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さすらいの天才不良文学中年

さすらいの天才不良文学中年

 福袋が俺を 掘り出し物

 福袋が俺を呼んでいる(前編)

 目指すは渋谷である。

 テレビで各地の正月風景を映すとき、必ず出て来るのが新春の初売りである。


初売り1


 画面で、オバタリアンが「我が家の欠かせないイベントです」「正月はこれが楽しみで」とか喋っているが、全く気が知れない。別世界の話しだと思っていた。

 それが、1月2日、何の因果か、福袋を目指して渋谷某店の初売りに同行することになった。以下は、おいらの「新春初売り福袋争奪観戦記」である。

 午前10時開店ではあるが、午前8時半に到着した。横浜の人間がその時間に渋谷に到着するためには、結構早起きが必要である。正月に早起きした記憶はあまりない。


初売り2


 既にかなりの人数が並んでいる。300人ぐらいか。先頭は敷物の上に毛布を被って、ホットコーヒーにサンドイッチを食べている。流石に本格的だ。恐らく早朝から来ているに違いない。先頭集団は、ほとんどが地べたに座っている。途中から立ち上がっている人間が多くなる。立ち上がっている人間は比較的遅く来た部類だろう。

 あまり寒くないが、風が吹くと冷え込む。完全防備で来たつもりだが、回りを見るとエスキモースタイルから、ミニスカートもどきの兵(つわもの)のおねえちゃんまで多彩である。同行者はホッカイロを用意し、万全である。男と女の比率は、断然、女が多い。8対2で女。ほとんどが二人連れである。女同士が圧倒的に多い。友達か家族である。バカップルもいる。男の顔が阿呆に見える。

 回りを見回すと、新春初売りを目指す人間が行列の最後尾を目指して走っている。既に行列の中にいる人間は余裕である。走る人間を見ながら、心の中で「遅いんだよ」と優越感に浸っている。

 9時、首からIDカードをぶら下げたスタッフの係りが「入り口は二つあり、こちらは女性用、もう一つは男性用です」と叫んでいる。一部でどよめきが起きる。どうしてもっと早く言わないのだ。この店のセンスを疑う。

 9時15分、店の係りが列に並んでいる客に対し、ホッカイロを配りに来た。喜んで貰うが、こういうのを「証文の出し遅れ」と言う。流通業の社長さん、良く聞いて欲しい。せっかく配るなら、8時前からお配りなさい。

 行列の中で煙草を吸うものはいない。前のにいちゃんが列から離れてビルの谷間に行ったと思ったら、隠れて煙草を吸っていた。とうとう煙草を吸うのも命懸けの時代になったか。しみじみとそう思う。

 時間はゆっくりとしか経たない。回りを見渡すと、意外にも渋谷には飯屋(レストラン、居酒屋)が多いことに気付く。目の前のビルにある店の看板には、多国籍ダイニングとある。前から無国籍料理は気味が悪いと思っていたが、多国籍だと旨そうである。

 人目をひく可愛いおなごが独りでいたので見とれていたら、男が列に戻ってきた。服装から判断して、程度があまり良くなさそうだし、顔も悪い。しかし、これで分かることは、男はやはり顔ではないということである。つまらないことに感心する。行列に並ぶということは、阿呆になるということだ。

 9時半、「最後尾」のプラカードを持ったおにいちゃんが遠く向こうまで下がり、とうとう見当たらなくなった。相当の人数が並んでいるはずである。いよいよ、開店まで残り30分だ(続く)。


 福袋が俺を呼んでいる(後編)

 午前9時40分、係りの人間が列を前に詰め始めた。いよいよゴング開始か。

 少し前に外人夫婦がいる。気合が入っている。そういえば、おいらがニューヨークにいたときのバーゲンも凄かった。かの有名なメーシー百貨店である。一日だけのバーゲンで「全品、3割引き(5割引き?)」(本当に全品である)だったような気がする。何が凄いかというと、客より店員の方が凄いのだ。「売ってやる」なのである。しかも、キャシャー(レジ)に店員がいないのである。あまりにも忙しくて、店員がやってられないのである。ひどいもんだ。レジが無人だと、買いたくても、買えないのである。これで暴動が起きないのは不思議であるが、実話である(尤もメーシーは潰れてしまったが)。おいらの人生でこんなことは、後先にもこのときしか記憶がない。

