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さすらいの天才不良文学中年

さすらいの天才不良文学中年

太陽野郎 ブンケンロックサイド 松雲堂

神保町ブックフェスティバル

 本好きにとって1年に1度のお祭りである、第15回神保町ブックフェスティバルが今年も昨日から今日にかけて開催されている。


神保町1


 で、行ってまいりましたぞ。昨日は雨の天気予報がはずれ、昼過ぎまで晴♪ 残念ながら3時ごろから秋雨になり、あわててワゴンセールが店仕舞いにはなったが、やはり神田神保町は古本のメッカである。贔屓の店でゆっくりと佇めば、心もなごむ。

そうそう、葡英辞典(ポルトガル語の英語による辞典)もゲット。ポルトガル語の辞書が欲しかったのだが、国内のポ日辞典は詳しすぎたり、ハンディなものは少し古かったりして今一歩なのである。

それが、神田の、とある洋書専門店の店先でOxford Colour Portuguese Dictionaryが簡単に手に入ったのである(カラー・ポケット版辞書。99年初版で定価9ポンド=約1800円が700円!)。やはり神田に行けば、何とかなるというのは今でも健在だ。

 ところで、今年もイベントが盛り沢山である。「ニューオリンズ・ジャズ」演奏あり、古本チャリティオークションあり、サイン会ありで、1日を十二分にゆっくりと楽しめた。横浜から電車を乗り継いで来る身であれば、小旅行のノリでもあるが、おいらから願いたいほどの国内(?)旅行である(写真上はニューオリンズ・ジャズ演奏)。


神保町2



神保町3


 さて、古本チャリティオークションだ(写真下)。
毎年顔を出しているので、今年の雰囲気はどうかなと楽しみにしていたが、今回もまたアットホームな催し物なので安心する。

おいらも気合を入れて、横尾忠則のポスター(89年レアもの)!と美術書をゲットした。特に横尾のポスターは値打ちのあるものだっただけに、うれしい(チャリティーなので市場価格の5分の1以下で落札出来たようだ。ラッキ~)。

 神保町の底力を感じる一日でありました。神様ありがとう、感謝。



神田神保町に勤務するということ

 都心に顧問として週三日出ている。


能面


 お手伝いをしている会社が神田神保町にある。地下鉄の駅は「九段下」がやや近いが、自宅(横浜)から出勤する路線の関係上、「神保町」で下車している。

 神田神保町での勤務は夢であった。日本一の古書街である。憧れの神保町である。一日中、古書店を歩き回っても退屈しない。したがって、昼休みの時間なども一人でいる場合は、探検してしまうのである。路地裏の古書店まで訪れるのである。

 さて、その話しはまた別の機会に譲るとして、困ったことが一つある。

 それは、欲しい本が並んでいると、どうしても買いたくなってしまうのである。そうすると、どうするか。

 昔の学生時代に戻ってしまうのである。おいらは貧乏学生だったから、学生時代に欲しい本があると、昼飯を抜くのである。そうすると、文庫本なら一冊は買える。そうして、欲しい本を手に入れていたのである。

 つまり、先祖返りになるのである。しかし、流石にこの年で飯は抜けない。では、どうするか。昼飯を安く済ますのである。幸い、神保町にはおいらが嫌いではない吉野家がある。

 そこで、「並、ツユダク」と注文すれば、5分で楽しめ、しかも380円の好物にありつける。牛丼を馬鹿にしてはいけない。立派なB級グルメ食である。

 しかも、昼飯代の節約によって500円程度は浮く勘定になるので、特化本コーナーなどで軽く一冊を買うことが出来る。先日もそうして三島由紀夫没後30周年特集号を廉価で入手した。

 ところが、読者諸兄よ。この吉野家が何時も満員なのである。午後1時半までに職場に戻れば良いときなどに、1時過ぎて吉野家に立ち寄っても、満席が続いているのである。しかも、最近は女性が目立つようになった。吉野家は女性が一人では入りにくい雰囲気が未だにあるのに。

 元々、神田神保町に出向く人種には、食事に無頓着な人間が多い。現に神保町に名だたるレストランがあるとは思わない。しかし、それにしても、吉野家は混み過ぎではないかと思う。いや、ひょっとしたら、これも不況の影響か。サブプライム問題はここまで来ているのか。それとも神田神保町だからなのか。

 外食産業が不況に喘いで青息吐息というが、廉価なファーストフードが混み合っているとしたら、この不況は深刻である。


永井荷風展

 神保町に勤務先があって役得のあることは、昼休みに東京古書会館まで足を延ばせることである。


駿河台下


 神保町は「駿河台下」の交差点をJR御茶ノ水駅の方向に向かい、一つ目の路地を右側に向かうと左手に古書会館を見付けることが出来る。


古書会館


 ここの地下では定期的に古書即売会もやっている。

 その古書会館で「永井荷風展」が開催された(4月11日から18日まで)。主として荷風の初版本や肉筆などが掲示されており、写真はその一こま。



荷風展


 目玉は荷風の佇むジオラマ(「ぬけられます」)である。

 おいらは目を奪われた。ジオラマというと、桐野夏生の奇妙な味の小説を思い出すが、このジオラマは荷風の生きた時代の玉ノ井を忠実に再現しているのだ。


荷風展ジオラマ


 おいらも何時の間にかジオラマの中に立っていた。気がつくと荷風が隣にいる。

 近くで見ると、人の悪そうな老人である。あまり友達にはなりたくないなぁ。

 おいらは知らん顔をして玉ノ井を一回りしてみた。趣があるのゥ。この時代に生きていないことに悔やむばかりである。

 さて、荷風散人。

 本当はおいらの好きな作家である。こういう年寄りになりたいと思うのだが、そうなったらなったで、嫌われるのは必定である。しかし、それを見越して、荷風はエゴを貫き通したのである。

