頑張れ東北！みちのくの光は消えず～2003.1.1

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• 翼が欲しい？

  　４月から始まったＮＨＫ朝ドラ「虎に翼」は、男尊女卑の時代に生まれた猪爪寅子（いのつめともこ、渾名はトラコ）が人権意識に目覚め、女性初の弁護士・判事・裁判所長として活躍する姿を描く。モデルとなったのは三淵嘉子（武藤嘉子、1914-84）で、女性に法学の門戸を開いていた唯一の大学である明治大学に進み、1940年、同窓の中田正子や久米愛と共に女性初の弁護士となった人である（以下は主としてWikipediaを参照した）。　　1941年、嘉子は武藤家の書生をしていた和田芳夫と結婚したが、太平洋戦争の勃発により、1945年に長男や弟の妻子と共に会津へ疎開。夫の芳夫は召集先の中国で発病し、1946年に長崎で亡くなった。1947年、嘉子は司法省に裁判官採用願を提出し、1949年に東京地裁判事補、1952年に名古屋地裁判事となった。1956年、同業の三淵乾太郞と再婚する。この年には、いわゆる「原爆裁判」を担当。国の賠償責任については請求を棄却したが、一方で「原爆投下は国際法違反」と明言し、注目された。　「虎に翼」は、古代中国の思想家・韓非（かんぴ）の言葉。Wikipediaでは「鬼に金棒と同じく、強い上にもさらに強さが加わる、の意味である」としているが、これは半分誤りで、本当は「権勢は人を従わせる大きな力であるがゆえに、それを扱う者が賢良かつ有能でないと、恐ろしいことになる」というのが正しい。夫れ勢は、治に便にして乱に利なる者也。故に『周書』に曰く「虎の為に翼を傅（つ）くる毋（なか）れ。将に飛びて邑（むら）に入り、人を択（と）りてこれを食らわんとす」と。夫の不肖の人を勢に乗ぜしむるは、是れ虎の為に翼を傅くる也。（『韓非子』勢編）　すなわち、為政者が虎で、権勢が翼。虎に翼を付けてやったら、村に飛んできて人を食うようなことになるかも知れぬ。古代の聖王とされる堯（ぎょう）や舜（しゅん）なら良くて、悪逆を尽くした夏王桀（けつ）や殷王紂（ちゅう）は駄目だと言っても、堯・舜や桀・紂は特別な存在で、千世に一人出てきただけでも大変な珍しさである。だから中程度の、特別ではない人物が権勢を持てば世は治まるというもので、それを待つ方が現実的だ、と韓非は言う。　これを法律の話に置き換えれば、裁判官が虎で、法律が翼。裁判官は法律を恣意的に運用することがないよう、常に自らを戒めよ、という意味が込められたタイトルだと思うが、どうか。

  2024年04月12日

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  割と好評

  　1月4日の日記に、次のように書いた。年末・年始を東京で過ごし、本日、帰青。『詰将棋パラダイス』1月号を開いてみたら、10月に投稿した作品が、短期大学の所に載っていた。解答募集の関係で作意手順は暫く書けないが、力試しのつもりで挑んで貰いたい。　で、結果は令和6年4月号に掲載された。そちらはフリーページ欄の「入選作021 詰将棋パラダイス 令和6年1月号」で確認いただきたい。

  2024年04月01日

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  退任の日

  本日を以て、教師生活は終了。これから何かやるかもしれないが、転居の件もあり、当面は無職だ。勤務先で離任式・退任式があり、挨拶を求められた。以下は、その時のスピーチ。　「皆さん、私は何歳に見えますか？」（会場、笑）という質問を、私は4月の最初の授業ですることにしていました。私は３月３日が誕生日で、ついこの間、６３歳になりました。１０年前に本校に来た時は「３０歳」「４０歳」と言われましたが、この頃は白髪がすっかり増え、「５０歳」「６０歳」と、相応に見られるようになりました。私は２４歳で教師になりましたから、今で３９年間ですね。途中、県の博物館で学芸員をやったり、県の歴史の編纂の仕事をしたりしていたので、普通の先生よりは、学校で勤務した年数は少ないです。でも、結局は、本校での勤務がいちばん長くなりました。先ほど、修了式で校歌を歌いましたが、本校の校歌は、良い校歌です。最後に一緒に歌えて、嬉しかったです。​​アメリカのメジャー・リーグで活躍したイチローさんは、引退後も向こうに住んでいますが、オフ・シーズンになると、日本に帰って来ます。それで、全国の高校の野球部を回って、臨時コーチをやっています。５０歳近くなってもまだ身体が動くので、バッティング、守備、走塁、トレーニングなど、いろんなことを実践して見せます。生きたお手本ですね。それで、練習の終わりに「今日やったこと、覚えた？」「これからも、君たちのこと、見てるからね」「ちゃんとやってよ」と声を掛けて去って行きます。何かの番組でそれを見た時、この「ちゃんとやってよ」というコトバが、私には強く印象に残りました。ここでいう「ちゃんと」はおそらく、「できる、できない」の話ではなく、「続けてやれるか、やれないか」の意味だと思うからです。　　​​私は将棋が好きで、暇があれば、相手を見つけて指していました。大会にも出て、少しは強くなり、あと一つ勝てば全国大会へ、という場面もありました。当時は、勝っても負けても、家に帰ってきたらすぐにその日の対局を思い出して盤に並べ、勝因・敗因を分析して、メモをとりました。将棋のことしか考えない「将棋バカ」の時期が、確かにありました。その時は、将棋を「ちゃんとやって」いたのです。​​​今、退任をするに当たり、改めて、何かを「ちゃんと」してみたいと思っています。私は３月で本校を離れますが、いろんなことの引き継ぎがまだあるので、ちょくちょく、顔を出すことになると思います。君たちに会ったら「ちゃんとやってる？」と聞きますから、君たちも「やってるよ。先生は、ちゃんとやってる？」と返してください。お互いに今できること、やるべきことを、継続してやりましょう。私は楽しみにしています。ありがとう。さようなら。　離任者・退任者は早く帰って良い、というので、玄関まで出たら、生徒たちが「ちゃんとやってる？」と声を掛けてくれた。「ありがとう、ちゃんとやってるよ」とタクシーの中から手を振った。彼らは私の思いを、ちゃんと受け留めてくれていたのだ。これが正しく、教師冥利というもの。

