ジュリーニ=BPOの奇跡 ~フランク 交響曲二短調 1986~
僕はこれまでいくつかカルロ・マリア・ジュリーニの素晴らしさについて書いてきた。 しかし、このフランクの交響曲について語ることは、非常に難しい作業になりそうだ。 なぜなら、この録音は 非の打ちどころがないほど・完璧 なのだから。 それは、ロダンの「ピエタ」を見た人が 「ありえない美しさ」 とだけ言い残してその場を去ることと似ている。 ジュリーニが鳴らすベルリン・フィルの音は、 カラヤンのそれとは明らかに違う。 貴公子のように自然な爽やかさと高貴さを持ち、 中庸の美をわきまえる知性があるばかりか、 駿馬の大腿部のようにキリリと引き締まった凛々しさを兼ね備えているのだ。 ジュリーニとベルリン・フィルの奇跡。 この録音は、フランク唯一の交響曲にして、3楽章の交響曲の傑作。 僕はこの録音でこの曲に出会ったことを幸福に思う。 コンサート・マスターの安永徹氏が 「今年一番のいいコンサートだった」 と呼んだ 指揮者、オーケストラ、曲目が三位一体となった奇跡の録音である。 彼のウィーン・フィルとの再録音も確かに重厚でさすがと言わざるを得ない出来ではあるが、 このBPOとの奇跡とは比肩すべくもない。 あるときカラヤンは、ジュリーニを評して 「私の理想的な後継者」 と呼んだことがある。 それを耳にした自由人ジュリーニは、即座に 「私にその意思はない」 と答えたそうだが、 カラヤンは知っていたのだ。 ジュリーニという硬骨の指揮者は、この世界最高のオーケストラからカラヤンにも出せないような音を自然に出すことのできる奇跡のような男なのだと。