2010/11/07(日)22:13
ドライアップシート
11月6日、彩の国さいたま芸術劇場。
アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルによる、
「ドライアップシート」(3つの別れ)
http://www.saf.or.jp/arthall/event/event_detail/2010/d1106.html
を観てきた。
『3Abschied』
3つの別れ。
マーラー最後の交響曲「大地の歌」の最終楽章、
「告別」の3つのバリエーション。
アンヌは、ダンサーとしてこの曲を表現しようとする。
ダニエル・バレンボイムは、彼女の企画を聞いたとき、こう言ったそうだ。
「やれやれ、ダンサーはいつもこれだ。
あなたが躍るべき音楽は、あなたが躍るために書かれた音楽は、たくさんある。
しかも、まだまだ多くのものが、抽斗の中に眠っている。
でももし、あなたが躍るにふさわしくなく、あなたが躍ってはならない音楽が
あるとしたら、それは、マーラーの「告別」だ。」
と。
それでも、彼女は果敢にも挑戦した。
はじめに、彼女は、ブルーノ・ワルターが指揮し、キャスリン・フェリアーが歌うウィーン・フィルの「告別」の録音を流し、その音楽を聴くということを、観客と共有した。
次に、彼女は、シェーンベルクが室内楽版に編曲した「告別」を演奏する15人の音楽家たち(13人の演奏家と、指揮者、ソプラノを合わせた15人)の「中に入って」この音楽に対する共感を表現した。
最後に、彼女は、ピアノの伴奏に合せて、自ら歌い、躍り、「告別」という音楽と同化しようとした。
彼女はもちろん声楽家ではないので、その声量は小さく、か細いものだったが、それがかえって、切実で、リアルで、純粋で、美しいものとなった。
公演終了後、
観客からの質問に答える時間が設けられた。
印象に残った質問と、アンヌの回答がひとつ。
問「あなたは、(演奏者が去った後の)椅子の周りで躍り、その前には、演奏者の傍で躍ったりしていましたが、あなたにとって、椅子や奏者はどのような存在だったのですか?」
答(唇を意地悪そうに曲げて)
「チェアー・イズ・チェアー。
ミュージシャン・イズ・ミュージシャン。(笑)」
(真面目な顔に戻って、補足するように)
「私とこの場を共有した存在。」
ダニエル・バレンボイムの予言は、
半分は確かに当を得ていたものだったが、
残りの半分は、完全に間違っていた。
この曲は、ふつう考えられているよりも、
ドラマティックかつロマティックで、
静謐で瞑想的な、
祈りにも似た音楽であり、
もっとたくさんの人々に大切にされるべき、
大きな存在だと思った。