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さすらいの天才不良文学中年

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悪魔の投機術入門(第2回)

悪魔の投機術入門(第2回)


 さて、投機によって、一財産築こうという話しである。第2回目は、やはり投機の王道として、相場(先物)の話しをしてみよう。


1. 先物とは本来安全なものである                

      
 先物とは本来安全なものであると書くと、今まで先物とバクチとは同じだと教わってきた人たちは、一様に目をむく。

 しかし、先物とはもともと実需の世界で、次のように発達してきたものと考えてみたら良いだろう。

 例えば、あなたが銅を加工して特殊な食器を作る職人であったとして、幸い1年先まで仕事は予約で詰まっているとしよう。ところが、銅の値動きは結構激しいので、販売価格が既に決まっているとしたら、仕入れ価格が心配で夜も眠れなくなる。銅の仕入れ値が倍に上がってしまえば加工賃は吹っ飛んでしまうし、逆に半分にでもなれば大儲けになるからである。

 こう考えると銅の加工どころではない。銅の値動きを予測して高くなりそうだと思えば早めに買い、安くなりそうだと思えばぎりぎりまで買うのを待たなければならない。

 そうこうしているうちに銅の売り買いだけでも立派に利益が出せるように思えてしまい、銅の加工技術を磨いたり、コストカットして地道に儲けようとすることがバカバカしくなってくる。これでは、世の中は良くならない。真面目な銅職人が本業をおろそかにして銅の相場で儲けてしまうと(大抵は失敗するが)、相場を当てた本人が豊かになったとしても、社会全体が豊かになるわけではない。やはり本業で儲けなければ、国は発展しないのである。

 そこで登場するのが先物である。半年先に銅を仕入れるとしたら、そのときの仕入れ価格を今から確定しておくことが出来るので、銅の値段に一喜一憂しなくても良くなる。先物によって、銅の値動きというバクチの要素を軽減出来るので、本業に精が出せるようになる。先物はバクチだと習ってきた人たちは、こういう説明を聞くと腰を抜かしてしまう。

 さて、先物は、将来銅を買いたい銅の加工業者と銅を売りたい銅メーカーの間で成立するわけであるが、ことはそう簡単ではない。

 上述は、実需を背景にした先物(これをヘッジと呼ぶ)であるが、半年先に銅を売りたい人と買いたい人が同数いるとは限らない。売りと買いとにバラツキがあれば、場が立たないか、大きく値段が偏ってしまうからだ。このバラツキの穴埋めのため、純粋に投機を目的として先物に参加する人たちが必要となり、銅(商品)だろうが、株だろうが、為替だろうが、必ず投機を目的とする参加者がいて初めて先物市場が成立しているのである。


2.先物業者の手口、教えます                     
   

 さて、読者諸兄は、勤務中に投資の勧誘の電話を受けたことがあるに違いない。まあ、通常は当り障り無いことを言っておけば断われるのだが、先物業者だけはかなりしつこい。では、何故しつこいか、今回はその背景と手口とを述べてみよう。

 先物業者には2種類ある。まず、大手商社も立派な先物業者である。しかし、商社は同時に現物業者でもある。そこが、「トウモロコシ儲かりまっせ」と電話してくる先物業者とは根本的に違う。大手商社(総合商社)は現物を背景にして先物市場に参加しており、実際にシカゴの穀物業者等と仕入れ契約を交わしている。ところが、一般の先物業者は現物を一切持たないで、ただ単にお客とお客をつないで手数料を稼いでいるだけだ。

 実はここが大きなポイントである。相場で力があるのは、現物を持っているものである。現物をぶつければ相場は下がる。だから、総合商社は、相場が下がると思えばそれを見込んで空売りをしておき、現物をぶつけて下がり相場で空売りしたものを買い取るというテクニックを使うことが出来る(前回の安田善次郎の話しを想い出して欲しい)。電話の勧誘で先物に手を出す人たちは、そういう仕組みを知らないで手を出してしまい、損をしてしまう人たちなのだ。本当にトウモロコシで儲かるなら、お客の方から先物業者の店に出向くに決まっている。

 では、ここで、先物業者の手口を紹介してみよう。上述のとおり、彼らは売買手数料で稼いでいる。これはつまり、客には売買させなければいけないということなのだ。

 では、そのためにどうするか。まず、客に儲けさせるわけだが、会社に損をさせてまで客に儲けさせるのではないからだ。

 その手口は、まず、売り建玉(ぎょく)と買い建玉を作る(今手許に先物業者のパンフレットがあるが、東京トウモロコシの場合は100トンを1枚と呼び、例えば売りと買いとの客を10枚ずつ用意する)。売り建玉を持っている客は、相場が下がれば儲かる。逆に買い建玉を持っている客は、相場が下がれば損をする。つまり、売りと買いとの客を自分で同時に作っておけば、相場がどちらに転んでも、必ずどっちかが儲かる。そうして儲かった客には利食いさせておいて、相場の世界に引き込むのだ。

 売りと買いの客を結びつけておくわけだから、確率は二分の一なので、必ず片方が儲かり、片方が損をする。そうして、相場を張っていくと10人いたお客は5人に減ってしまう。残った5人もまた、次には半分に減ってしまう。お客の半分必ずはパンクしてしまうので、毎日電話営業をして新規の客を開拓する必要があるわけだ。しかし、中には欲の皮の突っ張ったのもいるから、そのうち古い客にも「今度はもうけさせますからね」なんて言って、また、参戦させてしまう。

 先物相場はそうした循環によって成立しているのである。まことに世の中は、面白い。
(以下、次号)



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