 誠に荷風道というものは、奥が深い。


今年も恒例の神田古本まつり(前編)

 勤務先が九段にあるので、神保町とは目と鼻の差でしかない。

 仕事冥利に尽きるというものである。本が好きなおいらが横浜からこうして通うのも苦にならないのは当然である。


神田古本祭り1


 さて、今年も今週火曜日から恒例の「神田古本まつり」が始まった。おいらは、勤務日の関係から、昨日が初日の訪問となった。

 今週は、月曜日が台風の関係で神保町も風雨が強かったのだが、火曜日から秋晴れに恵まれて幸先の良いスタートになったようだ。今回が記念すべき50回目の開催というから、本の神様も応援したのだろう。

 某公共放送の首都圏ニュースで大勢のファンが集まっている絵がオンエアされていたのだが、何せ、青空掘り出し市では、100万冊の大バーゲンだという。

 店によっては、このワゴンセールの本を通常価格の3割引きから半額までにしているのだから、活字中毒にはたまらない。

 おいらも体中をアドレナリンが駈け巡るのである。珍しい本がないかと青空掘り出し市を回るのである。


神田古本祭り2


 それにしてもこの人だかりには圧倒される。

 さて、今回、おいらが見付けた掘り出しものは、「太陽野郎」のブースにあった。


三島の死に始まる


「対談集 それは三島の死に始まる」(72年、立風書房)である。

 映画芸術編集長の小川徹と大島渚、野坂と寺山、武田泰淳と開高健、若松孝二と浦山桐郎、今村昌平と小川徹、吉行と佐伯彰一、鈴木清順と実相寺昭雄の対談だからたまらない。

 こりゃ、二度と手に入らない本だね。ゆっくりと対談を愉しむことにしよう。


 ところで、諸兄よ。

 この夏木陽介のようなネーミングの古書店「太陽野郎」ってなに?「太陽野郎」とは一体何物なの? 

 明日の後編をお楽しみに(続く)。


今年も恒例の神田古本まつり(後編)

 さて、諸兄に若干の説明をしなければならない。

 神保町の青空掘り出し市とは、車道寄りの歩道に本棚(ブース)を置いての、一種のワゴンセールである。


太陽野郎


「太陽野郎」とは古書店の名前であり、この太陽野郎がブースとして神保町の専大前交差点近くの古書店「@ワンダー」の斜め前に出店されているのである(11月3日まで)。

 その太陽野郎のブースに珠玉の古本が所狭しと並べてあるのだ。おいらのアドレナリンが出まくるのである。

 ただし、ここでおいらの古書選びの基本を述べておく。それは、旨い料理と同じである。旨くて高いのは当たり前である(高くて不味いは論外)。

 古本も同じである。稀少価値の高い本が高く売られているのは当然である。

 それよりも、中身の優れた古本、古書店の親父が唸る埋もれた古書をリーズナブルな価格で提供するのが、古書店主の醍醐味ではなかろうかと思うのである。こういう本があるのだよ、お兄さん。どうだまいったか、てなもんである。

 もちろん、古本を買う方もそれが分かる、自分自身の審美眼を持っていなければならないのではあるが…。

 そういう観点から云えば、この太陽野郎の店主は素晴らしいと思う。自分のやりたい仕事が分かっておられるのだろう。良書を、嫌自分の眼鏡にかなう本を店頭に並べているのだ。

 やりたいことをして、それで飯を食うというのは、人生の基本である。嫌々仕事をして、それで生活が楽になっても嬉しくはないのである。

 実は、ブースでお話しを伺うとインターネット古書店だと仰せられる。なるほどと、早速、ホームページをお邪魔してみた。

 http://taiyoyaro.ocnk.net/

 うん、これがなかなかの優れものである。

 店主は年齢不詳であったが、店主の日記(ブログ。ホームページから閲覧可能)によれば、バカボンのパパと同い年というから41歳と分かった。

 生身の声が聞こえて来る。応援したくなるなぁ。


 頑張れ、太陽野郎!


今年も恒例の神田古本まつり(番外編その1)

 それでは、神田古本まつりで買った本もののうちから掘り出し物をご紹介する。


宇野亜喜良


 アメリカのロックバンド、ブラッククロウズの音楽ビデオ「WHO KILLED THAT BIRD OUT ON YOUR WINDOW SILL … THE MOVIE」(92年、ANGELUS ENTERTAINMENT)。

 パッケージのイラストが宇野亜喜良。九條今日子(寺山修司元夫人)がイラストの仲介をしている。これがわずか、300円。パッケージだけでも価値がある。


太宰


 太宰生誕100年に因んで、「太宰治の世界」(98年、ゼスト)。絶版本である。400円。

 新潮日本文学アルバムシリーズを思わせる出来栄えで、青森探訪の書としても読ませる。


渋澤龍彦


 渋澤龍彦「滞欧日記」(93年初版本、月報付き、河出書房新社)。1,000円。

 図版や写真を満載した、渋澤龍彦による贅沢な欧州ガイド。いずれ渋澤龍彦が辿ったルートと同じ欧州旅行をするのがおいらの夢である。


Newyork


 植草甚一が帯を書いた「ニューヨーク文学散歩」(79年、朝日イブニングニュース社)。

 マンハッタンに住んでいたとき、この本が手許にあったら景色が一変していたはずだ。ニューヨーク好きには堪らない本である。<太陽野郎>でゲット。600円。これも掘り出し物。


