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売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

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2019.11.20
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百貨店側としてパリコレ出張していた頃、ショーを拝見してからブランドの展示会にお邪魔して商品を手にとって確認したものです。ショーを見ているだけではわからない商品の良さもわかれば、逆に案外荒っぽいつくりをしているとがっかりするケースありました。

日本製素材の起用が多いと感じたブランドの展示会では、案内してくれるジャパン社の方に「日本製素材はどれくらい使っていますか?」と質問。近年日本製素材イコール高品質のイメージが定着し、皆さん正直に胸を張って「◯割は日本製素材を使っています」と答えてくれます。これまで私が聞いた中では、フィービーフィロ時代のセリーヌの70%日本製というのが最高です。

フィービー特有の構築的なシルエットを出すためには日本の後加工技術はどうしても必要、だから日本製素材の比率がグンを抜いて高かった。イタリアの素材メーカーに布がずしり重くなるまでスポンジングしてくれと言ったら、恐らく多くのイタリア職人は拒否でしょう。せっかく柔らかい風合いの布をつくったのにどうしてバリバリになるまで布を縮めなくちゃいけないんだ、プロとして要求を突っ返すでしょう。これも立派な職人魂なんですが、拒否されるとなると日本の工場に頼るしかありません。あの頃のセリーヌのウールコートは随分重かったですから。

ニコラゲスキエール時代のバレンシアガも日本製素材の比率は50%だったとショールームで聞きました。恐らく日本の後加工と精密なプリント技術をニコラが高く評価していたからと推察します。現在ニコラがディレクターを務めるルイヴィトンでも日本製素材はそこそこの比率で起用されているのではないでしょうか。

私の知る限り日本の繊維産地のことを一番勉強しているのはなんと言ってもシャネル。全国の繊維産地にはシャネルのテキスタイル担当から声がかかり、継続的にシャネルの生地づくりをしているメーカーが何社もあります。ほかにもラグジュアリーブランドが日本の素材情報を知りたくて私に連絡をくれたブランドも。イタリアの産地とは違った日本の職人気質、クオリティーや納期遵守、新しいことにチャレンジする姿勢を評価するトップブランドはかなりあります。

しかしながら、製造メーカーにはメディアなどに取引先ブランドの名前を公表しない守秘義務があります。ブランド側はどの素材メーカーが布やニットをつくっているのか秘密にしておきたい。ブランドの商品タグには最終的に製造した国名を原産国表示しますから、一般消費者のほとんどは購入したパリ、ミラノのラグジュアリーブランドの素材が日本製なんてことは知る由もありません。日本製素材を起用していても縫製工場が日本でなければ、商品タグにはMADE IN FRANCEあるいはITALYと表記です。

中には、縫製の大部分は中国の下請け工場で、しかし織りネームと整理加工をイタリアで行なって商品タグには堂々とMADE IN ITALYと表記している有名ブランドも。店頭でブランドの販売スタッフに「このバッグ、ホントは中国製だよ。どの工場で作っているか知ってるよ」とからかうと、「そんなはずありません。ウチのはMADE IN ITALYですから」と反論しますが、それは販売スタッフが知らされていないだけのこと、実際には中国製、織りネームの装着はイタリアなのです。

米国で急成長するネット販売アパレルブランドEVERLANEは、自社サイトで工場の情報を全て消費者に開示していることで有名です。工場の名前、所在地のみならず、生産している様子をビデオで流し、工場の従業員の笑顔の写真を掲載して消費者に伝えます。低賃金の工場で従業員を酷使しているブラック企業ではないと証明するためでしょう。この姿勢は立派です。

(プレミアムテキスタイルジャパン展の第一織物ブース)

EVERLANEの情報開示策に触発されたのか、最近びっくりすることが起こりました。なんとプラダが福井県の高密度ポリエステルメーカー第一織物のロゴ「d.」をアウターの商品タグに自主的に表記し始めたのです。世界で人気のブランドが、起用する素材を製造しているメーカーのロゴをわざわざ商品下げ札に表記する、なんと画期的なことか。想像するに、プラダは「d.」を表記してこの素材がいかに良質なものなのかを消費者に伝えようとしているのでしょう。こんな扱い、これまでなかったこと。

ここへきて低価格ファストファッションによる社会的問題が浮き彫りにされました。バングラデッシュでは劣悪な職場環境で低賃金労働を強いてきたファストファッションの下請け縫製工場が崩落、多数の従業員が死亡したことをきっかけに、ヨーロッパの報道機関はどのブランドがブラック工場をこき使っているのか積極的に報じています。ファストファッション側は追い詰められました。

衣料品の使い捨てと売れ残り破棄された衣料品がプラスチックゴミとなって海洋汚染の原因になっていることも繰り返し報じられると、当事者のはずのファストファッションまでもがファッションのサステイナビリティーを叫ぶようになりました。変わり身早いですねえ。

プラダも従来からのナイロンバッグを2年後には生産中止、すべて再生ナイロンを使用すると宣言していますが、ファッション業界全体が急速に地球環境に優しいものづくりについて発言し始め、ひとつのトレンドになっています。

これまでのように製造工場に守秘義務を課して生産情報を非公開にすることより、むしろ情報開示した方が企業として社会から、消費者から高く評価される。サステイナブルなものづくりも同じ、具体的に詳細を公表した方がブランド価値が上がると判断する経営者が増えつつあるように思います。

すでに再生ナイロンへの移行を公表しているプラダは、思い切って生地メーカーの第一織物の名前を商品の下げ札表示で公表したのではないでしょうか。私はプラダを愛用していますが、今回のプラダの公表は1顧客として誇りです。

プラダをその気にさせたのは第一織物のクオリティーの高さ。百貨店時代に福井県の工場にお邪魔したことありますが、ほかのポリエステル工場に比べて丁寧に商品をつくっているのが印象的でした。素材メーカーがトップブランドにロゴ表記してもらう、世の中変わってきました。今後、日本素材の製造元がトップブランドによってどんどん公表されるといいですね。






Last updated  2019.11.25 22:36:45
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