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The locus of the moon

The locus of the moon

手作りチョコと時計台(平野菜月)

手作りチョコと時計台。


明日はバレンタイン。
恋する乙女は愛しい彼の為にチョコレートを作っている最中。
そして告白される彼はチョコレートがもらえるかドキドキしながら明日の準備をしている。
バレンタインは恋する人々にとって神聖で特別な日。
「またこの時期がやってきたか」
東京のとある場所にある時計台に住む住人はそんな言葉をもらした。
時計台に住む住人はバレンタインの時期になるとため息をもらす。
理由は一つ。
”この時計台で告白するとカップルになれる”そんな伝説ができていて、普段は人気が無く静かなこのあたりもバレンタインの時期になると恋する乙女で賑わうからだ。
「さて今年はどんな人間がやってくるかな。」
時計台の住人はそんな事を呟くと明日に備え深い眠りへついた。


ー 蒼イオナの企み ー

蒼イオナは仕事をする平野菜月をちらりと見ると窓越しに空を見上げた。
(あと1週間でバレンタインだけど・・・)
そう思うと平野菜月の言葉を思い出す。
”恋人はいらないよ。好きになっても私なんかと付き合うよりももっとその人には幸せになって欲しいと思っちゃうからね。その人の幸せを望むんだよ”
(過去は知らないが平野だってたまには自分の幸せを求めてもいい)
そう蒼イオナは思った。
長い付き合いでなくていい、一時の淡い恋物語の様な思いをさせてあげたい。
蒼イオナはそう考えると平野菜月に向かうと突然
「ねえ菜月。突然だけどあんたどんな娘が好きなの?」
平野菜月は突然の問いに戸惑いながらも
「私のタイプ?抽象的かもしれないけど雪の様な人だよ」
蒼イオナは少し首を傾げると
「雪?」
と聞いた。平野菜月は遠い目をすると
「淡い雪の様な感じで、綺麗で、でも積もる事もなく解けゆく様な儚さを持ってるというか…。でもその雪は見ている人の気持ちを綺麗に、温かくさせてくれるんだ」
と蒼イオナへ語ってみせた。その言葉に蒼イオナは少し困った顔で
「んー、なんかもっと具体的にはないの?」
と平野菜月へ問いつめた。平野菜月も蒼イオナの問いを不思議に思いながらも
「具体的かい?難しい事いうな。理想のタイプは綺麗な長いさらさらとした髪の白い肌の人?そんな感じでいいかい?」
蒼イオナはやっと出てきた具体的な言葉に満足すると、平野菜月に向かい
「少し出かけてくるわ。」
そう言うと仕事をしている平野菜月の元を飛び出した。
心当たりが少しある。蒼イオナはその心当たりへ向かい急ぎ空を飛んだ。
必然の出会い。
そんなものがあってもいいかもしれない。
蒼イオナはそう思いながらその人物の元へ急いだ。


ー 必然の出会い ー

「ねえ、菜月。時計台の方に行ってみない?」
蒼イオナは突然平野菜月へと切り出した。
「時計台?あのバレンタインに告白するとカップルになれるっていう伝説ができている時計台の事?何でいきなりそんな事言うんだ?何か変だぞ。」
平野菜月は蒼イオナの顔を覗き込むと疑惑の目で見つめた。
蒼イオナはそんな平野菜月にそっぽを向くと時計台の方向を指差し
「と、とにかく時計台に向かうの!きっといい事があるから。」
その言葉に平野菜月は渋々ながらも時計台へと歩きはじめた。
時計台に近づくにつれ蒼イオナの機嫌がだんだんと良くなっていくのに平野菜月は多少の不安を覚えた。
しかし蒼イオナの言う通りに行動して今まで平野菜月の希望するような出来事が起きたのでその不安は胸の奥に押し込める事にした。

「誰かその子を捕まえて下さい!」
時計台のある公園までくるとそんな声が聞こえた。
声の方向へ顔を向けるとそこには一直線にこちらに向かってくるミニチュアダックスと儚げな少女の姿。
平野菜月は少女の姿に心を奪われたが、足下で嬉しそうに走り回るミニチュアダックスに現実に連れ戻された。
「ありがとうございます。」
息を切らせながら走り寄ってきた少女はとても儚げで平野菜月が今までに会った事の無いような少女だった。
腰までのびた綺麗な青のストレートヘア。吸い込まれそうな青い瞳。
そして透き通るような白い肌。寒さのせいか頬はほんのりとピンクに染まっている。
平野菜月が蒼イオナに言った理想の女性そのものだった。
「ありがとうございます。私、氷崎・葵と言います。」
少女はそう言うと平野菜月へ微笑み
「お礼をさせていただきたいのですがお名前を教えて下さい。」
平野菜月は捕まえた犬を氷崎・葵に差し出すと
「えーと、平野菜月と言います。」
そう言うと少し顔を赤らめ俯いた。