今年も恒例の神田古本まつり(番外編その2)

 昨日に引き続き、掘り出し物を紹介する。


大島渚


 「世界の映画作家6大島渚」(70年、キネマ旬報社)。太陽野郎で500円。

 鬼才大島の「絞死刑」のシナリオが映像絵コンテと共に掲載されており、見応え(読み応え)充分である。


アラーキー


 アラーキー(荒木経惟)特集の芸術新潮(91年5月号、新潮社)、サイン入り。アラーキーの漢字によるサインは珍しいぞ。

 この本は東京古書会館でゲット。2,000円。アラーキーの直筆サイン入りだから、1万円で売っている店があってもおかしくはない。


不道徳教育講座


 ご存じ、「不道徳教育講座」(69年初版本、中央公論社)。これが嘘の様な400円。

 表紙で読ませる。カバーイラストは横尾忠則。名著である。学生時代に繰り返し読んだ記憶のある本である。


イラスト


 最後に作者不詳の肉筆イラスト。味のある画(水彩)で思わず手に取った。

 100円。これが今回の最大の掘り出し物だったりして(この項終り)。


「羊頭書房」の巻(神田古本まつり番外編)

 神田古本まつりの番外編である。


横尾本まつりポスター


 一昨日、嬉しいことがあった。写真の横尾忠則のポスターが入手出来たからである。

 この経緯を述べると少し長いので、かいつまんでお話しする。

 今年の神田古本まつりは第50回目を迎えるということで、古本まつり本部(そういうものがあるかどうか知らないが、ま、古本組合の幹部の集まりのようなものか)では、50回の記念として横尾忠則にポスターを依頼したというのだ。

 こりゃ、凄いよネ。想像するに、制作費用は結構かかったのではないかしらん。それはそうとして、神田の街に横尾のポスターが貼られると云うのは、悪いことではない。

 それで、普段よく顔を出す古書店に使用済みとなったポスターを分けて貰えないかと話したら、非売品だから店のものにしたいという。実際、ポスターをくれという客は多く、皆、断ったそうだ。

 なるほど、このポスター、販売用ではないから刷った枚数もそれほど多くはなかろう。古書店では古本まつりの記念に持っておきたいというところがあってもおかしくはない。

 しかし、そうは云っても、古本まつりが終了すれば、捨てる店もあるはずだ。店の中にはこのポスターをガムテープで無造作に貼っているところもある。剥がすときには破れるのだろうなぁと思って見ていたのだが…。

 某古書店のショーケースの中にこのポスターを数枚貼ってあるお店があった。丁度、古本を買ったものだから、このポスターを話題にしたら、期間が終われば捨てるので、タダであげても良いと云われた。名刺をお渡しして、鄭重にお礼を云い、期間終了後に頂きにあがることにした。

 ところが、である。先週の4日(水)、この店にお伺いすると、ポスターは既に撤去されており、お渡し出来ないという。しかも、渡さない理由が要領を得ない(店主が不在だったのも理由だと思う)。おいらは、このお店ではもう本が買えない。先週のことである。

 おいらは慌てて、まだポスターが剥がされていないお店を探し、ポスターをどうされるのかと聞くと、店のものにするとか、オークションに出す予定だとか云われる。おいらは無理に欲しいとまでは思わなかったので、縁がなかったと考えることにした。世の中にそういうことはよくあることである。

 そうこうしている内に、週が変わり、ポスターは街から姿を消した。おいらもこのことは忘れていた。

 ところが、一昨日、「神保町シアタ-」(映画館)傍の「羊頭書房」におじゃましたら、入口の裏側にこのポスターが貼ってあるではないか。

「羊頭書房」は狭い店内にもかかわらず、SF、ミステリー、幻想文学など、おいら好みの書籍を所狭しと置いてあるワンダーランドである。

 品揃えに店主の目利きが行き届いている。それは、店内の本に自信が溢れていることから直ぐ分かる。この店主、一見、サラリーマン風であるが、おいらにはこの親父が只者ではないと思えるのである。

 さて、おいらは条件反射によって、店主(河野さんと云われる)に「ポスターをどうされるのですか」と伺った。すると店主は、「いずれ剥がす予定です」と云われるのだ。そこで、おいらは「処分されるのであれば、頂くことは可能でしょうか」とお願いすると、廉価で気持良くお譲り頂いたのである。

