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売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

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2020.02.12
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どんな経営者でも、一緒に働く従業員の人員整理なんて絶対に自分の代ではやりたくないでしょう。いくら業績が悪化しようが、株主や金融機関にリストラの必要性を迫られようが、従業員とその家族を窮地に追い込むようなことを喜んでやる経営者はいません。

でも、社会環境が変わって仕事の仕方が大きく変わり、社内に人員がダブついてきたら、あるいは業務革新で既存の職種そのものが不要になったのなら、会社の存続のため経営者は冷徹に判断せねばなりません。バブル経済の終焉以降、退職金の積み増しで希望退職を募る会社は増えましたが、どの経営者にも苦渋の選択のはずです。

一昨日、クローズドの勉強会だったので参加者の皆さんに具体例をあげてはっきり申し上げました。デジタル社会が進み、ビジネスモデルが大きく変化する世の中では、これまで重要だった職種そのものが不要になります。ファッション流通業では、バイイングをしなくてすむバイヤー職や、取引先の小売店に毎日のように顔を出す営業職はほとんど必要なくなりました。ビジネスモデルが大きく変化したのに、いまだ「バイヤー」「営業」の肩書の名刺を持っている人はたくさんいます。経営上、これはまずい。

小売店が顧客管理から在庫管理、はては売上管理までベンダーに委ねる、つまり小売業ではなく貸しビル業化しているのに、商品本部、バイヤー職は必要ないし、ベンダーとの契約条件や決済システム刷新によってマネージャー職ですら必要ない会社もあります。そのことは小売店経営者なら気がついているでしょうが、過去からの慣習や小売業としてのプライドからバイヤー職、マネージャー職を整理できない。ベンダー側も同じ、店頭に張り付いてケアしてきた営業職は取引条件変更で過去の遺物とわかっていても、全国の営業所や営業職を整理できない。

都内には広い館で働く従業員(ベンダーからの派遣販売スタッフは除く)の数が100人にも満たない百貨店もあれば(これを百貨店業と呼ぶべきかどうか)、1000人をはるかに超える従業員が働いている百貨店もあります。もちろん後者はサービス面で100人にも満たない百貨店よりお客様に支持されているのでしょうが、両者で販売しているブランド商品そのものに違いはありません。顧客満足度は別として、単純比較でどちらが収益上楽な経営かと言えば、明らかに少人数体制の前者。

前者の経営者は、小売業ではなくディベロッパー業と自覚し、ローコストオペレーションを遂行なさっているでしょう。しかしお客様の目線からすれば、この店は間違いなく「百貨店」として映っているはず。後者は百貨店の自負を持って営業、前者に比べれば販売サービス面のみならず別注品展開などマーチャンダイジング面で「百貨店」らしい店と言えます。

オンラインショッピングがリアル店舗のビジネスをどんどん侵食する時代に、後者の百貨店が誰の目にもオムニチャネルを進めていると映る仕組みを構築できたら、関わる人員が少ないオペレーションでなくてもどうにか採算はとれるかもしれません。しかし、オムニ化を本気で進めるには商品開発、商品調達、物流面で相当のリスクを負わないことには難しく、果たして日本はリスキーなビジネスに踏み出せるでしょうか。はっきり言って無理でしょう。

となると、店舗運営に関わる人員を最小限にとどめたローコストオペレーションの方に軍配は上がります。これでは百貨店業ではなくただの不動産業じゃないかと業界人やメディアに糾弾されようが、お客様の目に百貨店と映ればいいんです。店にバイヤーやマネージャーの名刺を持つ社員がいなくても、百貨店らしく営業することは可能です。

ローコストオペレーションに転換、あるいは不採算店を閉鎖すれば、当然余剰人員は増えます。ベンダー側で言うなら、毎日店頭で交渉しなければならない相手がいない百貨店に担当営業は不要。不採算店の閉鎖がどんどん続けば、ベンダー側の地方営業はいらなくなります。当然こちらも余剰人員は増えてしまいます。

一方、ネット通販のプラットホーム事業者を利用しようが自社単独サイトで販売しようが、今後オンラインショッピングの比重はもっと高くなりますから、サイト運営や物流システム含めてこれまで以上に必要な人員は増えます。リアル店舗ビジネスで生じる余剰をオンラインビジネスにシフトする、どんな経営者もそう考えるでしょう。余剰と新たに必要な人員がイコールなら問題はありません。しかし、余剰人員の方がはるかに多い場合、経営者は苦渋の選択をしなくてはなりません。

日本のみならず、現在のファッション流通業はもうそこまで来ています。販売現場以外の本社と物流の要因計画を抜本的に見直さないと、ファッション系のみならず流通業はみな生き残れない世の中になってしまいました。逆に、リアル店舗ではお客様と日々接する販売スタッフの要因計画、そのレベルアップを底上げしないといけません。オムニ化を進めるにも、リアル店舗の強化は重要課題と私は思います。

ビジネスモデルを大転換しなければならなくなった経営者、でもわかっていてもなかなか行動できない、行動しない経営者は少なくありません。自分の代では嫌なことはやりたくない、負の財産を整理したくないので次世代経営陣に先送り、結局あの大手電機メーカーのように混乱します。

また、腹をくくって負の財産を整理すると、非上場企業はともかく上場企業は株主やアナリストたちが騒ぎますから、改革断行すると同時に責任をとらなければならないケースもあります。上場企業の経営陣はここが辛い。悪き慣習にメスを入れる代わりに自分のクビを差し出す、不人気な人員整理をする代わりに自分も退陣する、武士みたいな経営者が会社を救うということを理解してくれる人が増えたらいいんですが....。

勉強会で言いました。最近メディアで話題になっている企業、自分の代で改革断行したんですから経営者を褒めるべきではないか、と。取材陣も冷静に分析して記事を書いて欲しいですね。でないと、決断しない自己保身の経営者がこの国で増えてしまいます。






Last updated  2020.02.12 14:56:30
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