  2024年03月26日

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  礼を尽くす

  ​​　​​東日本大震災が発生した3月11日になると、当時のことがまざまざと思い出される。その繰り返しで13年が過ぎたが、多くのエポックの中で、東京都知事を務めていた石原慎太郎が東京消防庁に出向いてハイパーレスキュー隊員に頭を下げたシーンは、強く心に残っている。石原の談話はYouTubeで見られるが、日経ビジネスHP「もう一度読みたい」（2022.2.1付）に、「追悼 石原慎太郎氏、震災から7年後に明かした「天罰発言」の真意ーいつから日本人は自分のことだけ考えるようになったんだー」という坂田亮太郎のインタビュー記事があるので、こちらも読んでみて貰いたい。以下は、それらを掻い摘まんだものである。　震災直後、福島第一原発の危機が叫ばれている中、政府関係者から石原に消防活動への協力要請が入った。3月17日午前のことである。東京消防庁のレスキュー隊を派遣してくれ、という。最初は「強力な放水機能を持つ放水車を出して」という話だったが、石原は「通常車両は仰角（放水角度）が低いから、原子炉への注水には向かない。よく検討して」と返答する。　その後、「高層ビルの火災に使うような高度作業用消防車を」と再要請があり、ここで石原は迷った。現地の状況が分からず、原子炉から多量の放射能が漏れているかもしれない。そんな危険な現場にレスキュー隊を出したら、死者が出るかも。とは言え、過酷な現場で作業できるのは訓練された隊員しかなく、石原は戦地に兵隊さんを送り出すような心境になった。18日未明、レスキュー隊と特殊車両は、福島へ向かった。○坂田：苦渋の決断だった、と。○石原：原発事故は東京だけの問題じゃない。日本全体の問題だった。東京は日本の「要」であるし、東京にしかない能力も備えている。…福島第一原発は、容易ならぬ事態に陥っていた。だからこそ都知事として、私が逃げ出すわけにはいかないと覚悟を決めた。　途中、派遣されたレスキュー隊が政府からの連絡不足で引き返してくるような場面もあり、現場到着は一日遅れた。それでも隊員たちは、散乱する瓦礫を避け、電源を確保し、ホースの取水口を合わせるなど、懸命な作業を続けた。放水は19日深夜に始まり、うまく水が入って、燃料棒の冷却ができるようになった。最悪の事態は免れたのである。作業は20日未明まで続き、以後も断続的に行われた。総水量は4224トン。自衛隊・警察機動隊・東電の放水・撒水量は1036トンだから、レスキュー隊の投入は、大きな成果を挙げたと言えよう。　一方で、レスキュー隊は首相官邸から、理不尽な言葉を投げかけられていた。「早く放水を開始しないと、処分するぞ」という警告である。その話を聞いた石原は、激怒する。○石原：…自分たちは現地に行かず、お前らの手違いで人を待たせておいて、命がけの覚悟で現地に赴いた隊員に「命令を聞かなければ処分する」などと高圧的に命令するなど言語道断だ。　石原は急いで官邸に電話し、菅直人首相に面会して、発言者の責任を問えと迫る。後にＫ経産大臣が「行き違いがあったようで」と謝罪したが、石原はその態度を「無責任」と断罪している。　21日、レスキュー隊が引き揚げてくると、石原はすぐに東京消防庁に出向き、「皆さんのおかげで、日本は助かりました」と涙ながらに感謝の意を表した。　未曾有の事態ゆえ、政府内にも混乱があったのは仕方ないが、人への対応は別の話だ。上に立つ者が部下を正しく評価する時、人の和が生まれ、組織は団結する。ましてや緊急時には、自分のことより他人のことを優先できるかが、大きなカギとなる。そのような場面こそ、真っ当な人間観、倫理観が求められるのではないかと、石原は言いたかったのだろう。

  2024年03月11日

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  ありがとう、さようなら

  　桐朋学園の創立に関わった齋藤秀雄は多くの音楽家を育てたが、没後10年にあたる昭和59年（1984）、指揮者の小澤征爾の呼びかけで結成されたサイトウ・キネン・オーケストラは、大いに話題となった。同年9月に東京と大阪で「齋藤秀雄メモリアル・コンサート」が開かれたが、そのどちらかをワタシはテレビで観た。冒頭に流れたのがチャイコフスキー「弦楽セレナード ハ長調　作品48」で、バイオリン、ビオラ、コントラバスの一糸乱れぬトゥッティ（総奏）で始まる序奏の美しさに感動した。演奏者個々の実力の高さは勿論だが、何よりも「師の音楽を共に体感してもらいたい」との情熱が伝わってきた。それをまとめ上げる小澤の力量は流石としか言い様がなかった。　ワタシの手元には、平成４年（1992）にPHILIPSから出た『チャイコフスキー 弦楽セレナード／シェーンベルク 浄夜 他』の2枚組CDがあるが、今日の小澤の訃報に接し、改めて聴き直している。合掌。

  2024年02月09日

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  派手さはないが

  　昨年11月2日の日記に、次のように書いた。『詰将棋パラダイス』11月号の短大解説を読み終えて、今月の出題を確認しに行ったら、9月に投稿した作品が、短期大学の所に載っていた。投稿から採用までは早くて３か月というのがこれまでだったが、２か月での採用は初めてだ。ともあれ、同じ号に自分の名前が２つあるというのは、嬉しいもの。解答募集の関係で作意手順は暫く書けないが、力試しのつもりで挑んで貰いたい。ちなみにこれが、入選20作目となる。…で、結果は令和6年2月号に掲載された。そちらの中身は、フリーページ欄の「入選作020 詰将棋パラダイス 令和5年11月号」で確認いただきたい。大駒4枚はすべて捨駒として使うが、手順は至って箱庭的だ。

  2024年01月31日

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  年の初めに

  　年末・年始を東京で過ごし、本日、帰青。『詰将棋パラダイス』1月号を開いてみたら、10月に投稿した作品が、短期大学の所に載っていた。解答募集の関係で作意手順は暫く書けないが、力試しのつもりで挑んで貰いたい。

  2024年01月04日

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• 記憶の中に

  　サッカーの試合（日本vsタイ）を見終え、テレビの前で寛いでいた時、少しく揺れを感じた。体感では震度１か２だったが、いきなり「北陸で震度６強の地震発生」の緊急ニュース速報が流れ、「津波の恐れ」「今すぐ避難を」「高台に逃げて」と、矢継ぎ早の呼びかけが始まった。やがて震度７に訂正され、倒壊した家屋や道路のヒビ割れなどの映像が映し出されるに及んで、深刻な被害の実態が伝わってきた。　2011年3月11日の東日本大震災から、約13年が経った。しかし、東北の復興の道は、未だ半ばだ。その傷が癒えぬ間に熊本で地震が起き、今また、能登半島の地震とは、どこまで行っても日本は、地震列島なのである。被災者の無事を祈りつつ過ごす、元日の夜。

  2024年01月01日

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• 東京へ

  　この数年は、年末に上京して妻の所で過ごし、三ヶ日開けに青森へ戻るようにしている。今年は暖冬で道路に雪がなく、朝のバスも遅れずに新青森駅へ着いた。新幹線は3時間強だが、ひと眠りできるから、さほど長いとも感じない。上野に着いたのは昼過ぎ。巣鴨駅の「富士そば」で遅めの昼食を摂り、家へと向かう。　玄関を開けると、自転車置き場に土が盛ってあった。この間、近所のネコがネズミを置いていったとかで「触れないよー」と妻が愚痴っていたのが、これだな。リュックを下ろしてスコップを取り、埋めてやろうとその辺のマットを持ち上げたら、カエルが飛び出た。「ギャー」と叫ぶ妻をよそ目に「まぁまぁ、大したことはないから」とお尻をつつき、どかしておいて、その跡にネズミを埋めた。カエルの方はマットを戻しておけば、勝手に潜り込むんだろう。家に入る前のひと仕事もまた、ご愛敬。

  2023年12月28日

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  素材１３８

  　今年もあと２週間。今日は風が強く冷え込んではいるが、雪はそんなでもない。歩きやすくて助かるが、まだ冬は序の口だから。買い物帰りに閃いた、一筆書きの９手詰。【手順】２３角、１３玉、２２角、２４玉、３４角成、１４玉、１３角成、同玉、２３馬　　　　　まで９手詰

  2023年12月17日

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  季節が違うよ

  　11月9日、歌手の大橋純子が亡くなった。73歳没。食道ガンの再発で闘病中だったという。大橋は昭和51年（1976）に「ペイパー・ムーン」がヒットし、以後も「シンプル・ラブ」「たそがれマイ・ラブ」「サファリ・ナイト」などを立て続けにヒットさせた。昭和57年（1982）には「シルエット・ロマンス」で日本レコード大賞最優秀歌唱賞を受賞するなど、その歌唱力でスターへの階段を上った。　同じ事務所に、10月18日に亡くなったもんたよしのりが居る（本名は門田頼命＝かどたよしのり、72歳没）。もんたは「もんた&ブラザーズ」として再デビューした昭和55年（1980）の「ダンシング・オールナイト」で、若者を魅了した。そのパワフルなハスキー・ボイスを創るため、波止場に行って大声を張り上げ声を潰した逸話は有名だ。　実力抜群の二人がデュエットを組み、コーセー化粧品・夏のキャンペーンソング「夏女ソニア」を発表したのは、昭和58年（1983）。ワタシが大学4年の時である。その圧倒的な迫力は、間違いなく、時代の最先端を走っていた。もんたはこの年、自身が作詞・作曲した「ギャランドゥ」を西城秀樹（1955-2018）に提供している。　それにしても、今の季節は夏じゃなく、秋なんだよ、二人とも。早すぎるよなぁ。合掌。

