2017/07/09(日)22:31
くらもちふさこ 『 おしゃべり階段 』…… 「嫌われる」 のも大切な経験
★ 『 おしゃべり階段 』 くらもちふさこ (1978~79年作品)
前回の日記で、中学の時に、保健体育の若い教師に 「無視されていた」 という経験を書いた。
同窓会の二次会の席でチラッとその話をしたら、クラスが一緒になったことのない女性から、 「気のせいでしょ~。なんにも嫌われる要素無いじゃない。成績いいし、可愛いかったし…」 と一笑に付された。
「可愛いかった」 云々は完全なお世辞にしても、実は、私にも、嫌われた理由は特に思い当たらないのである。
2~3年生の頃になると、私も多少は反抗期で態度が良くなかったような記憶はあるが、1年生の前半は、おとなしすぎる位で、先生に口答えすることなど無かったし、むしろ、中年男性の教師たちには気に入られていた位だ。
ところが、その保健体育の教師には、入学直後の比較的早い時期から、 「この先生、私のことが嫌いなんだな」 と常に感じさせられていた。
少しでも可能性のある 「その理由」 を考えてみた。
〇 その教師自身が、おとなしい女子が苦手だった?(大学出たての若い教師だったので、活発な女の子とはフレンドリーに喋っていた)
〇 私には覚えが無いが、気づかないうちに、その先生に悪い態度 (無視するとか) をとった?
〇 3年生に在籍していた私の実兄のことが気に食わず、妹の私まで嫌った?
〇 私の容姿が嫌いだった?
〇 私の邪悪で生意気な本性を見抜いていた?
〇 別に嫌っていたわけでは無いが、全く眼中に入らず、意図せずに無視していた?
〇 私のことを女として意識する余り、まともに見られなかった?
勿論、 「最後の」 は冗談だが、とにかく、目もろくに合わせてくれなかったのは確かなのだ。
授業中、一切、私を見ないし、当てることもない。
休み時間に私と一緒にいた女子生徒と親しげに話すことはあっても、私には一切、話しかけない。
「無視」 という行為は、周辺の人は案外気づかなくても、やられた本人には、身にしみて感じ取れるものだ。
同窓会の席で、問題児だった男子が、 「英語の〇〇先生 (女性) には、3年間、1回も当てて貰えなかった」 とボヤいていたが、彼にとっては、他の男性教師に殴られたこと以上に、イヤな記憶らしい。
今回の同窓会で、このことを思い出すまで、余り結びつけたことは無かったのだが、教師に嫌われる辛さを、かなり、さりげなく描いているのが、冒頭に挙げた 『 おしゃべり階段 』 だ。
ヒロインは物語の冒頭で、人気の体育教師に髪型を見咎められ (天然パーマを誤解) 、一方的に叱りつけられたのがキッカケで、その教師から疎まれるようになる。
くらもちふさこの描くリアリズムについては折に触れて言及してきたが、こうした、 「教師による理不尽な差別」 が、案外、些細なキッカケで、大した悪意もなく綿々と続いていく…というエピソードが、身にしみて共感できる。
ヘタな作家なら、最終的に 「和解させて双方ハッピーエンド」 みたいな結末を描きがちだが、実際には、この作品のように、何も解決しないまま、生徒本人だけが内に痛みを抱えて卒業していくのが普通なのだ。
こうした痛みを消化しながら、ヒロインが成長していく過程 (中学~予備校時代) をテンポよく描いている。
「教師が未熟」 だと言ってしまえば、それまでだが、生きていく中、どうしようもなく、 「うまくいかない」 人間関係があるということ、その葛藤こそ大切な経験であることは、ずっと後になって分かる。
最近の恋愛漫画に比べると、余りにあっさりと時が進行していくので (コミックス2巻) 、物足りなく感じる人もいるかもしれないが、一つ一つのエピソードに全く無駄がない。
「友情、恋愛をテーマとした少女漫画」 を代表する名作だと思う。
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