過去の未来。
この電車でどなたか、
昔、愛用していたシルクタッチを
着けておられる。
懐かしい。
大好きだった香り
夕方からの出張、
偶然にも乗り換えに降り立った駅は
この香りと共にいた頃の私が
新しい未来へ心を踊らせた場所。
日が落ちた駅、
その頃はなかったコンビニの灯りが
眩しいほど寂しい。
乗り換えた電車は
初めて乗る路線
懐かしい車窓の景色を置いて
初めての街へ向かう。
ひとりで仕事で。
そこに置いてきたその頃の私には
想像に及ばない未来を
歩いている。
この足で。
嘘みたいに。
この先の私、
今の私の想像がどれ程及ぶのだろう。
ヒールの高さは
あの場所よりあとに積もった
負けん気とプライド。
シルクタッチに守られた
場所はもうない。