2007/05/23(水)02:17
彼女の忘れ物
「マスター、ジントニック下さい。」
「ヴィクトリアン・ヴァットで作ってもらっていいですか?」
はい。^^
グラスにライムを絞り、氷を入れる。
ヴィクトリアン・ヴァットを注ぎ、トニックで満たす。
バースプーンで、ジンを浮かせるように軽くステア。
お待たせしました。^^
彼は、音楽に耳を傾けながら、静かにグラスを傾けていた。
僕も、グラスを磨きながら音楽を聴いていた。
グラスのジン・トニックが3分の1位になった頃だろうか、
静かだった彼が口を開いた。
「マスター。」
「この曲、好きなんですか?」
はい。^^
好きです。どうして?
「以前、来た時もかかってたから。」
そうでしたか。
「その時、初めて聴いてね、ドキッとして、
一目惚れして、スタッフの人にアルバムジャケットを
見せてもらって、すぐに買いに行こうとしたんです。」
スタッフもこのアルバム好きだから。^^
「いいですよねぇ。」
いいですねぇ・・
じゃぁ、今は家でも聴いてるんですね。
「・・実は買ってないんですよ。」
そうですか。
「でも、聴いてますよ。^^」
はぁ?
「・ジャケットを見せてもらった時にね、あれっ?!って。」
「見た事あるような・・って気がして、引越しした時のままになってる
ダンボール箱の中を探してみたんです。」
「そうしたら、やっぱりあったんですよ。」
「・・・」
「前の彼女に、”すごくいいから聴いて見て!”って
言われたCDで、ずーっと聴かずにいたんです。」
「ピアノをやってた彼女でねぇ・・・」
「なんか甘酸っぱいような切ないような気持ちに
なっちゃいましたよ。ははははっ。^^」
確かに甘酸っぱいですねぇ。^^
「あの時に聴いてたら、なんか変わってたのかなぁ・・」
「ココ!!」
「思い出の場所になっちゃいましたよ、はははっ。」
いいお話をありがとうございます。^^
「マスター、おかわりを!^^」
はい。^^
また、静かに音楽が流れ出した。
『Bill Evans Trio』
♪Waltz For Debby