月夜に夢を　　

断然　桜より梅だと思う。

だが　柵で囲われた中に行儀よく並んでいるような姿は
どうにも似合わない気がして　何度か訪れた越生はあまり好きではなかった。

それに対して　確定申告休み初日の今日　足を運んだ秋間梅林は気に入った。
斜面に続く梅の木の連なりは　やはり"林"と呼ぶのにふさわしい。
山道を感じさせるような遊歩道の土の感触を楽しみながら歩いていくと
ふっと　視界がひらけ　梅の花の淡いグラデーションが目にとびこんでくる。

平日で　しかも空が今にも泣き出しそうだったこともあり　人がほとんどいない。
思う存分　静寂を楽しむことができた。

年間でこの季節しか開かないであろう　まるで海の家のような古びた売店で
名物だという"いも串"を頼むと　これが予想以上に美味だった。
里芋をゆでて串にさしたものを焼き　甘い味噌だれをかけてあるのだが
その里芋が　なんとまあ　綺麗に同じ大きさにまん丸いのだ。
こうした小さな丸のカタチの里芋の種類でもあるのかと　不思議に思って尋ねると
「普通のやつを丸くするんですよ」と半ば自慢げにおばちゃんは言う。
ああそうだ。
きっと普通のてんでばらばらの大きさやカタチの里芋が串にさしてあったなら
確かに売れ行きは鈍るだろう。たとえ　同じ味でも。


帰り道　日帰り温泉まで足を伸ばす。
ここも人がいない。露天風呂は　ほとんど貸しきり状態。
ぬるめのお湯につかりながら　ひたすらぼーっとした。


活字を読まず　数字も扱わず　見知らぬ土地で誰一人知人会うこともない。


今日は　私にとっての静。
動には静が必要で　静があるからこそ動が輝くのだと思う。

そして　梅には断然静が似合うと思う。