 嬉しかったなぁ。古書好きのおいらにとって、今後、このポスターは宝物になるなぁ。

「羊頭書房」(http://homepage1.nifty.com/youtou/)、お伺いして良かった。本当に有難うございます。


ブンケン・ロック・サイドは偉い

 神保町の行きつけの本屋(ブンケン・ロック・サイド、電話03-3511-8226)である。


BRS1


 外から見ると、ロック関係が中心の古書店だと分かる。実際、店内にはロックやファッション、映画関係の書籍や雑誌のバックナンバーが所狭しと並んでいる。

 では、何故、おいらがこの店を行きつけにしているかというと、 実はこの店のワゴンセールが目当てなのである。

 この店では、文庫本(音楽関係だけでなく一般の文庫本)や新書の掘り出し物が105円(消費税込)均一でワゴン販売されているのである。

 店主にお話しを伺うと、昔は一冊一冊値付けをしていたこともあったが、現在では相場にこだわらず均一にして売っているとのことである。

 この度量の深さはありがたい。

 なぜなら、掘り出し物に当たる場合があるからである。実際、おいらはこのお店で、例えば渋澤龍彦の絶版本を105円でゲットしたこともある。だから、このお店のワゴンセールの前に立つと、アドレナリンが出まくるのである。

 ただし、問題もある。ついつい本を買い過ぎてしまうのである。一冊105円であっても多く買えば値段は嵩むし、それ以上の問題は本が増殖するのである。

 ま、しかし、これだけは、しょうがないかのぅ。


BRS2


 さて、ブンケン・ロック・サイドの店主は、山田玲子さんといわれる。外見はパンクファッションに包まれておられるが(これが格好良い)、礼儀正しく、とても気さくで魅力的な人である。

 これだと、全国のロケンロールファンがこのお店に集まるというのもおいらにはうなずけるのである。

 神保町のホームページ(「BOOK TOWN じんぼう」)を覗くと、このお店、もともとは店主のお父様が開かれた俳句専門の古書店であったという。

 したがって、店内の一番奥には、現在でも厳選された句集や歌集のコーナーがあり、このコーナーに通う根強いファンも多いそうだ。彼女はその方達のためにも、今後このコーナーを失くすつもりはないと述べられているのである。偉い!

 最後に。

 神保町でワゴンセールをやっている古書店は多いが、一般にそれなりの理由があってワゴンに本が乗っている。

 しかし、このお店では上述のとおり、本当の意味での均一本として売っておられるので、ブックオフの100円コーナ-よりも掘り出し物がある可能性がある(だから、210円均一というときもある)。しかも、ワゴンに乗る本の回転が速く、いつお伺いしても新しい文庫本が入庫されているのである。

 諸兄よ、アドレナリンを感じたければ、今すぐ神保町の「ブンケン・ロック・サイド」に急げ!


本日、明日、明後日はお休み

 本日、明日、明後日は休日につき、お休みです。


小宮山書店


 写真は、神田神保町でおいらが良く行く古書店です。

 ご存知、小宮山書店。

 初版本、稀覯(きこう)本(三島由紀夫、渋澤龍彦、小林信彦、寺山修司、芥川賞作家のサイン本など)、美術書、写真集(アラーキーなど)、リトグラフ、シルクスクリーン・ポスター(横尾忠則など)を中心とした、古書マニア垂涎の店です。

 この店の素晴らしいところ。

 この店に入ると、半日は優に過ごすことが出来ます。

 もう一つの利点は、古書など蒐集するものではない、ということが良く分かります。財力には自ずと限度があるのです。欲しいものばかり見せられると、何も欲しくなくなります。


 火曜日より再開いたしますので、皆様よろしゅうに。


平成22年1月9日(土)


 謎の不良中年 柚木惇 記す


本日と明日はお休み

 本日と明日は休日につき、お休みです。


@


 写真は、「神田神保町でおいらが良く行く古書店その2」です。

 サブカルチャーの殿堂、「@ワンダー」(「アットワンダー」と読む。神田神保町2-5-4開拓社ビル1、2階)です。

 映画、美術、ミステリー、ポスター、レトロ雑誌、SF、ミステリー、幻想文学、スポーツ、芸能に強く、この店も半日は遊べます。

 今、新藤兼人(映画監督、1912年生まれ)の「老人読書日記」(岩波新書新赤版、2000年)を読んでいるのですが、その中に「わたしたちの年代は、若いとき、古本屋の棚から古本を出したり入れたりして半日は過ごしたもので、あの何ともいえぬ古本独特の匂いが懐かしい」(同書16頁)と云うのがあります。

 この文章を読んで、おいらは我が意を得たりと思ったのですが、今の人には理解できないでしょうなぁ。

 要するに、古本屋は文化の中心地だったのです。おいらが育った広島県F市の本通り商店街には3軒の古本屋がありました(今ではその本通りはシャッター街)。

 その古本屋を休みの日などは、ハシゴするのです。一日中、古本屋に居て、文化の香りを吸ったものなのです。ただし、ほとんど古本を買った記憶はありません。だから、図書館の代わりでもあったのです。地方都市だから、他に娯楽がないということもあったのでしょう。おいらの娯楽は古本屋に入り浸ることだったのです。

 さて、「@ワンダー」。おいらの秘蔵品である古い映画のスチル写真(最近では由利徹など)は、ほとんどこの店で求めたものです。

 考えてみると、今でもおいらは古本屋に入り浸ることが趣味なのですなぁ。


 月曜日より再開いたしますので、皆様よろしゅうに。


平成22年1月16日(土)


 謎の不良中年 柚木惇 記す


本日と明日はお休み

 本日と明日は休日につき、お休みです。


ヴィンテージ


 写真は、「神田神保町でおいらが良く行く古書店その3」です。

 この店もサブカルチャーの殿堂です。「ヴィンテージ」。

 ポスター系が強い店ですなぁ。先週ご報告した「@ワンダー」とほとんど並んで立地しています。


 月曜より再開しちゃいます。皆様よろしゅうに。


平成22年1月23日(土)


