ツブコの茶店

2003/07/02(水)23:40

パセリはココロ

芸術は愛だ。と誰かがいった。料理も愛だ。とおもう。お客の見えない職場で、豊富な食材に囲まれ、大量の調理に携わっていると、このイシキが薄まりがちになってくる。          *この世にたったひとつのヤサイがあり、それを、たったひとりの人のために、料理する。ロボットではできないヒトの技だ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  私の勤めるレストランの厨房に、コイシが入ってきたのは四ヶ月前だ。十八才の新入りコイシは、学校を卒業して、いきなり【現場】に入ったから、包丁の持ち方もおぼつかなく、ノダさんは、毎日ビシバシと特訓した。小柄でひよひよと頼りなかったコイシだが、カコクな特訓を日々なんとか乗り越えてきた。ノダさんといまではいい師弟コンビになっている。今日は私の向かいの調理台で、二人はオードブルの盛りつけをやっていた。              *ノダさんは、コイシをときどき釣りにさそったりもしていた。「ははは、アメとムチですわ」なんて言うノダさんは、口は荒いが、ハートがあったかいのだ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・              オードブルの大皿が、着々と完成に近づいてきた。「コイシ、お前もいまに、こんなの一人でやるようになるんだぞ」と、ノダさんが言っている。コイシは二歩後ろに下がって、盛りつけを眺め、「わぁ、すごい、まさにアートですよ、」と言った。コイシはまだなにか、”効いたふうなこと”をいいたげな口をした。ノダさんは、黙って手をうごかしている。(コイシ、それ以上言うな。戻ってシゴトにかかるんだ)私がそう念じているのを知るはずもなく、コイシはペラペラと、「やっぱり、料理はハーモニーですね」といった。さらにつづけて、「ハーモニー、プラス、え~とぉぉ、、、、、、、」 と、つぎのコトバを探している。ノダさんの口の端が動いた。(あーあ、おこられるよ、やっぱり)  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・すると、ノダさんは、皿を見渡しながら、               「コイシ、ここんとこにパセリを置け」と、静かな声で、指示をした。コイシの言ってることを、聞いていなかったのだろうか?コイシはパセリをさっそく、言われたとおりに、並べはじめた。                *                   ぽいぽい、ぐんぐん、サッササッサ、と、オートメーションのノリだ。                *ノダさんの口の端が動いた。とおもったそのとき、「バッケヤロー!!ココロを置くんだよ、ココロを。キカイみてえにじゃかじゃかやるんじゃねえ。パセリだけだからって、手を抜くな。パセリといっしょにココロを、置くんだよっ、そこによ。それを<シゴト>ってゆーの。ハーモニーだとォ?アートだ、なんだと、十年早えんだよ。お前は。ゴタク並べる前に、パセリちゃんと並べろってぇのッ」             *入社四ヶ月のコイシはこうやって、これからも、成長していくのだ。

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