  2023年11月09日

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  連続で

  『詰将棋パラダイス』11月号の短大解説を読み終えて、今月の出題を確認しに行ったら、9月に投稿した作品が、短期大学の所に載っていた。投稿から採用までは早くて３か月というのがこれまでだったが、２か月での採用は初めてだ。ともあれ、同じ号に自分の名前が２つあるというのは、嬉しいもの。解答募集の関係で作意手順は暫く書けないが、力試しのつもりで挑んで貰いたい。ちなみにこれが、入選20作目となる。

  2023年11月02日

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  月の替り目

  　5月に『詰将棋パラダイス』へ投稿した作品が、8月号「短期大学」に採用された。解答募集の関係で作意手順は暫く書けないが、まぁ、力試しのつもりで挑んで貰いたい。……と、前回とほぼ同じ表現を使い回している（はは）。持駒の多さは気になるが、筋が掴めれば難しくはないはず。で、結果は令和5年11月号に掲載された。そちらはフリーページ欄の「入選作019 詰将棋パラダイス 令和5年8月号」で確認いただきたい。

  2023年11月01日

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  秋に逝く

  　往年のフォーク・グループ「アリス」の谷村新司（たにむら・しんじ）が、10月8日に亡くなった。74歳。　昭和46年（1971）末、堀内孝雄と組んで出発した「アリス」はなかなか売れなかったが、谷村らは地道にライブ活動を続けた。年間303ステージを踏んだとの記録もあり、デビュー5年目の昭和50年（1975）、ようやくにしてヒット曲「今はもうだれも」を掴んだ。以後、「冬の稲妻」、「涙の誓い」、「ジョニーの子守唄」、「チャンピオン」、「狂った果実」などメガヒットを連発し、スターダムにのし上がった。　ギター少年だったワタシは、「チャンピオン」をよく歌った。コード進行が簡単で乗りが良く、周りと合わせやすいからだ。当時の中高生は誰でも、フォークギターを弾いたものである。ギターが少し上手くなって、アルペジオやスリー・フィンガーに興味が出てくると、「秋止符」が好きになった。アリス17枚目のシングルで、昭和54年（1979）の発売（作詞：谷村新司　作曲：堀内孝雄）。その美しい歌詞にも心、惹かれた。　　左ききのあなたの手紙　右手でなぞって真似てみる　　いくら書いても埋めつくせない　白紙の行が　そこにある　　　友情なんて呼べるほど　綺麗事で済むような　　　男と女じゃないことなど　うすうす感じていたけれど　　あの夏の日がなかったら　楽しい日々が続いたのに　　今年の秋はいつもの秋より　長くなりそうな　そんな気がして　ファンにとっては、「チンペイさん」の渾名の方がなじみ深いか。安らかにお休みください。合掌。

  2023年10月16日

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  素材１３７

  　いろいろ作っていると、同じような作品ができることがあるが、本作も最後に、７手一組のあの手筋が出てくる。新鮮味は皆無の１５手詰。【手順】２３角、１１玉、２２角、同玉、３２飛成、１３玉、１２角成、２４玉、３４馬、１５玉、１６歩、同と、２５馬、同玉、３５龍　　　まで　１５手詰

  2023年09月09日

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• 人こそ宝

  　「照千一隅」というコトバそのものではないが、その由来になったと思われる話なら、司馬遷「史記」に次のようにある。威王二十三年、与趙王会平陸。二十四年、与魏王会田於郊。魏王問曰、「王亦有宝乎？」威王曰、「無有。」梁王曰、「若寡人国小也、尚有径寸之珠照車前後各十二乗者十枚、奈何以万乗之国而無宝乎？」威王曰、「寡人之所以為宝与王異。吾臣有檀子者、使守南城、則楚人不敢為寇東取、泗上十二諸侯皆来朝。吾臣有眄子者、使守高唐、則趙人不敢東漁於河。吾吏有黔夫者、使守徐州、則燕人祭北門、趙人祭西門、徙而従者七千余家。吾臣有種首者、使備盜賊、則道不拾遺。将以照千里、豈特十二乗哉！」梁恵王慚、不懌而去。　（｢史記｣田敬仲完世家）　威王の24年（前358年）、会見の席で魏侯は「あなたも財宝を持っているでしょう？」と威王に聞いた。威王は「持っていない」と答えた。魏侯は「我が国は小国ですが、それでも車12台分の長さを照らすほどの光を放つ径1寸の珠を10枚は持っています。どうしてあなたが持っていないと？」と問うた。威王は「私の考える宝は、あなたが言うそれとは違う。家臣の檀子に南城を守らせると、楚人は攻めてこなくなり、泗上の12諸侯が皆、朝貢するようになった。眄子に高唐を守らせると、趙人は河の東まで来て漁をすることがなくなった。黔夫に徐州を守らせると、燕人が西門に、趙人が北門に集まるようになり、7000余もの家が従うようになった。種首に盗賊を取り締まらせたら、道に落ちている物さえ拾う者がいなくなった。これらの宝は、千里をも照らす事ができますよ。車12台どころでは」と答えた。これを聞いた魏侯は恥じ入り、去った。　昨日のブログで触れた「山家学生式」にも「径寸十枚、是れ国宝にあらず」とある。真の宝は「物」ではなくて「人」なんだと、最澄も言いたかったのだ。　※威王…田因斉。のちの斉王。鄒忌を相国、田忌・孫臏を将軍として、政治改革と軍事力強化に成功。最強国の魏と対峙し、桂陵の戦い（前353年）、馬陵の戦い（前341年）に大勝して、魏を衰退させた。前334年、斉王を自称した。　※魏侯、梁恵王…姫罃。のちの恵王。宰相の公叔痤が推薦した公孫鞅（商鞅）を登用せず、秦への逃亡を許した結果、商鞅の手腕で急速に強国化した秦の侵攻を受け、徐々に領土を削られた。馬陵の戦い（前341年）で斉に大敗すると、すかさず侵攻してきた秦にも敗れて魏都の東遷を余儀なくされたため（安邑→大梁、現在の開封）、梁王とも呼ばれた。

  2023年09月08日

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  一隅（いちぐう）を照らす

  　夏休み前に知り合いから『岩手に始まる八戸藩』（佐々木勝宏、山口北州印刷、2000円＋税、2023年7月刊）という本を貰い、夏休みが明けた今になって、礼状を書いた。八戸南部家の濫觴（らんしょう）について『盛岡タイムス』に連載し（108回!!）、その記事をまとめたとかで、文章表現こそ易しいが、内容はかなり専門的。知らなかった事もあり、同じ八戸藩を研究している者として、大いに勉強になった。　見返しにワタシへの為書きがあり、その中に「照于一隅　此則国宝」と書いてあった。天台宗の開祖・最澄（伝教大師）が嵯峨天皇に提出した「天台法華宗年分学生式」（山家学生式の一つ）の冒頭にある、有名なコトバだ。八戸出身のプロ棋士・池田修一七段（故人）がよく使っていたっけ。　この「照于一隅」は通常「一隅を照らす」と読まれるが、異論もある。「于」という文字が「千」という字にも見えるからだ。その点を指摘したのが仏教学者の薗田香融（そのだ・こうゆう、1929-2016）で、著書『平安仏教の研究』に次のようにある。　・中国の古典に「照千一隅」という表現がある　・だから「于」という文字は「千」が正しく、「照于一隅」も「照千一隅」のはず　・これは「一隅を守り千里を照らす」と解すべきである最澄の直筆（写真）では「于」か「千」か判然としないが、「天台法華宗年分学生式」の10か月後に追加で提出された「天台法華宗年分度者回小向大式」に「千里の内」という文言があるから、おそらく、薗田の指摘は正しいのだろう。　　現前の一の伝戒師を請し、以て現前の師と為す。若し伝戒の師なくんば、千里の内に請　　す。若し千里の内に能く戒を授くる者なくんば、至心に懺悔して必ず好相を得て、仏像　　の前において自警受戒せよ。　それでも、ワタシ的には、慣例に従って「一隅を照らす」と読みたい。「誰も注目しないような物事に意を向けて、誠実に取り組む人こそ尊い」という意味に解する方が、自分にできることをするという感じがあって、いかにも修業者的ではないか。