 謎の不良中年 柚木惇 記す


「ポケット論語」を読む

 小宮山書店のワゴンセールで入手した本。


ポケット論語1


「ポケット論語」である。100円。

 実は、おいらは隠れ論語ファンなのである。こんな廉価にされちゃってと思いながら、ゲットした。

 奥付を見ると、初版が明治40年12月発行(定価50銭)、復刊が昭和32年(財団法人矢野恒太記念館発行。非売品か?)とある。

 驚いたのは、まず冒頭に「勅語」(教育勅語のこと)がカラー(赤字)で印刷してある。おいらは生まれて初めて勅語なるものを読んだのが、これが意外に良く出来ているのだ。現在でも通用する内容だね、こりゃ。


教育勅語1


教育勅語2


 次に、この本がどうして凄いかというと、まず、明治時代にもかかわらず、ポケット版である。

 二つ目は注釈が付いていることである。


ポケット論語2


 そうして、三つ目がタイトルの「ポケット論語」である。

 当時としては、大胆である。この「ポケット論語」が人気を博したというのも頷ける話しである。


 さて、矢野恒太(1866~1951)である。

 岡山県出身で、明治期から大正期に生命保険業界の基礎を築いた実業家である。なんと、第一生命の創業者である。

 もともとは医師だったようだ。1890年に日本生命保険会社に就職し、診察医となったのだが、1892年に経営陣との対立から退社する。

 その後、安田生命の前身である共済生命保険の設立に参加し、同社の総支配役に就任。

 1897年に退社し、農商務省の嘱託職員として「保険業法」制定の草案委員となった後、農商務省の初代保険課長に就任する。恐らくこの頃は、官庁に人材がいなかったのだ。こういうことはよくあったと聞いている。

 そして、1902年、日本初の相互会社として第一生命保険を設立するのである(だから、「相互会社の産みの親」と呼ばれている)。後に社長に就任、1938年に石坂泰三が社長に就任すると、自らは会長に就任。1946年に会長を退任し、1947年に息子の矢野一郎に社長の座を譲っている。

 驚くのはまだ早い。矢野は、この間、東横、目蒲両電鉄社長、第一相互貯蓄銀行頭取、生命保険協会理事などの要職も兼任している。

 しかも、「日本国勢図会」「国民数表」などを刊行し、統計知識の普及や農民教育の刷新などにも尽力したのである。

 そして、矢野の代表作がこのポケット論語なのである。

 唸っちゃうのである。

 それでは、最後にその矢野恒太のお言葉である。

「およそ人間の地位や名誉、財産ほどくだらないものはない。わしは無一文で生まれてきたのだから、無一文で死ぬのが理想だ」

 そう云いながら、恐らく大金持ちで死んだのだろう。理想は果たせない。

 なお、皮肉ではあるが、矢野が作った第一生命保険相互会社は、今年4月1日から株式会社になる。あの世でどう思っているのかのぅ~。


本日と明日はお休み

 本日と明日は休日につき、お休みです。


東京堂書店


 写真は、神田神保町でおいらが良く行く東京堂書店です。この店の特徴はサイン本のコーナーがあることです。


岡田茉莉子1


岡田茉莉子2


 このお店でゲットした本。「女優 岡田茉莉子」。もちサイン入り。

 太陽野郎(このブログの右上「BookMarks」よく行くページ「太陽野郎店主ブログ」参照)さんもこの本をゲットされたそうです。いやぁ、嬉しかバイ。


 月曜より再開しちゃいます。皆様よろしゅうに。


平成22年1月30日(土)


 謎の不良中年 柚木惇 記す


 今年の神田古本祭り(その1)

 今年も恒例の神田古本祭りがやってきた。「第51回東京名物神田古本祭り」である(10月27日~11月3日)。


神田祭り1


 なんせ、在庫冊数1,000万冊、売場面積5,000坪というから半端ではない。

 しかし、今年は台風にたたられた古本祭りであったようだ。特に、メインイベントのある10月30日(土)は台風が関東に接近、一日中大雨であった。

 その前後の日も秋雨前線の関係で天候は最悪、店を出している人は気が気でなかったに違いない。本は濡れると商品価値が無くなるからだ。しかも、客は来ない。

 泣きっ面に蜂である。しかし、この時期に台風とは珍しい。異常気象の影響かも。

 さて、神田古本祭りの花といえば、やはり、掘り出し物と値引きである。

 この日のために、1年間本を揃えている業者もあるほどだ。


神田祭り2


 本来のSALEで店の中の商品を一律2割引き(ワゴン内は3割引き)にする良心的な店もある。


神田祭り3


 しかし、今年はよほどのことがない限り本は買うまいと決めていた。

 本は、増殖するのだ。おいらも横浜に移ってから一度も本を処分していないから、自宅は再び本で埋まろうとしている。気が重いのだ。

 しかも、これからの人生で読める本の数は有限である。だから、還暦を迎えて、必要な本以外は買うまいと決めている。

 しかし、本は人生の愉しみの一つである。本を見たり、探したりすることまで止めるつもりはない。

 昨年に引き続き、まず最初に「太陽野郎」(本屋さんの名前)のコーナーを探す(この項続く)。


 今年の神田古本祭り(その2)

