鉄板フォリーのグループは減点、理由は2つあります。

  
   (第2位)

プレゼンでは、製作中に鉄板で腕や指に怪我をする苦労がありました、と。怪我をしてまで頑張ったんですから立派なんです。でも、このフォリーはそれほどに危険な箇所があります。当日境内を走り回る一般参拝者のお子さんたちが怪我をしないような工夫が施してあれば拍手なんですが、それはありませんでした。仮にここでお子さんが怪我をして救急車で運ばれたら、会場提供の出雲大社に大迷惑がかかります。建築家はひとりよがりではダメ、と私は思います。

もう一点、この鉄板のトンネルは本殿に向かってだんだん狭くなっています。個人的にこれがどうにも納得できず「向きは反対では?」と質問しました。これに対して、トンネルをくぐる参拝者が歩き進むうちに気持ちが本殿に集中できる、と説明がありました。参拝者を起点に考えればそれもありでしょうね。

しかしながら、出雲大社本殿の大きなオーラ、御利益をトンネルを行く参拝者がありがたく受け止める、つまり起点を本殿に置いて考えれば、本殿側が広く入口側が狭い設置方法ではないでしょうか。建築にも宗教にも見識のない私の全くの個人的な意見です。


大社を軸に考えてフォリーを設置するか、それとも参拝側(あるいは製作者側)を軸に考えるかによって、設置ポジションは違います。もちろん、どっちでもいいじゃないかという意見もあるでしょうが、日本神話のルーツでもある聖地に建てるフォリーならば大社を心より敬い、「大社ファースト」で設計あるいは設置すべきじゃないかと思うのです。

だから、このフォリーの存在感、製作の苦労は十分認めながらも、作り手の自尊心みたいなもの(言い方もあるでしょうけど)にちょっと嫌気がさして最高点を入れませんでした。将来建築家を目指す若者には「作り手ファースト」には絶対にならないで欲しいのです。住宅で暮らす人、建物で仕事する人の立場になってデザインを考案して欲しいなあ。

  
   (布で出雲の雲を表した作品)

最後のプログラムは講評者の総評。私は建築の専門家ではないので、「ファッション同様、造形力だけではダメ。美しいものにはワケがある」を説明しました。美しいもの、感動させるものには境内を歩く参拝客のお子さんたちもが寄ってきます。お子さんたちはフォリーをただの遊具と思うかもしれませんが、彼らにとって魅力的なものにしか集まってきません。人を惹きつける美しいものを学生さんには将来建築家として作って欲しい。

それともう一点、布を壁素材として使用しているグループが2つあり、苦言を。どちらも生地の活かし方に工夫が足りません。布の材質(雲を表すならもっと透けた布を)、布の裾はフラットなカット、これでは面白くも何ともない。布をランダムに切るも良し、ドレープやシワを施して切り刻んでも良し、布の貼り方を工夫し留め金が見えない処理も考えて欲しかった。布は木材、竹、鉄板と違って柔らかいので自由自在、だからこそ自分たちの手でいかようにも変形させられます、と。

  
   (来年開催予定の東大寺)

来年、建築学生ワークショップの舞台は大仏様で有名な奈良東大寺です。東大寺のお坊様は昨年伊勢神宮、今年出雲大社にいらっしゃいました。ご自分の目でイベントの様子を確かめ、奈良時代から続く由緒ある場所を提供するに値するイベントなのかどうか、トラブルが起こらぬよう特にどこに何に配慮しなければならないのか確認なさっていたのでしょう。でも、非常に前向きに考えていらっしゃいます。

挨拶のスピーチで面白いことをおっしゃっいました。今回のフォリーの中に大きなしめ縄のような藁使いの作品がありましたが、「東大寺なら鹿が藁を食べてしまわないか心配ですが....」、と。これには場内大笑いでした。きっと来年も東大寺そのものや奈良の歴史、文化を調べ上げ、ユニークなフォリーが数体境内に登場することでしょう。

それにしても、平沼さんはじめこのワークショップを手弁当で支えている建築家、構造家の先生たちには本当に頭が下がります。よくここまで親身にできるなあ、です。また、ボランティアでこれに関わる若者や現役学生の皆さんも立派、その献身的な姿勢を見ていると誰もが応援したくなります。参加する建築家予備軍はここで貴重な体験を積み、それが血となり肉となるはず、素晴らしい試みです。

昨年も思いました。ファッションの世界にもこんな素晴らしいワークショップ型のイベントがあったらなあ、羨ましいです。事務局ボランティアの皆さん、熱き指導をなさった先生方、数ヶ月ワークショップで経験積んだ建築学生の皆さん、そして出雲の協力者の方々、ホントにご苦労様でした。






Last updated  2019.09.03 00:51:00
[ファッションビジネス] カテゴリの最新記事



Copyright (c) 1997-2020 Rakuten, Inc. All Rights Reserved.