古書祭り(続き)三省堂書店池袋本店「古本祭り」(その4)「日本の洋画界七十年 画家と画商の物語」(瀧 悌三著、日経事業出版社、2000年)である。 ご存じ、日本の画廊で本物と云われるところはここしかないと云われる、日動画廊の物語である。 昭和の洋画史は日動画廊とともにあるのである。 しかも、日動画廊は、昭和8年、藤田嗣治の個展を開催したところとして知らぬ人はいない。 当時、日動画廊は開店してまだ2年しか経ていない新参画廊であった。それなのに、世界的に有名になっていたフジタがなぜ新参の日動画廊で個展を開催したのかは、ある意味で謎である。 生き馬の目を抜く画廊界とまでは云わないが、信用と実績が物を云う世界でフジタはなぜしかるべきルートを通じて個展を開催する画廊を紹介してもらわなかったのだろうか。 それが本書で明らかになるのである。 フジタにも日動画廊側にもそれぞれの思惑があり、利害が一致したからこそ、フジタは日動画廊で個展を開催するのである。 そのことについては、項を改めるとして、この本には戦前、戦中、戦後の洋画の歴史が満載されており、また、読み物としてもオモシク出来ている。 同時に日動画廊の歴史でもあるので、絵に興味のある人、とりわけ絵の流通(絵の売り買い)に興味のある人には必携本となるであろう。そういう意味でも資料性の高い本である(この項続く) 三省堂書店池袋本店「古本祭り」(その5) 「帝都東京隠された地下網の秘密 1、2」(秋庭俊著、洋泉社、2002年、2004年) 東京とは地下の宝庫である。田舎には地下などないのである。 それは土地の有効活用だけではない。東京には地下網の必然性があってめぐらされたからである。 日本で一番古い地下鉄は銀座線である。昭和2年に浅草と上野の間を開通している。 その銀座線の線路の壁は、やはり日本一歴史があるだけあって古い。しかし、著者によれば、その銀座線の壁よりどう見ても古い壁があちこちに散見されると云うのだ。 また、周知のとおり、地下鉄霞が関駅は丸ノ内線、日比谷線、千代田線が通っており、国会議事堂前(溜池山王)駅も丸ノ内線、千代田線、南北線が通っている。 地下鉄線が交差するということは、それだけ地下が深くなるということでもあるが、霞が関とか国会議事堂は日本の中枢が位置する要所である。 戦前からこういう要所に大規模な地下壕が設営されていたとしても不思議ではない。 また、そこがお堀端であるということも見逃せないだろう。 帝都の防空史上、防空と地下網の創設は切っても切り離されない関係と云えよう。 さらに不思議な事には、国会議事堂の設計者には諸説があり、また、施行者も不詳だという。完成からわずか70年しか経っていないのに、そんなことがあるのだろうか。 だから、これまでこの手の類書はあったものの断片的に過ぎず、本書はそれを地下網という言葉を使って、体系的に網羅した力作だと思われる(ごめん、まだ、パラパラ読みだから断定できないが)。 本書は発売当時話題を呼んだようだが、寡聞にして知らなかった。この本も面白そうで、夜がまた短くなるのぅ(この項続く)。 三省堂書店池袋本店「古本祭り」(その6) 「寫眞特報 東京日々」(昭和10年9月1日号) 藤田嗣治である。 東京日々とは今の毎日新聞のことだが、おいらはそもそもこういう「寫眞特報」なるものの存在を知らなかった。 大きさはA3(新聞紙片面)を少し大きくしたサイズである。思い起こせば、小学校の廊下や公民館の掲示板にこの手のものが貼ってあったような気もする。 さて、日本語は戦前、横書きの場合、右から左に書いた。縦書きの場合、左から右なので理に適っている。慣れれば何の問題もないはずだが、横書きは右からと脳がそう記憶しているので読みにくい。 キャプションは、「秋。美術の秋ひらく」 そして、本文は、「秋―美術シーズンの秋は展く。 