  2023年09月06日

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  夏の旅　その５　札幌～新青森

  　「サッポロ」の地名は、アイヌ語の「サッ・ポロ・ペッ」（sat-poro-pet、乾いた大きい川、松浦武四郎説）、または「サリ・ポロ・ペッ」（sari-poro-pet、葦原が広大な川、山田秀三説）に由来するとか。文献学的には、寛文蝦夷蜂起（シャクシャインの戦い）における弘前藩士の報告書に「さつほろ」の表記がある。　一、石狩湊口より一里程登り候て、はつしやふより弐里程登り候てさつほろと申所に犾有、　　さつほろの枝川に竪横半里計りの沼御座候由、（下略）　　　　　　　　　　　　　　　（津軽一統志・巻第十之下、弘前市立弘前図書館蔵八木橋文庫）　初めて札幌を訪れたのは、中学校の修学旅行の時だから、14歳か。自動販売機で買ったファンタの缶が八戸のそれより大きかったことに驚いたぐらいで、これといった想い出がない。　その次は、H大の二次試験を受けた時で、17歳。ホテルの暖房のオン・オフがよく分からずに風邪を引いてしまい、試験当日は頭痛・発熱・悪寒・咳き込み、結果が良いわけがない。　その後、18歳で小樽に住んだが、将棋の大会で札幌に出ることはあっても、終われば直ぐに帰るのだから、何ということも。　32歳で学芸員になり、歴史関係の調査で何度か札幌を訪れたが、北海道開拓記念館、北海道庁、北海道大学附属図書館など、専ら宿泊先と調査先を往復するばかりで、観光スポットに行ったことがない。薄野（すすきの）で杯を上げるとか、ラーメン横丁に出向くとか、サッポロビール園でジンギスカンを食べるとか、夜の楽しみも、同行者があってのこと。独りの時はホテル近くで夕食を済ませ、部屋でお茶を飲みつつ、昼間の残務整理をするのが定跡。下戸だから、そんな過ごし方も苦にならなかった。　そう言えば、某高校でクラス担任をしていた時、「海猿になりたい」と言う生徒がいた。成績も人柄も良かったので、「まずは公務員になって、それから考えたら？」と水を向け、北海道の某大学への推薦入学はどうか、と持ちかけた。その時、「先生、札幌と仙台って、どっちが大きいんですか？」と聞かれ、イスから転げ落ちそうになった。「あのな、仙台の人口はどれぐらい？」「100万ですよね。デカいです。」「札幌は？」「青森よりはデカいでしょ。50万ぐらいですか？」…黙って地図帳を渡し、統計のページを開かせたら「180万！」と叫んだ彼。あれから20年近い月日が経ったが、彼は元気で居るだろうか？　今日、62歳のワタシは妻と２人で札幌に居る。人生は、実に不思議だ。けれども、ハード・スケジュールで余裕がなく、観光は諦めて早々に帰途に就くことに。昨夜は駅ビル「エスタ」のラーメン共和国「札幌真麺処 幸村」で味噌ラーメンを食べたが、昼は軽く蕎麦にしようかと、再び「エスタ」に入って「そば・うどん 霧の下」の暖簾を潜った。それにしても、猫型ロボットが接客していたのには驚いた。昔、東京で知り合った某アパレル会社の社長さんが「新作は札幌で試してみる。札幌で評判が良ければ、東京で出せる」と言ってたのを思い出した。札幌は、新しいものが見られる街だ。　札幌から苫小牧を過ぎ、八雲に入った辺りで、黒い雲が出てきた。雨が降る気配はないが、海面が少し波立ち、カモメの一団が岸壁で羽を休める姿が見えた。新青森に着いたのは17時過ぎ。５時間30分の旅程だ。飛行機なら１時間弱だが、それでもワタシは、列車の旅を選び続けるだろう。

  2023年08月14日

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  夏の旅　その４　小樽～札幌

  　小樽では運河の近くのホテルに泊まったが、時期が時期とて、予約を取るのに苦労した。素泊まりでも普段の倍ぐらいの料金で、これは仕方ないことである。前日の夜は海鮮丼を食べたが、折角なので、ちゃんとした鮨も食べたい。店探しは妻に任せることにして、ワタシは独り、別行動を取った。実は44年前、ワタシは小樽商科大学の学生だった。事情があって半年で辞したが、そこで出会った友人とは、今でも交流が続いている。その後、１度だけ大学を訪れる機会があったが、それとてもう30年前の話である。「札幌・旭川まで行くんなら、小樽へも是非」と妻に頼み込んで、立ち寄ることにしたわけだ。　小樽駅から大学までは２kmほどだが、ダラダラと長い坂道があり、「地獄坂」と呼ばれている。学生の頃は山手に住んでいたので、大学との往復に苦労した記憶は無いが、飲み会やイベントで駅方面に降りたら、帰りが大変だ。それでも若い頃なら歩くんだろうが、今は歳を取ったし、夏の盛りに無理をして旭山動物園でのようにならないとも限らない。タクシーを使わないとすれば路線バスしかなく、一律料金240円を払って大学行きのバスに乗り込んだ。バス停の脇にテニスコートがあるが、以前は一つのグラウンドだった。下宿で仲良くなった金子さん（仙台出身）がサッカー部に入るというので、ここでボールを蹴っていた学生の所に走って行ったが、頭を掻き掻き戻って来た。「どうしたの？」「高校生だった！」と漫才のようなやりとりがあり、「だったら、将棋部に入らん？」と水を向けたワタシ。　正門横の守衛室に来意を告げ、キャンパスに入った。大学は夏休みなので、当然、学生は居ない。建物の配置はほとんど忘れていたが、学生会館への連絡通路まで来て「ここから将棋部の部室に行けるんだよな」と、記憶が蘇った。通路の脇を抜けた所に敷地外への階段があり、そこを通って下宿と大学を往復していたのだ。大学に来るとまず、教室に入る前に部室に顔を出し、講義を終えてまた、部室に戻る。強い人と指すのが楽しく、棋力も飛躍的に伸びたが、陰では別な大学を受け直すか悩んでいて、悶々と過ごしてもいた。その頃に、映画『青春の蹉跌』（神代辰巳監督、萩原健一主演、1974年）を観て「蹉跌」＝「つまずき」という難しいコトバを知り、自分で選択できる内にと、退学する決断をしたのである。　一通り見終えたところで、妻から連絡が入る。ホテルの脇に「小樽堺町通り商店街」があるから、そこで昼食にするというのだ。「昼前なら混まないはずだから」という読みはピッタリで、11時30分に入った「巽鮨」（たつみずし）はなかなか落ち着いた、良い雰囲気の店だった。一所懸命に探してくれたんだろう。ちなみに巽（そん）＝辰巳（たつみ）は、南東の方角を表す文字だ。勿論、素晴らしい鮨を出してくれる店で、２人とも大いに満足したことである。　札幌への移動までは時間があるので、運河クルーズの申し込みに行ったが、人気のアトラクションゆえ直ぐの予約は適わず、１時間後の乗船となった。20人ぐらいで満席の小船だが揺れも少なく、水面の近さも感じられ、乗船時間の40分はあっという間に過ぎた。最後に結構な雨が降ってきて、カッパを着てのクルージングとなったが、それはそれでご愛敬。猛暑の中の、一服の清涼剤である。