ー 少しだけの ー

「平野さん。」
氷崎・葵は元気に平野菜月へと声をかけた。
時計台の下で待っていた平野菜月は笑顔で氷崎・葵へと答える。
初めて会ったあの日から平野菜月と氷崎・葵は奇妙な関係を築いていた。
それは”バレンタインまでの限定の恋人”と言う関係。
言い出したのは蒼イオナだった。
初めは断っていた平野菜月も氷崎・葵の
「私、バレンタインの日に一人って少し寂しいなって思ってたんです。もし平野さんさえよければ・・・」
と言う言葉を聞き嬉しいやら、恥ずかしいやら色々と複雑な気持ちになりながらも現在に至っている。
今日でもう6日目。明日はいよいよバレンタインだ。
平野菜月は明日で氷崎・葵ともお別れだと思うと少し寂しい気持ちになった。
「平野さん、どうかしたんですか?」
氷崎・葵の心配そうな声に平野菜月ははっとした。
「いや、何でも無いんだ。明日はバレンタインだなと思って。」
そう言うと氷崎・葵に笑ってみせた。氷崎・葵はその言葉に目を輝かせて
「そうですよね。明日なんですよね。私頑張ってチョコレート作りますね。それともチョコレートケーキの方がお好きですか?」
平野菜月の顔を覗き込むと氷崎・葵は楽しそうに問いかけた。
「葵さんが作るものならきっと何でも美味しく食べられるよ。」
優しく微笑むと平野菜月は氷崎・葵へと言った。
「そうだと嬉しいんですけど、私こういうのにあまり慣れてなくって・・・」
氷崎・葵は少し俯くと顔を赤くしながら平野菜月に語った。
平野菜月はそんな氷崎・葵の姿を見て優しげに微笑むと
「大丈夫。きっと美味しくできるよ。」
そう言うと氷崎・葵の手をそっと握った。
氷崎・葵も平野菜月の手を握り返すといつものデートコースへと歩きはじめた。


ー 時計台の住人 ー

「とうとうこの日が来ちまったか。」
バレンタイン当日、時計台の住人はいつもにも増して深いため息をついた。
「何ため息ついてるのさ。」
蒼イオナは時計台の住人に後ろから声をかけた。
時計台の住人は蒼イオナを見るとゴロンと寝転び
「何だ、お前さんか。で、お前さんの企みは上手くいってるのか。」
そう言い放った。その言葉に蒼イオナは少し複雑そうな表情を浮かべた。
「まあね・・・でも複雑な気持ちなのよね。だってあの二人は今日でお別れしなきゃいけないんだもの。せっかく仲良くなったのに。」
蒼イオナのその言葉に時計台の住人は寝転びながら
「お前さんと一緒にこの企みを企てた片割れもそんな事を言っていたな。ならあとは本人達の意思にまかせりゃいいだろうに。」
蒼イオナへとそう言葉をかけた。
「二人ともその意思があればね。でも・・・」
そこまで言うと蒼イオナは言葉を濁した。
「なんだい、ヤキモチってやつかい。女はだから面倒だ。」
時計台の住人は無愛想にそう言うと時計台のてっぺんから下の公園を見下ろした。
「もう昼の二時か。告白する人間が集まるのにはいい頃合いだな。で、お前さん達のカップルはいつここに来るんだ?」
そう問いかけた。その問いに蒼イオナは
「二人とも仕事があるから夕方の6時に待ち合わせしてる。」
蒼イオナの言葉に時計台の住人は満足すると
「仕方がねえな。サービスしてやるからお前も協力しな。片割れにはもう伝えてある。」
その言葉に蒼イオナは少し首をかしげると時計台の住人に向かい
「サービスぅ?何それ??」
と問いかけた。しかし時計台の住人はその言葉には答えず。
「ともかく夕方にまた来るこった。その時に教えてやるよ。」
そう言うと黙って時計台の下のカップル達を静かに見つめた。
蒼イオナはこれ以上聞いても無駄だと言う事を知ると時計台から離れた。
(二人はどうなるんだろう・・・)
蒼イオナは自分で仕組んだ企みを少し後悔した。
もし平野菜月を傷つけるような事になったら、そう考えると蒼イオナの気持ちは暗くなるのだった。
(みんな幸せになれる方法ってないのかな)
そんな事を考えながら蒼イオナは平野菜月の傍へと戻った。