「太陽野郎」の売り場は昨年と同じ場所にあった。サブカル専門店「@ワンダー」の前である。


太陽野郎ブース


 さて、出品されていたのは、昨年と傾向が異なり、ビデオ、CDや専門書系が多い。

 ざっと眺めると、「ポケットパンチOh!」がまとめて置いてある。

 値段は安い。通常、1冊千円程度だが、今回は300円だ。

 手にとってみると、中村晃子が表紙のものがある。おいらは、天地真理が表紙のものを持っているのだが、神保町の某店ではこの「ポケットパンチOh!」に八千円程度の値が付いていた。


中村晃子


 これはお値打ちである。中村晃子は一世を風靡した歌手である。今の言葉で云えば、「イケジョ」であった。

 普段なら迷わず買うのだが、今回は迷った。今年は余程のもの以外は買わないと決めたばかりだ。今まで、迷ったら買うことにしているのだが(買わずに後悔した経験は多数)、冷徹になり棚に戻す。

 とにかく一通り、会場を回ることにしよう。

 会場でのワゴンセールは、例年通り歩道上に所狭しと並んでいる。

 だが、今年は人出が思ったほど多くないように感じる。やはり、天候のせいだろうか。

 そうこうしているうちに、佐藤優の「国家の崩壊」(06年、にんげん出版)が目に留まった。宮崎学が聞き手になって、佐藤優が答える形式になっているが、佐藤優氏の著作に違いない。


国家の崩壊


 ソ連崩壊の行く末が日本の行く末になるという仮説の本書は、本屋でなかなか手に入らなかったので、これは迷わずに買った。

 今、佐藤優に敵う論者は、西部邁か副島隆彦しかいないと思っている。佐藤優の著作は、細大漏らさず読もうと思っているので、こりゃ嬉しいのぅ。

 しかし、これでタガが外れた。

 やはり、欲しいものは欲しいのである。欲しい本は買うしかない(この項続く)。


 今年の神田古本祭り(その3)

 こうなると、やはり、本がおいらを呼んでいる。

 まず、車谷長吉(ちょうきつ)。小宮山書店のブースで発見。


女塚1


「女塚(初期作品輯)」(05年、作品社)である。

 車谷長吉、数えで還暦のときの本である。氏が「気分としては、まだ青春」であるが、いずれ「青年の木乃伊(ミイラ)として朽ち果てるだろう」とされ、「死の準備の一つとして」上板を決意された初期作品集である。

 実は、この本のサイン名が氏の初期のペンネームである「辻永銀治郎」である。おいらは、「車谷長吉」名でのサイン本は持っているが、これは持っていない。


女塚2


 少々迷ったが、恐らくこのペンネームでのサイン本はもう出まい。ゲット。

 林家木久蔵(木久扇)のサイン本「木久蔵流錦絵草紙」(95年、リバティ書房)も見付ける。木久扇師匠の絵は下手(へた)上手(うま)で、味がある。ゲット。


木久蔵1


木久蔵2


 筒井康隆の幻の雑誌「スターログ」(81年9月号「筒井康隆マル私写真館」)もゲット。氏が全集を出す2年前のものである。これは、貴重品だ。筒井ファンとしては感動ものである。


筒井1


筒井2


筒井3


 もう見境がない。

 もちろん、中村晃子も「太陽野郎」のブースまで戻り、ゲット(この項続く)。


 今年の神田古本祭り(その4)

 自慢するつもりはないが(こういうときは、実は自慢している)、おいらが昔、上梓した単行本(ただし、ビジネス書)が古本として売られていることがある。

 この某書は専門書に近い性格のものだが、天下の講談社から5刷まで出版された。今から16年前のことである。

 だから、この本をブックオフの100円コーナーで見付けることがある。

 そのときは、どうするか。

 無論、買っちゃうのである。だって、ブックオフでは可哀想ではないか。


 閑話休題。

 神田古本祭りは続いている。


Red Hen1


 米国製の「All About The Small Red Hen」(1917年、CUPPLES & LEON COMPANY, New York)をゲット。小振りな本であるが、なかなか良く出来ている。子供向けとは思えないブラックユーモアがあるのぅ。


Red Hen2


「The Art of Tantora」(1973年、Thames and Hudson, London)もゲット。タントラとはサンスクリットで織物を意味し、曼荼羅のようにも見える。


Tantora1


Tantora2


 このタントラ、密教には欠かせないものである。ところが、タントラを仔細に眺めると、昔の宗教はセックスと不即不離だったことが良く分かるのである(内容をお見せできないのが残念)。


作詩自在1


「作詩自在」(明治30年、博文館)もゲット。

 漢詩作成の教則本である。この本の見開きには、木版刷りが折り込みとして添付されている(写真下)。これには舌を巻いた。ずっと閉じていたままだったからだろうか、全く色が褪せていない。110年前の刷りには思えない見事な出来栄えである。


作詩自在2


 さて、これらの古本に共通しているのは、いずれもゆったりとした時間の底流を感じることである。

 洋の東西を問わず、100年前の書物を、今、目の前で味わうというのは贅沢である(この項続く)。


 今年の神田古本祭り(その5)

