月夜に夢を　　

お客様のところにも　だいぶシングルマザーが増えた。
新しく入られた方の“扶養控除申告書”をいただくときに
所得控除の関係上　いつも一応確認している。
「離別ですか？死別ですか？」といった意味のことを。
そりゃこっちだって訊きにくいことだし
あちらだって　答えにくそうな表情を一瞬みせる。
だから懺悔の意味で　
「お仲間ですね。ワタシもシングルマザー　母子家庭です。」と
彼女らには一応声をかけることにしている。

そんなわけで　月夜夢がそうだということを知った彼女らから
それを前提に感情を吐露されることもあったりする。
通常伝票をチェックしたりしながら　耳を傾けたりするわけだが
今日はさすがに作業する手がとまってしまった。

「あたし　子供嫌いなんですよ」

今まで　そうはっきり言ってのける人間には出会ったことがなかった。
そう。自分以外には。
いや　さすがのワタシだって　こうは言うまい。
それぐらい　強く断言した口調だった。

「衣食住の面倒をみてやるのは　義務だと思うから仕方なくやってるけど」

今の職場に移ってちょうど収入のラインが微妙で
市営住宅の家賃があがってしまうかもしれない、
児童扶養手当も満額はもらえなくなる、
そのくせ仕事は大変で　メリットなんて何一つ無い、
そうぼやく彼女に　
「でも　家に早く帰れるようになったのはよかったんじゃないですか？」
と水を向けたところ　きっぱりと否定された。

自分の帰宅時間が早まったら　
子供達が全然手伝ってくれなくなって　頭に来るだけだ、
早く帰ったって仕方ない、
そう　言うのだ。

まだ　小学生の子供達に親と話す時間が必要ないと言うのだろうか。


ワタシの子供嫌いと　このひとの子供嫌いは根本的に違う。
深く考えざるをえなかった。夢にまでみるほどに。

ワタシの子供嫌いは　育児嫌いという意味も含まれている。
非効率的なものこそが人間を育てるためには大事であり
労した割に目に見えるはっきりした効果などすぐには確認できず
そして　自分自身の欲求を抑制したり
ときには犠牲にしなければならないことが多々ある
そういう育児そのものが嫌いなのだ。

そして　嫌い嫌いといいつつも　産んだからにはやるしかない　
そういった義務感なり束縛感なりが　さらにワタシを子供嫌いにさせる。

つまり。ワタシは嫌いとは言いつつも　それなりに手をかけて
自分のもてるだけの能力をすべて出し切って　娘を育てている。（つもり）
だっていくら育児が嫌いで　自分が母親に向いていないとは自覚しても
娘達自身のことが嫌いなわけではないから。
彼女らが自分達の人生を愛でてくれることを心から願っている。


衣食住だけ満たしただけでは　子供は育たないよ。
そんなことは　母親である彼女自身よくわかっているはずなのだ。
事実　自嘲気味に彼女はぼそりと言っていたんだもの。

「あとでとてつもないしっぺ返しが来るかもしれないんだけどさ」


ああ。この世のすべての母と子の上に愛を与えたまえ。


ワタシは宗教家でもなんでもないのだけれど
切なくそう思った夜だった。