ー 終わりとはじまり ー

平野菜月は仕事が終わると待ち合わせの時計台へと急いだ。
蒼イオナも一緒に来るのかと思ったが
「最後なんだから二人でゆっくりしたら?」
と蒼イオナらしくない言葉が向けられ平野菜月は拍子抜けした。
(いつもの蒼イオナじゃなかったな。でも今日でお別れだから気を使ってくれたのかな?)
平野菜月はそう考えると時計台へと急いだ。腕時計を見ると時間は6時を指していた。
「少し遅れるかな。」
そう呟くと平野菜月は前を向いて走りはじめた。

平野菜月が時計台の見える所まで来た時すでに氷崎・葵は時計台の前で少し寒そうに待っていた。
「遅れてごめん。待ったよね?」
氷崎・葵を見つめ平野菜月は申し訳無さそうに語りかけた。
その言葉に氷崎・葵は首を振って
「私もさっき来た所ですから。」
少し微笑むとそう言った。しかし頬は寒さでほんのりピンクに染まり”今来た”とは言えないような色だった。
平野菜月は氷崎・葵の手をそっと握るとひんやりと冷たさが伝わってきた。
「本当は待ってたんだろ。いいよ気を使わなくても。」
氷崎・葵は少し舌を出すと、平野菜月に向かい
「お決まりの台詞、言ってみたかったんです。ごめんなさい。」
と謝った。彼女のささやかな望みだったのだろう。それを聞くと平野菜月は優しげに微笑んだ。
その微笑みを見ると氷崎・葵は赤い紙袋を平野菜月へと差し出した。
「これ、あの・・・頑張ったんですけど見た目があまり良く無くて・・・」
氷崎・葵は少し俯くと上目加減で平野菜月を見つめた。
平野菜月は赤い紙袋を受け取ると
「開けてもいい?」
と氷崎・葵に聞いた。氷崎・葵は少し恥ずかしそうに小さな声で
「はい。」
と答えた。平野菜月が中を開けるとそこには少しカタチがいびつなトリュフチョコが入っていた。いかにも手作りと言う感じが平野菜月には新鮮で心が少し温かくなった。
そしてその横にメッセージカードがついているのに気がつきカードに手を伸ばす。
氷崎・葵はそれに気づくと
「あ!」
と短く叫んだ。その声に気づきながらも平野菜月は好奇心に勝てずメッセージカードをっ開いた。そしてそこに書かれていたのは
(お友達になって下さい)
という氷崎・葵の言葉だった。平野菜月は驚き氷崎・葵を見つめた。
「えっと、あの。やっぱりこのままお別れするのは少し寂しいかなって。だから嫌じゃなければ。」
氷崎・葵は恥ずかしそうに俯き顔を赤らめると平野菜月へ言った。
その言葉に平野菜月は氷崎・葵に近づきそっと手を握ると
「喜んで。」
そう答えた。その時だった
ボーン、ボーン、ボーン
鳴るはずの無い時計台の鐘が鳴りはじめたのだった。と、同時に空から雪が降り始めた。
「綺麗。」
氷崎・葵はそう呟くと平野菜月の手をそっと握った。平野菜月も空を見上げ
「そうだね。」
と呟くと氷崎・葵の手を優しく握り返した。


「ま、こんなもんだろう。」
時計台の住人は満足すると二人を会わせる企みをした二人を見つめた。
「そっちの嬢ちゃんは不満そうだな。」
そう蒼イオナへと語りかけた。蒼イオナは無愛想に
「別に。不満ってわけじゃないけど、まあ菜月がし幸せになってくれるならそれでいいんだわ。」
その言葉に時計台の住人は満足すると
「まあなるようになるさ。あとは二人次第だ。」
蒼イオナにそう言うと時計台の下の二人を見つめた。



バレンタイン
それは平野菜月と氷崎・葵にとって恋人としての終わり。
そして友人としての始まりの日になった。
そのあとの物語はまた時計台の住人が語ってくれるだろう。

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