 神田古本祭りのトリを飾るのは、この本しかない。


噂


 梶山季之の「月刊 噂」(創刊号、昭和46年8月号)である。

 ご存知、梶山が私費を投じて創った月刊誌である。しかし、赤字続きで廃刊になったという曰く付きの雑誌である。

 ワゴンセールでゲットした掘り出し物だ。

 創刊号なので、力が入っている。どの記事も読み応えがあるぞよ。


 思うに、「世の中は、エスタブリッシュメントには逆らえない」ということを梶山は見抜いていたのではないか。

 だから、「噂」でそれに抵抗しようとしたのではないか。

 トップ屋出身の梶山は、本当のことを知っていたのだ。

 しかし、本当のことを書けば権力に潰される。潰されずに真実に迫るためには「噂」で抵抗すればよい。

 仲間も最初は協力を申し出るが、世の中には本当のことを云ってはいけないことがある。

 梶山はいつの間にか、孤軍奮闘になっていたのではないだろうか。誰も協力してくれない。最初は喜んでなどと、云っておきながら。

 そこに、日本の悲劇がある。

 昭和46年に創刊した雑誌だが、今が昭和85年だと考えると、既に40年前から日本は落魄(おちぶ)れる運命にあったのだろうか。

 この雑誌を読みながら、おいらはそう思ったのである。


 さて、おいらの好きな「松雲堂」(漢籍、和本の専門店。神保町3-1)の店頭でのお話し。

 ここの女性店主である野田さんは、ほのぼのとしておられ、おいらは好きだねぇ。マスコミが神保町で古書店を取りあげる場合、この店が舞台にされることが多いのも頷ける。


松雲堂


 先日も店頭で和本を眺めていたら、野田さんが上の新聞記事を紹介してくれた。

 松雲堂が舞台である。

 おいらも嬉しくなってしまう。皆さん、和本を見る喜びを人生の愉しみの一つに加えてみては如何でせうか。本を読む愉しみなんぞ、100年位ではそう簡単には変わらない(この項終り)。


「随園食単」をご存知か(前篇)

 相変わらず神田神保町をうろうろしている。


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 本来ならば、断捨離をしなければならない身分である。新たに本を買うなどしてはならないと決めているのだが、面白そうな本があるとついつい手を出してしまうのである種の病気である。

 先日も神保町の松雲堂書店をのぞいていたら、岩波の「随園食単」が無造作に置いてあった。この店は前にも紹介したが(このブログのフリーページ「松雲堂」参照)、漢籍、古典籍を扱う老舗であり、良い本が目白押しである。だからという訳ではないが、おいらはこの店が好きでちょくちょく顔を出す。

 さて、この本はタイトルが良いこと(「随園食単」とは、清の大詩人、随園の食単=料理メモ)と廉価だったので、迷わず求め、帰路の電車で読み始めたら面白くてたまらない。

 清の大詩人でありながら、食通が料理について書き残したメモである。

 読み進むと、その内容は材料の吟味、造り方、味わい方に始まり、果ては酒や茶にまで言及している。

 こうなると、これはもうフランスの美食家ブリア・サヴァランが著した「美味礼讃」の東洋版ではないかとおいらは唸ったのである(サヴァランの「美味礼讃」については、このブログのフリーページ「何を食べるか」参照)。

 どうでも良いことだが、人生の愉しみの一つはやはり旨いものを喰うことである。山田風太郎の言葉を借りるまでもなく、後、何回夕食が喰えるのかと思える年齢においらも到達したのである。

 だが、旨いもの=高い美食だけではない。そういうことなら、金を積めば良いだけの話しである。

 本当に旨いものとは、愛する人が造ってくれたサラダであり、お袋の造ってくれたカレーである。食べたことはないが、炊き出しのおにぎりやラーメンも旨いと感じることがあるのではないか。それは、腹が減ったときの夜食用のスープヌードルが意外にも美味に驚くことや人助けしてもらっているという感傷が味覚に寄与するのかも知れない。

 美食家の壇一雄も旨いものとは、地のものだと断言している。その土地の名産で旬のものにまずいものがある訳がない。

 おいらも学生時代に下宿を始めて、自炊を余儀なくされたので、下手ながら料理の真似事をしてきた。そのとき、この本があったら膝を叩いたと思ったのだが、もう遅い。今から40年以上前のことである。

 しかし、この本は一種の稀覯本で、岩波から文庫本で出版されたのは昭和55年である。おいらの学生時代まで遡るには遠く及ばない(この項続く)。





祝アクセス数、240,000突破

 6月2日(木)、謎の不良中年のブログアクセス数が記念すべき240,000を突破しました。栄えある240,000達成者は、「*ocn.ne.jp」さんでした。ありがとうございます。

 240,000突破は偏に皆様のおかげのたまものです。深く感謝し、有難く厚く御礼申し上げます。


花押集


 お礼に、おいらの秘蔵コレクションから、「『花押集』(元禄8年=1695年)作成」をお披露目します。

 この和書、神田神保町の贔屓の店、「松雲堂書店」(神保町3-1、電話03-3261-6498)で廉価で入手したものです。

 この店は、こういう珍しい和書をリーズナブルな値段で提供してくれる良心的な店です。

 店主は初老の上品なおかみさん(野田さん)。もちろん美人です。おいらも年を取ったら、野田さんみたいに上品になりたいねぇ。若主人は江戸時代の古文書などを実際に見せてくれるなど、口数は少ないが気さくな人です。