今年は空前の帝展改革といふお家騒動まであつた後だけに各展覽會とも力作に力作が出品されて上野の杜を彩るのではないかと大いに期待されてゐる。 寫眞はアトリエの藤田嗣治畫伯と出品畫」 と云う内容で、写真にある大きな絵は「Y夫人の肖像」。 しかし、この絵はフジタのレゾネにも掲載されていない貴重な写真と分かった。夏堀全弘の「藤田嗣治芸術試論」によれば、同年9月の第22回二科展に出品されたとの記録が残っている。 また、当時、フジタはアトリエでは雪駄を履いていたことが分かる。 なお、昭和10年には帝国美術院改革が問題となっており、そのことが記事中に書かれている。 しかし、改革とは名ばかりで、それまで帝国芸術院が主催していた帝展を文部省に引き戻すことが狙いであった。早い話しが、国が帝国芸術院を掌握し、芸術も戦争向上に向わせようとした国策が背景に見え隠れするのである。 そう云う時代背景を考えながら、また、この絵の行方を思いながらこの記事を観るとすこぶる面白いのである(この項続く)。 三省堂書店池袋本店「古本祭り」(その7) 伊坂芳太良(いさか よしたろう)のポスターである(サイズ縦103cm 、横73cm)。 伊坂 芳太良のことを知る人はもう少ないだろう。 1960年代に大活躍したイラストレーター、グラフィックデザイナーだったが、残念なことに42歳という若さで夭折している(昭和45年、頭部クモ膜下出血により逝去)。 1925年(昭和元年)横浜生まれだからだから、今、生きていれば91歳になる計算である。 写真のように細密なペンで描写する、和洋折衷の線画が特徴であり、雑誌「ビッグコミック」の表紙やファッションブランド「エドワーズ」の広告イラストなどを手がけた。 熱狂的なファンが多かったような記憶である。だから、「TBSラジオ第1回いらすとれいしょん・かあにばる」のポスターに採用されたのだろう。 それにしてもこのイラストはヒッピー風の男女がよく描けており、60年代のサイケな空気を漂わせているよなぁ。 崩し字と見栄を切っているようなポーズで浮世絵のような印象を感じさせるのも伊坂のイラストの特徴だしね。 なお、伊坂のこの手のポスターは3万円から5万円が相場と思われるのだが、今回は安価がついていたので無条件に購入した。伊坂のポスターはそれほど入手が困難なのである。 参考ながら、伊坂は昭和42年にADC特別賞を受賞。昭和45年には、「エキスポ70」のポスターも手がけている。 横尾忠則や宇野亜喜良に匹敵するイラストレーターだっただけにもっと長生きしていれば立派な作品を多数残したはずだ。神はいい人から先に召されるのだろうか(この項終わり)。 本日と明日はお休み 本日と明日は休日につき、お休みです。 写真上は、「英語に強くなる本」(岩田一男、昭和36年、光文社)。懐かしいですなぁ。実は本日、学生時代の会合があるので懐かしい本を紹介します。 ご存知のとおり、この本は当時のベストセラーになりました。おいらも中学に入ってすぐにこの本を読んだ記憶があります。この本は神保町の古書店の店頭で見つけたので、再び手に取ってみました。 再読すると、薀蓄のある話しが多いことに気付きました。 「ハーン(八雲)は、熊本の五校で英語を教えた経験を『九州の学生』という文章に書いています。その中で、日本の学生は、小さい言葉より大きい言葉を好み、短い平易な文章よりも、長い複雑な文章を書く傾向がある」(104頁)と指摘しています。 これは当たっているなぁ。日本人の悪い癖です。難しい単語でも簡単な熟語に言い換えられることができるのに、わざと難しい単語を使うのです。それは難しい言葉を使うだけで偉いと錯覚する国民性から来ているのです。おいらも反省しなければ。 それでは、皆様よろしゅうに。 平成28年7月23日(土) 謎の不良翁 柚木惇 記す ジャンル別一覧
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