  2023年08月13日

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  夏の旅　その３　美瑛～富良野～札幌～小樽

  　美瑛という町名は、アイヌ語の「ピイェ」piye（油っこい、油ぎっている）が原義だそうな。町を流れる美瑛川の水源に十勝岳があり、水が濁っていた様から付いたという。旭川の四大河川（美瑛川、石狩川、忠別川、牛朱別川）の中では2番目に長いが、唯一、石狩川には合流していない。なかなか、個性的な川である。　美瑛町の観光スポットを効率よく観るには、町が運営する「美遊バス」が便利だ。我々は午前コースを選び、白ひげの滝、青い池、四季彩の丘、新栄の丘を周った。白金温泉のど真ん中にある「白ひげの滝」は40mほど上の橋から観るとかで、高所恐怖症のワタシはアウト。妻に滝の写真を撮ってもらったが、確かに素晴らしい眺めではある。　白金温泉から少し下ったところにある「青い池」は、アルミニウムを含む水がコロイド粒子を生成し、それが太陽の光を散乱させるので、青く見えるのだとか。土砂が流れ込むと茶色になったり、緑色になったりする。つまりは、水そのものが青いわけじゃないから、コップで掬っても青色は見えない。色の深さだけなら十二湖（青森県深浦町）の「青池」の方が上の気もするが、行きやすさではハッキリ、美瑛の「青い池」の方が勝る。「青い池」の周りにあるコンクリート・ブロックは十勝岳の噴火対策で、溶岩流・火砕流のスピードを落とすためのものとか。約8000個が置かれているそうだ。　次に訪ねたのは「四季彩の丘」。色とりどりの花畑が帯状に配列されていて、赤・白・黄・緑のコントラストが見事だ。ガイドさんは「30分ぐらいで回れますよ」と言ってたが、見渡した限りじゃとてもとても、優に１時間はかかりそう。けれど、入場口には20人ぐらい乗れるトラクターバスが何台もあり、カートやバギーも用意されている。ちゃんと準備ができている点が小憎らしい。　最後は「新栄の丘」。波状の丘陵が連続する広大な緑に、青い空と白い雲がよく映える。安政5年（1858）3月10日（グレゴリオ暦同年4月23日）にこの地を通過した松浦武四郎の碑があったので、記念にパチリ。ガイドさんと武四郎の話をしていたら、美味しそうなソフトクリームがあると妻が言う。食べてみたら、これが秀逸。ガイドさん曰く、「これはね、観光客には教えないことにしてるんですよ」。近くの周東牧場が提供する朝搾り生乳の風味は、牛乳本来の濃厚な味わいに満ちている。「なるほど、周東だからソフトが合うんですね」と言ったら、大いに受けた（野球選手の周東佑京はソフトバンク・ホークスに所属）。　昼過ぎに美瑛駅へ戻り、遅めの昼食を摂る。ここからは富良野まで出て根室本線に乗り、滝川～札幌～小樽をめざす強行軍だ。富良野駅のホームで電車を待っていたら、前の方にいた男性が突然、倒れた。何人かが駆け寄って声を掛け、水を掛け、ホームに転落しないように身体を支える。ワタシは駅舎に向けて「駅員さん！！人が倒れてますよ」と、何度も大声。幸いにして意識はあり、後の処置は駅員さんに任せて、我々は電車に乗り込んだ。　長大な路線を抱えるＪＲ北海道の経営は、かなり厳しい。「その２」に代替バスの話を書いたが、災害を契機に、富良野の東側路線の一部は2024年3月末での廃止が決まった（富良野～布部～山部～下金山～金山～東鹿越～幾寅～落合～新得）。映画「鉄道員」の舞台となった幾寅駅（南富良野町）も無くなるわけで、何とも寂しいことである。　西側路線（富良野～野花南～上芦別～芦別～平岸～茂尻～赤平～東滝川～滝川）だって乗客数の減少が激しく、良い状態ではない。富良野を出るとすぐに長いトンネルがあり（滝里トンネル）、抜けるまでに７～８分は掛かったが、その音の大きさと言ったら！メンテナンスは大変だし、費用も掛かるが、地方における鉄路の重要性は、都会のそれとは全く異なる。鉄道ファンができるのは路線存続を願うこと、せいぜい鉄路を使うこと、この２点しか無い。　滝川でライラック号の自由席に乗り、札幌に着いたところで「ふらの・びえいフリーきっぷ」の役割が終わる。札幌～小樽は約40分だから、もう一踏ん張りだ。

  2023年08月12日

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  夏の旅　その２　旭川～美瑛

  　旭山動物園は旭川市の郊外にあり、40分間のバス移動となる。9時30分の開園に合わせて行ったが、その段階でもう40～50人ぐらい並んでいた。夏の土・日は入場者が1万人を超えることもあるそうで、驚くほどのことではないのだろうが。フラミンゴやトラ、ライオン、エゾシカ、ペンギン、シロクマを観た辺りまでは良かったが、午後からは脚がだるくて、坂を登れなくなった。かなり水分を摂ったはずだが、今にして思えば、軽い熱中症になっていたのかも知れぬ。ＴＶでは「本日の旭川の最高気温は28℃です」と言ってたが、体感温度は32℃ぐらいか。妻はオランウータンやチンパンジー、カバやキリンを独りで観ることにして、ワタシはベンチで小休憩。１時間ほどで回復し、オオカミを観てから、サル山で妻と合流したが、そこで「小銭入れを落とした方、案内サポートセンターへどうぞ」と放送が入る。ハッとしてズボンを探ると、有るべき物が無い。急いで行ってみると、確かにワタシの小銭入れだった。ベンチで寝転んだ時に落としたんだろう。対面では言えなかったが、拾ってくれた人には感謝、感謝。　妻的には「もう１日、観たい」ぐらいなんだそうだが、先々の予定というものもある。この後は旭川駅まで戻って富良野線に乗るのだが、幸いにして１本早いバス、１本早い電車に乗れた。座った瞬間「この電車は少し遅れて発車します」とアナウンスがあったものだから、「奇跡的だね」と、思わず顔を見合わせる。　当初は、富良野へ出て帯広に向かうつもりが、根室本線の東鹿越～新得間は洪水による不通のため代替バスになってるそうで、乗り換えの煩雑さを思って、少し退いた。そしたら妻が「美瑛に青い池というのがあるそうよ」と言うので、美瑛での宿泊に変えたのだった。　美瑛駅の周辺はよく整備されていて、たくさんの美しい家が建ち並んでいる。そう言えば、富良野線の沿線には瀟洒（しょうしゃ）な家が多く、景観に気を遣っているのが分かった。民宿に入るとフランス人男性が出てきて、コテージに案内してくれた。駅の裏手の「コエル」で夕食を済ませて戻ると、バイクの集団も泊まりに来ていて、宿全体が賑やかになっていた。昼間の暑さは少し和ぎ、時折、爽やかな風が吹き抜ける。妻が熱く語るカバの話を聞きつつ、いつしか眠りに落ちたことである。

  2023年08月11日

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  夏の旅　その１　青森～札幌～旭川

  　妻は大変な動物好きで、YouTubeの「もちまる日記」などを視ては独り悦に入っているが、この頃になって「旭川の旭山動物園に行きたい」と言い出した。否、その話は数年前からあったが、ワタシが単身赴任状態で休みが合わず、今夏なら何とかなりそうということで、出かけてみる気になったのだ。とは言え、２人とも飛行機が苦手だから、移動はすべて電車になる。新青森から旭川までは約550kmあり、新幹線と特急列車を乗り継いで、ざっと6時間30分だ。それでなくても妻は普段から、腰が痛いと言ってるのに。「本当に大丈夫なの？」とワタシも一応は気遣うが、「長年の夢なのよね…」と宣うものだから。「この頃は、北海道も暑いんだけどな」と呟いてみたものの、北海道はワタシにとっても思い入れのある土地だから、ここは素直にお伴することにして。切符や宿泊の手配をしたり、新しいポロシャツを選んだり、L.L.Beanの大型ザックを買ったりしているうち、あっという間に出発の日になった。　歴史関係の仕事をしていたので函館や札幌には何度も行ったが、旭川は初めてだ。朝7時に家を出て、バスで直に新青森へ。青森駅で乗り換える手間と時間が省けるし、混んでないから確実に座れるのが良い。北海道内の特急列車には自由席があるが、勝手が分からないので、札幌との往復分は指定席を取った。新札幌の手前で「左手にＦビレッジが見えます」のアナウンスが。札幌ドームと袂を分かった日本ハム・ファイターズが北広島市に建設した、エスコン・フィールドを中心とするスポーツ・タウンだ。できれば野球観戦などしたかったが、今回は泣く泣く見送ることに。　旭川方面に行くには「ふらの・びえいフリーきっぷ」が便利だ。有効期間は4日間で、フリーエリアに入る時と出る時に特急の自由席が使える。今回は、札幌～旭川～美瑛～富良野～滝川～札幌をめぐる予定を立てた。旭川は道内最大の盆地である上川盆地にあり、石狩川、牛朱別川、忠別川、美瑛川など多くの河川が合流する。冬は明治35年（1902）1月25日に-41.0℃（日本の最低気温）を記録し、夏も令和3年（2021）8月7日に37.9℃を記録したことがある。人口は北海道第2位となる32万だが、かつては36万を超えていて、ここにも少子高齢化や社会的減少の影響が現れている。とは言え、街は結構な数の観光客でごった返していて、夕食の予約がなかなか取れない。ジンギスカンの有名店も「今、17時過ぎですよね。それじゃ、1時間30分待ちですね」とつれない返事だ。2、3軒電話してやっと、「羊菜亭」というしゃぶしゃぶの店を見つけた。ラム肉・ブタ肉・ラーメンでとにかく腹を満たし、明日の旭山動物園に備えて早めに休むことにした。

