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さすらいの天才不良文学中年

さすらいの天才不良文学中年

巨星墜つ(実相寺昭雄監督死す)

巨星墜つ(実相寺昭雄監督死す)

 また一人偉大な監督が亡くなった(写真は実相寺昭雄監督「曼荼羅」ATG、71年)。


曼荼羅


 「ウルトラマン」シリーズなどで知られる実相寺昭雄(じっそうじ・あきお)監督である(11月29日逝去、東京芸大名誉教授、胃がん、69歳)。

 「ウルトラマン」(67年)をはじめ、「ウルトラセブン」「怪奇大作戦」など特撮作品での力量は証明済みである。斬新なアングルや照明で当時のテレビ界に新風を吹き込んだ切込隊長であった。 ウルトラセブンが「ちゃぶ台」をはさんで宇宙人と対話する伝説のシーンを撮った監督でもある。

 TBS(当時はラジオ東京)に入社し、元々はサラリーマンの身であった。

 しかし、絵が撮りたくて、あるとき美空ひばりの鼻の穴の鼻毛まで見えるほど「どアップ」で絵を撮る。無論、前衛演出家としては合格であっても、商業演出家としては失格である。しかし、実は、これが実相寺監督の真骨頂である。

 昭和44年(69年)、自主映画「宵闇せまれば」を製作し、監督デビューする。翌年TBSを退職し、実相寺プロを設立。大島渚の推薦を受けて、名前が知られるようになる。エロを通して、日本の精神的風土にひそむ人間の本質に迫った「無常」(ロカルノ映画祭グランプリ)や「曼陀羅」(ATG、岸田森、写真)を創る。

 「屋根裏の散歩者」「D坂の殺人事件」で江戸川乱歩の世界も映像化する。最近では「乱歩地獄(鏡地獄)」でも監督の演出が光っていた。何せ美空ひばりの鼻毛である。

 おいらは思うに、実相寺監督の表わすあの耽美的な映像に入り込むと、最早他者の追随を許さない独壇場になったような気がする。

 「生きるなんて、所詮死ぬまでの暇つぶし」が監督の口癖で、ここ数年は、かつて演出した特撮番組「シルバー假面」(12月23日公開)をリメークしたり、来年7月に新国立劇場で上演予定の東京二期会オペラ「魔笛」(モーツァルト)の演出を手がけるなど精力的な仕事をこなしていたが、ご本人は死が近いことを察知していたのではないだろうか。

 惜しい人をまた一人亡くした。合掌。




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