ブラームスはお好き?

2010/06/19(土)01:22

池袋駅とマタイ受難曲

J.S.バッハ(11)

 毎日、通勤で池袋駅を使う。  毎朝、同じ時刻に、同じ柱に寄りかかり、蹲っている初老の男がいる。  彼を毎日眺める、  毎朝、同じ時刻に、同じ改札をくぐり、通過していく僕がいる。  彼が池袋駅のその柱から離れるのと、僕がその駅の改札を通らなくなるのと、  どちらが早いだろうか。  どちらが長くその場所に留まり、どちらが早くその場所を去るのだろうか。  深夜の池袋駅で、マタイ受難曲を聴いた。  構内のすべての建造物が、協会のように美しく思えた。  在り来たりの広告ポスターが、宗教画のように貴重な存在に見えた。  醜く疲弊した人々は、敬虔な巡礼者のようだった。  マタイ受難曲は、人間のあらゆる場面を包む力がある。  そっと寄り添ってきて、いつの間にか、それなしでは世界が成立しないかのような、  そんな存在感のある、不思議な音楽。  池袋駅でも、  マタイ受難曲は、  マタイ受難曲のままで、  整然と鳴り響く。  それが僕の小さなアイポッドの中に取り込まれた電子データだっとしても。  それを聴く者がどんなに卑小で低俗で無能な存在だったとしても。  

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