  2023年08月10日

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  暑中ながらも

  　5月に『詰将棋パラダイス』へ投稿した作品が、8月号「短期大学」に採用された。解答募集の関係で作意手順は暫く書けないが、まぁ、力試しのつもりで挑んで貰いたい。……と、前回とほぼ同じ表現を使い回している（はは）。持駒の多さは気になるが、筋が掴めれば難しくはないはず。で、結果は令和5年11月号に掲載された。そちらはフリーページ欄の「入選作019 詰将棋パラダイス 令和5年11月号」で確認いただきたい。

  2023年08月01日

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  素材１３６

  　７月下旬に入って急激に暑くなった青森。ネブタの時節となり、街のあちこちから、太鼓や笛の音が聞こえてくるようになった。明日は、高校野球の決勝戦だ。　最後のところで「成り」でも「成らず」でも良い非限定があり、止むなく投稿を見送った１５手詰。【手順】２２銀、同玉、３３銀、１２玉、１４香、同角、２２飛、１３玉、２４飛成、同銀、３１角成、２３玉、２２馬、３４玉、４４銀成　　　　まで１５手詰

  2023年07月26日

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  奇跡のバックホーム

  　本日、阪神タイガースは横田慎太郎・元選手の訃報を発表した。28歳。2019年9月に引退した際の理由が脳腫瘍で、おそらくはその再発・転移と思われる。　横田は鹿児島実業高校の出身。1年時から四番を打ち、外野手兼投手として活躍した。2013年秋、ドラフト2位で阪神に入団。背筋力は約170kg、遠投力は105ｍ、50ｍ走は6秒1と、その身体能力で「糸井２世」と呼ばれた。　誰もが将来のクリーンアップと期待し、順調に成長していた矢先の2017年。春のキャンプの最中に原因不明の頭痛が続き、離脱を余儀なくされる。精密検査で脳腫瘍と診断され、入院・手術・リハビリ生活に。11月、阪神は横田と育成選手契約を結んだが、年俸はそのまま据え置くなど、できる限りバックアップする姿勢を示した。　しかし、横田の体調が完全に戻ることはなかった。2019年の春季キャンプには参加し、二軍の公式戦にも帯同したが、「自分で打った球が全く見えない」「打撃投手に投げてもらった球が二重に見える」という状態で、実戦復帰できなかった。球団は翌年も契約する方針を示したが、横田は「来シーズンは苦しい」と言い、9月22日、引退を発表した。　同月26日、福岡ソフトバンクホークスとのウエスタン・リーグ最終戦（阪神鳴尾浜球場）で、横田は1096日ぶりに公式戦出場、８回表２死二塁の場面でセンターの守備につく。二人目の打者塚田正義が打ったゴロを捕球すると、本塁へのノーバウンド送球で二塁走者を刺してみせた。このファインプレーが、横田の現役生活の締めくくりとなった。　引退後は阪神に残る道もあったが、横田は「誰の手も借りずに1人で生活することに一度挑戦したい」と言って、講演や執筆活動を始めた。YouTubeにも登場し、元気そうに明るく振る舞う様子を見せていたが、2020年７月に脊髄の腫瘍が見つかり、再び闘病生活に入った。その間に引退までの道程を記した著書『奇跡のバックホーム』（幻冬舎）が出版され、2022年３月にはドキュメンタリードラマにもなった。　競争厳しいプロ野球の世界で、引退試合をやってもらえる選手は、実はそう多くない。阪神がそれをセットしてくれたのも、本人の人柄や努力ぶりを、周囲がしっかり見ていたからである。訃報に接して、引退試合の映像をもう一度見てみたが、ラストプレーの動きは、病気の人のそれではなかった。それこそ横田自身が、　ー最後にまさかこんなに素晴らしい思いが出来るとは夢にも思いませんでした。　ー今まで辛い思いをしてきたこともありましたが、自分に負けず、自分を信じて、自分なりに　　　　　練習してきたので、『神様は本当に見ている』と思いました。と試合後のセレモニーで述べたように、どうしてボールがグラブに入ったのか、どうしてキャッチャーまで真っ直ぐに投げられたのか、説明が付かないのだという。その時に見せた表情に横田の健気で真っ直ぐな人柄が覗いているようで、ワタシは思わず、涙してしまったことである。合掌。

  2023年07月18日

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  東北絆まつり　その八　後日談

  　午後から市内出張で、青森県総合社会教育センターへ。会合のある部屋へ向かう途中に、大型の金魚ねぶたが飾ってあった。そのこと自体は珍しいわけでもないが、よく見ると、花笠をかぶったり、太鼓を持ったり。この間の「東北絆まつり」仕様なのだとか。青森の人間はつくづく「お祭りが好きだなぁ」と、実感したことである。

  2023年06月27日

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  オタクサ憧憬（しょうけい）

  　６月と言えば、梅雨（つゆ）。梅雨と言えば、紫陽花（アジサイ）。花言葉は「移り気」「無常」「浮気」だが、それは花の色が様々に変化することに由来するのだとか。花びらのように見えるのはガクで、「装飾花」と呼ばれる。その内側に本当の花「真花」がある。雄蘂（おしべ）も雌蘂（めしべ）も退化していて実は結ばないから、増やし方は「株分け」か「挿し木」しかない。「株分け」は植え替えのためのスペースが必要だが、枝を利用する「挿し木」は狭くてもOK。観賞用として愛される所以（ゆえん）である。　文政6年（1823）に来日したドイツ人フィリップ・フランツ・バルタザール・フォン・シーボルト（Philipp Franz Balthasar von Siebold、1796-1866）は、医師であり、博物家であり、植物標本の収集家だった。外科医としての腕は確かで、長崎の出島で開業した後、1824年には出島の外で蘭学指導する許可を得て、鳴滝塾（なるたきじゅく）で高野長英・二宮敬作・伊東玄朴・小関三英・伊藤圭介ら多くの医者・学者を育てた。1825年には出島に植物園を作り、日本を退去するまでに1400種以上の植物を栽培した。帰国後はライデン（現オランダ）に住み、コレクションを元にした「日本博物館」を開設した（1832年）。　シーボルトが帰国直後に出版した『フローラ・ヤポニカ』（日本植物誌）に、アジサイの図がある。シーボルトはこれを日本で見つけた新種として「オタクサ」Hydrangea otaksaと命名したが、後にヨーロッパに同種のもの（シノニム）があると判明し、新種記載はされなかった。　「オタクサ」の名称については植物学者の牧野富太郎が「長崎で妻とした楠本滝（おタキさん）に因んだのだろう」と推測している。タキが出島に出入りしていた遊女だったことから、牧野は「そんな卑俗な女の名を学問に使うなんて」と批判したが、女遊びに疎かった牧野には、シーボルトがタキを軽く見ていたとの思い込みがあったのではないか。ここで重要なのは、「おタキさん＝オタクサ」は牧野の仮説に過ぎない、という点である。　近年、出島に出入りできる女性は遊女だけなので、タキは引田屋（寄合町）の遊女「其扇」として出島に入ったのではないか、との研究が出た（石山禎一・宮崎克則「1830 年3 月帰国途中のシーボルトが其扇に送った手紙」、『西南学院大学博物館研究紀要』8、2020年）。いわゆる「名付遊女」（手数料を払って籍を置き名義を借りるもの）だが、形はどうあれ、シーボルトが「おタキさん」を真剣に愛し、正式な妻とし、１人の女児（イネ）を儲けたことは、紛れもない事実である。