 9時45分、まさか、日本でもメーシー百貨店のようなことはあるまいと考えていたら、同行者の鼻息が荒くなってきた。そろそろ臨戦体勢のようだ。

 9時50分、開店10分前。ドアが開いた。皆、整斉と入場する。ここまでは、走る阿呆はいない。皆、エスカレーターに直行する。おっと、階段に走る掟(おきて)破りが出た。慌てて係員が制止している。

 目指す売り場、3階に到着した。ここからが凄い。皆、走る、走る。福袋目指して、走る。最初に福袋を奪うようにしてゲットする。次に、眼を付けていた商品に手を出す。あっという間に人だかりだ。アドレナリン全開。恐ろしい光景だ。


初売り3


初売り4


 既に売り場に人が入りすぎて、ピケを作って入場を制限している売り場もある。通路を移動しようと思うと、凄い力で後ろから押された。逆に、前からも人の流れが押し寄せきた。恐らくこのような状況で、明石の陸橋群集圧死事件は起きたのだろう。しかし、こんなところで死ぬわけにはいかない。

 さて、このエネルギーは、どこから来るのだろう。

 年末まで正札であった商品がほとんど全品、「3割から5割引き」なのだ。買わない奴は馬鹿である。皆、我先にレジに向かっている。係員が「福袋は、数に限りがあります」「5万円相当の品が消費税込みで1万円です」とわめいている。わめく度に手が伸びて、福袋が売れていく。繰り返す。これで買わない奴は阿呆である。

 しかし、冷静に考えると、5割引でも「ン万円」である。それを何点も購入しているのだ。合計すれば、目玉が飛び出るような金額にもなる。

 そのとき、おいらは思ったのだ。そうだ、これは集団催眠なのだ。両手に欲しかった商品を山にように抱え、高揚した気分で店を出て、空(から)になった財布を見て初めて我に帰るのだ。しかし、同時に、婦女子にしてみれば、この高揚感、アドレナリン全開という快感は、他では決して得ることの出来ない、紛れもなく貴重な、禁断の経験に違いない。おいらは思うに、この蜜の味を知った婦女子は、既に来年の福袋が今から楽しみであり、待ち遠しいはずである。

 とまれ、この正月初売りのパターンは、おとうさん達が知らない間に既に定着した正月風物のようだ。この流れを最初に作ったのは、恐らく大手小売業者だろうが、それにしても、この風物詩はもはや立派な日本の文化である。

 脱帽。




 掘り出し物はやはりあるのだ

 暮れのAP通信によると、ニューヨークのフリーマーケットで、僅か75セントで買ったLPレコードが15万5千ドル(1,800万円)の値で落札されたという(写真は関係ありません)。


奥村チヨ


 このレコードは米ロック歌手ルー・リードが結成したバンドのデビュー・アルバム(67年)のテスト段階のレコードだそうだ。

 この掘り出し物を見付けたのは、モントリオール(カナダ)在住のレコード収集家である。4年前、ニューヨークのフリーマーケットで一山いくらのレコードの中からアセテート盤のLPを見付け、75セントで買ったものだ。

 これをレコード店経営の友人に見てもらったところ、2枚しか現存しない珍品中の珍品と判明、eBay(世界最大のネット・オークション)に出品したところ、入札合戦の末、大金の値がついたのである。

 いやはや、こういう掘り出し物があるから、フリ・マは面白い。おいらもニューヨークにいた頃、休みの日には自転車を漕いで、ダウンタウンのフリ・マに顔を出したものである。

 フリ・マには囲いがあり、確か5ドル程度の入場料を払い、その中に入るのだ。中は(本当に)ガラクタの山である。レコードはもとより、コミック漫画の原画や油彩など、まぁありとあらゆるものが何でも揃っている。ゆっくりと見て回れば、半日程度は充分楽しめる別世界である。

 恐らくそういう日常的なフリー・マーケットで、珍品レコードが発見されたのだろう。
掘り出し物はやはり埋もれているのだ。発見されていないだけに過ぎない。




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