 この店、一度は覗くべし(松雲堂書店は「三省堂書店本店」隣のビルの古書店「かんたんむ」でも委託販売中です)。


 さて、花押(かおう)です。

 現在では印鑑にとって替わってしまった、江戸時代までのサインです。当時は、書き判(かきはん)または判(はん)と呼ばれていました。

 平清盛の花押は見事です。


清盛


 源氏も出さないと不公平なので、頼朝。


頼朝


 信長は、「麟」字の花押です。


信長


 秀吉の有名な「悉」字の花押(中央)。


秀吉


 家康はシンプルです。


家康


 武蔵坊弁慶や武田信玄、石田三成などもありますが、割愛。


 この和書は、37枚綴り(74頁)で1頁あたり2名から4名分の合計185人分の花押が記載されています。誰が何のためにこれを書いた(作成した)のかなぁ…。そういうところが古文書の面白さです。



 次回は、250,000ヒットを目指して精進いたしますので、これからもよろしくご指導のほどお願い申し上げます。


 2011年6月13日(月)


謎の不良中年 柚木 惇 記


花押ってご存知か(前篇)

 花押について、今年出た最高裁判決について述べる。
 

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 上の写真の家康に代表される花押は、中世の鎌倉時代ごろから使われ始め、貴族や武士、ときには町民も使っていたサインのようなものである。

 明治になって花押は人気がなくなり、ハンコに取って代わられるのだが、それ以前の戦国時代にはすでにハンコが登場している。

 その理由は簡単で、戦国大名が出す行政文書に大名本人がいちいち花押を書入れいたら日が暮れるからである。部下が大名の代わりにハンコを押して花押に代えたのである。

 しかし、花押はしぶとく生き残り、現代でも閣議書(写真下)には大臣が花押を書くことになっている。


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 さて、16年6月3日に最高裁第2小法廷は、「花押は押印とは認めることができない」とし、1審と2審の判断を覆したのである。

 事案は、相続争いである。内容を簡潔に述べると、沖縄の名家の子孫が遺言書に押印ではなく、花押を書いたのである。

 1審と2審は、「名家の男性が長く花押を使っていた事実」や「認め印よりも偽造は困難」として花押を有効と認めたが、最高裁は民法968条をそのまま適用して自筆の署名と押印が必要とし、下級審判決をひっくり返したのである。

 でも、この最高裁の判断は血も涙もないよなぁ。

 だって、男性は花押を使うことが当たり前と思っており、本人の意思も明らかなのだから、花押を押印とみなしても実害はないはずである。相続させたと思っていた本人は、あの世で歯ぎしりしているだろう。

 だが、最高裁にも考えがある。

 世の中が多死社会となって、今後は恒常的に多数の死者が生まれるとなると、遺言のトラブルは増えるに決まっている。

 そのトラブルを減らすために、民法の規定を厳格に適用すべしと考えたのだろう(朝日新聞による大阪大・松川名誉教授の意見の骨子)。

 なるほど、そういうことなら理解できる(この項続く)。


花押ってご存知か(後篇)

 最高裁の判決により、ますます花押は使われなくなるだろう。


閣議書.jpg


 ところが、前篇で述べたとおり、政治の世界では花押を使うことはステイタスなのである。大臣になると閣議で花押を書くことになるからである(写真上は、閣議書)。

 だから、当選回数が増えて大臣のポストがチラつき始めると花押を考える必要が出てくるのである。

「そろそろ花押を検討されては如何ですか」となったら、大臣が近いということである。「いやぁ、あなたも花押をお作りになられますか」となると俄然生臭い話しになる。オモシロイのぅ。

 また、花押はその道の先生にお願いして作るのだそうである(結構、その費用は高いらしい)。

 では、自分で作ることはできないのだろうか。無論、できる。でも、ルールが分かっていないとねぇ。

 まず、花押は実名の代わりである。だから、名前を組み合わせる。

 源頼朝の場合、性の源は関係ない。名の頼朝の「頼」の左側の「束」と「朝」の右側の「月」をくずして合体させて作っている(写真下だが、くずしすぎて束と月とが簡単には判別できない)。


頼朝花押.jpeg


 こういう風に二つの文字の一部を合体させる方法を「二合体」と呼ぶそうである。

 花押はこの他にも草名体、一字体、別用体、明朝体などがあり、おそろしく奥が深い。

 参考までにおいらのブログでは花押のことに触れており、下の秀吉の花押は分かりやすい(このブログのフリーページ「松雲堂」参照)。


秀吉花押.jpeg


 なお、安倍総理の花押(写真下)は「明朝体」(上下に横線が二本あり、中間に図案を入れたものをいう。「天地体」とも呼ぶ)だそうで、家康の花押と同じ種類である(家康の花押は、前篇に掲載)。


安倍首相 花押.jpeg


 明朝体は、明の太祖がこの形式の花押を用いたことに由来するといわれ、家康が採用したことから徳川将軍に代々継承され、江戸時代の花押の基本形となり、徳川判とも呼ばれた。

 現代の政治家はほとんどがこの明朝体だそうである。永く続いた江戸幕府のご利益を願ってのことだろうか。

 結論。花押、今の世でも気になる存在である(この項終り)。



 本日と明日はお休み

 本日と明日は休日につき、お休みです。


悪筆婦人


 写真は、「悪筆婦人の嘆き」

 大正9年(1920年)の「婦人世界」(月刊誌)の広告です。今から90年前のものですなぁ(表紙は、伊藤深水)。


婦人世界


 今でも立派に通用する広告だと思うのですが、如何でしょうか。

 それでは、皆様よろしゅうに。


平成22年11月20日(土)


 謎の不良中年 柚木惇 記す


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