  2023年06月25日

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  東北絆まつり　その七　ねぶたまつり（青森）

  　「青森ねぶた」が東北最大の祭りと言われる理由として、約250万人という抜群の集客力に加え、約２千万円を掛けて製作されるねぶた山車（だし）が15台も連なる豪華さが挙げられる。山車の製作は専門のねぶた師が請け負い、枠組み・紙貼り・下書き・色づけ・電飾などの工程を手際よく行う。約300人の人間を動かすことになるから、ねぶた師には経験が求められる。製作は専用の小屋の中で行われ、約３か月で完成する。完成した山車は高さ最大5m、幅は最大9mにもなり、台車に乗せられて引き回される。　「ねぶた」には「ハネト＝跳人」と呼ばれる踊り手が不可欠。色とりどりの花笠を被り、「ラッセラー、ラッセラー」の掛け声を発しながら、祭りを熱く盛り上げる。「ねぶた」の起源は七夕の灯籠流しとされ、「ネブリ流し＝眠り流し」の意味があるというから、「ねぶた＝眠たい＝睡魔」を払うという意味では、激しいジャンプを繰り返すハネトの役割は大きい。ちなみに、正式な衣装を着てさえいれば、観光客もハネトとして参加できる。衣装の貸し出しをしている店もあるから、８月冒頭の７日間、青森でエネルギーを発散したい向きにはお勧めだ。　ねぶたは夜の祭りだから、こんな風に、昼間に山車が通りを練り歩くのは珍しい。いつもとは変わった趣で、これはこれで味がある。隣に座っていた津軽弁の集団は、どうやら、ねぶたの関係者らしい。山車が目の前を通る時、女性が「お願い、お願い～」と叫んだら、目の前で山車が回転してくれたから、そんなリクエストに応えてサービスしてくれるんだと、なんだかホッコリしたことである。　馬には乗ってみよ、人には添うてみよ。「行ってみようよ」という妻の誘いがなければ出かけてないわけで、普段は見られないものが見られたという点で、これはなかなか良かったなぁ。

  2023年06月23日

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  東北絆まつり　その六　わらじまつり（福島）

  　福島市は福島県の県庁所在地だが、歴史的に見て会津若松や郡山の方が知名度が高く、青森県民から見て、今ひとつ影が薄い印象だ（失礼）。とは言え、地元出身の作曲家・古関裕而がＮＨＫの朝ドラ「エール」（2020年度前期）の主人公のモデルになって以来、知名度は確実に増しつつある。モモ・ナシ・ブドウ・リンゴ・サクランボ・イチゴなどの果樹王国であることも見逃せない。　山岳信仰で「三山」と言えば、月山・羽黒山・湯殿山の出羽三山が有名だが、福島市内から望む信夫山にも羽山・羽黒山・熊野山の三峰があり、毎年２月に「信夫三山暁まいり」という伝統行事が行われている。このうち、羽黒神社に奉納されている大わらじにちなんで開催されるのが「ふくしまわらじ祭り」である。伊勢参りなど長旅に出る人たちの安全や健脚を祈願するもので。長さ12ｍ、幅1.4m、重さ2ｔにもなる特大サイズの大わらじを担いで町中を練り歩くパフォーマンスが見所。決まったかたちというものはなく、自由なかけ声、独創的な振り付けが見られる。この日は大わらじの上に男性が乗っていて、担ぎ手に「ワッショイ、ワッショイ」と気合いを掛けるその様は、大阪・岸和田の「だんじり祭り」を彷彿とさせる。

  2023年06月22日

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  東北絆まつり　その五　すずめ踊り（仙台）

  　仙台七夕まつりは、巨大かつ鮮やかな笹飾りが立ち並ぶ仙台の街並みを鑑賞するもの。10ｍを超える竹に付けられた色とりどりの和紙飾りが風にたなびく光景は、涼しさを感じさせて心地よい。その分、人の動きは乏しいわけで、「東北絆まつり」では「すずめ踊り」が代わりを務める。　仙台すずめ踊りは、慶長８年（1603）に仙台城（青葉城）が落成した時に踊られた、との伝承がある。伝統的な「正調雀踊り」（はねこ踊り）は、右手に扇子を一本だけ持ち、時計回りに弧を描くように回すのが特徴である。しかし、年を経るにつれて廃れ、一時は伝習者が3人にまで減少していた。やがて、復興の動きが起き、昭和60年（1985）の「仙台・青葉まつり」を契機に「新・仙台すずめ踊り」が創作された。中腰でやや前かがみの姿勢で、両手には扇子を持ち体の前で8の字の形を描くように振り、足は二拍子に合わせて交差させるステップが基本だが、それ以外の動きは自由。即興性が強く、地域ごとに個性ある踊りが見られる。　なぜに「すずめ」かというと、仙台藩・伊達家の家紋が「竹に雀」だから。もっとも、「竹に雀」は上杉家の家紋でもあり、二つは微妙にデザインが違う。ところで、踊りの最前列に武将姿の御仁が出てきたのに驚いたらしく、隣に座っていた子供が「誰？」と聞いてきた。それで「伊達政宗だよ」と答えてあげたが、果たして、分かったかどうか。

  2023年06月21日

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  東北絆まつり　その四　花笠まつり（山形）

  　花笠まつりと称する祭は山形市の内外でいくつか開催されるが、この「山形花笠まつり」が最大規模で、約100万人が訪れる。華やかな衣装に身を包んだ踊り手たちが群舞する「花笠踊り」では、「ヤッショ、マカショ」の掛け声と太鼓の勇ましい音色が、場を盛り上げる。踊り手が花笠を振ったり回したりするたびに、山形の名産である紅花が風にうねるイメージが想像できて、見事だ。　妻も「迫力という点ではネブタが良いけど、踊りの見事さでは花笠踊りが一番ね。感動したわ」と、ご満悦な様子。　有名な花笠音頭は山形県村山地方の「土突どんつき唄」が元唄で、これにいろいろな歌の要素がミックスされて、昭和初期に民謡化されたとか。冒頭部の、　めでためでたの　若松様よ　枝も (チョイチョイ)　栄えて葉も茂る(ハ ヤッショ マカショ シャンシャンシャン) は余りにも有名だが、この「若松様」が山形県天童市の若松寺であることは案外、知られていない。最上三十三観音の第一番札所で、本尊の聖観世音菩薩（若松観音）が縁結びの仏様であることから、「めでたい、めでたい」となるわけだ。　ちなみに、歌詞は他にもたくさんあり、以下が代表的なものである。・わしがお国で　自慢なものは　茄子と　胡瓜と笠踊・裏の石橋　坂ならよかろう　とんと　踏んだら悟るよに・米のなる木で　作りし草鞋　踏めば　小判の跡がつく・俺が在所に　来て見やしゃんせ　米の　なる木がお辞儀する・花の山形　紅葉の天童　雪を　眺むる尾花沢・そろたそろたよ　笠おどり　そろた　秋の出穂よりまだ揃ろた・蔵王権現さんも　お盆の夜は　笠の　おどりに浮かれでる・吾妻十湯　白布に五色　うば湯　なめ川谷に湧く・赤湯ゆ煙り　ただようあたり　恋の　花咲くぶどう園・菊は宮内　あやめは長井　ばらの　名所は東沢・肌の白さよ　情けの深さ　あの娘　湯のまち上山・嫁ごとるなら　さくらんぼ娘　寒河江　そだちの色のよさ・秋の山寺　紅葉も見頃　私しゃ　年頃紅もさす・招く東根　自慢のものは　お湯に　りんごにさくらんぼ・酒田港へ　紅花積んで　流す　舟唄最上川・そろたおばこの　すげ笠ごしに　浮ぶ　鳥海出羽の富士・温海岳から　吹浦かけて　出羽の　三山夕涼み・蔵王むこどの　鳥海嫁ご　出羽の　三山仲人役・西の月山　おがんできょうは　ひがし　蔵王の夏まつり

  2023年06月20日

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  東北絆まつり　その三　さんさ踊り（盛岡）

  　盛岡市・東顕寺の裏手にある三ツ石神社には鬼退治伝説がある。鬼の乱暴に悩まされた里人が「三ツ石様」に「懲らしめてください」と願うと、三ツ石様はたちまちに鬼を三つの大石に縛りつけた。鬼は降参し、二度と悪さをしない、この土地に来ないと約束し、証として石に手形を残して逃げ去ったとか。鬼が退治されて喜んだ里人が「さんさ、さんさ」と踊り回ったことから生まれたのが、この祭だという。　ちなみに、この時の「岩に手形」が「岩手」の名の起こりともいうが、その時代に鬼殺隊が居れば、鬼は完全消滅するから手形も残らず、今の岩手県は無かったわけである（ウソウソ）。　さんさ踊りには、多くの和太鼓が参加する。敲（たた）き手の数は１万人。世界一の太鼓パレードである。独特のリズムと力強い音の響きに魅了され、2018年には4日間で133万人が盛岡を訪れた。今回の絆まつりは200人ほどの小規模編成だが、それでこれだけの迫力なのだから、実際はもっと凄いに違いない。おとなしいイメージのある南部人だが、これでなかなか、熱いのである。

  2023年06月19日

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  東北絆まつり　その二　竿燈まつり（秋田）

  　ちょうど東京から妻が来ていたので、二日目のパレードに出かけてみる気になった。青森に30年も住んでいながら、ねぶた祭りは2回しか見たことがない。人混みや喧噪が嫌いなわけじゃないが、バイクに乗っていた時に交通規制で国道が塞がれ、アパートに帰れなくなったのがトラウマになった。　今回は自転車で出かけ早々に場所を確保したが、持ってきた敷物が薄いビニール製で、これは失敗。堅いアスファルトに直かに座るようなもので、あちこちがゴツゴツしていて痛いこと、痛いこと。周りを見れば、厚手のウレタンボードみたいなものを敷いている家族連れが多く、なるほど、経験は大事だなと、妙に感心したことである。　思ったほどの暑さではないが、六月の日射しはそれなりに強い。無精なワタシは動きたくなかったが、妻から「道路の反対側に日陰があるよ」と言われてモソモソ。「日傘はご遠慮ください」「水分はこまめに補給してください」と係の人から声が懸かり、１時間ほど待って、遠くの方で何やら動く気配が。秋田竿燈まつりの始まりである。　この祭は真夏の病魔や邪気を払う「ネブリ流し」行事に由来し、250年以上の歴史があるんだそうな。ネブリ流し=眠り流しで、「青森ねぶた」もそれが起源とされるから、北東北に共通した習俗なのだろう。竿が稲穂で、提灯が米俵、という意味合いがあり、五穀豊穣を祈る祭りでもある。12ｍもある竹竿にたくさんの提灯をぶら下げて、重さは50㎏にもなる。それゆえパレードには参加せず、会場の一部で演技を見せるというやり方になるので、我々が座っているところからは大まかな動きしか見えない。　ワタシは以前、秋田へ古文書調査に行った時に、ホテルの裏の空き地で練習している様を見たが、妻は竿燈（かんとう）のかの字も知らないはずだ。提灯をぶら下げてゆらゆらとしなる竿燈を、絶妙なバランス感覚で肩に額にと乗せていく。その職人芸に、拍手や歓声が飛び交うそうな。毎年120万人以上も詰めかける来場者が期待するのは正しく、そのような会場の一体感なのだろう。

  2023年06月18日

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  東北絆まつり　その一　メイン会場

  　平成23年（2011）3月に起きた東日本大震災の鎮魂と復興を願って、東北六県の夏祭りを集結させる「東北六魂祭」が仙台で催されたのは、同年7月のこと。以後、六県回り持ちでの開催となり、観覧者数は仙台（2011）が37万人、盛岡（2012）が24万人、福島（2013）が25万人、山形（2014）が26万人、秋田（2016）が26万人、青森（2016）が17万人とカウントされた。　一番の見所は、青森ねぶた祭、盛岡さんさ踊り、仙台七夕まつり（すずめ踊り）、秋田竿燈まつり、山形花笠まつり、福島わらじ祭りの踊り手が列を成して練り歩く「六大祭りパレード」である。仙台七夕まつりは七夕飾りが主体なので、パレードには「すずめ踊り」が参加する。秋田竿燈まつりは、竿燈の持ち手に負担が懸かるので、パレード会場の一か所のみで技を披露する。　これが好評だったので、2017年からは「東北絆まつり」として継続されることとなったが、仙台（2017）､盛岡(2018)、福島(2019)と来たところへ、例の武漢肺炎騒ぎである。2020年は中止、山形（2021）はパレードなし（祭り道具や衣装の展示だけ）、秋田（2022）は感染症対策をしながらと、関係者の工夫で何とか実施。そうした努力の甲斐あってか、今年の青森は29万人の人出で盛り上がったのである。ちなみに、アスパム（三角形の建物で、青森市のシンボル）前にはアトラクション・ステージや棒パンコーナー、グルメ会場があって人集（だか）りが。ブルー・インパルスの編隊飛行もあったりして、そちらも大いに賑わっていたようだ。

  2023年06月17日

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  素材１３５

  　谷川浩司が「名人」のタイトルを獲得したのは、昭和58年（1983）6月15日、21歳の時。相手は加藤一二三で、谷川にとっては初タイトルだった。　加藤は14歳7か月でプロ棋士四段になった俊秀で、順位戦は毎年昇級、18歳でＡ級八段になったが、名人位を獲得したのは42歳だ。　将棋界において、「名人」のタイトルは特別の重みを持つ。C級2組からA級に辿りつくまで、最短で4年かかるし、強者揃いのＡ級リーグで優勝しないと、挑戦者になれない。加藤の前には大山康晴（名人通算18期）、中原誠（名人通算15期）という２人の大名人が居て、艱難辛苦の末に中原から獲った虎の子のタイトルを、たった1期で谷川に奪われてしまうのだから、勝負の神様は非情である。　谷川は14歳8か月で四段となり、加藤以来の中学生棋士として注目された（他に中学生で四段は羽生善治、渡辺明、藤井聡太がいる）。順位戦は初年度こそ次点で上がれなかったが、次の年からはしっかり昇級し、19歳で八段に。初参加のＡ級でもいきなり優勝し、名人戦に登場した。　あれから40年。谷川の最年少名人記録は、藤井聡太に破られた（20歳10か月）。七冠王はもちろん凄いが、名人戦の歴史をもっと伝えてくれたら、その偉業ぶりが理解できようというもの。せめて、何かしらのモニュメントをと思い、急ぎ作った15手詰。【手順】15銀、同銀、同歩、24玉、44飛成、同馬、33銀、　　　　同馬、35銀、15玉、26銀引、14玉、34龍、同馬、　　　　15銀打　　まで15手詰

  2023年06月03日

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  大激戦

  　南アフリカ共和国のダーバンで行われている「世界卓球2023」の第7日。女子シングルスの準々決勝に進んだ早田ひなの相手は、前の試合で平野美宇を4-0のストレートで降した王芸迪。世界ランク３位の強敵だが、早田は臆することなく、持ち前の強打で対抗していく。　3ゲームずつ取り合った最終第7ゲームは早田が8−5とリードしたが、王も粘って8−10と逆転。ここから早田が追いつき、壮絶なデュースの繰り返しに。途中、互いに微笑み合うような場面もあり、これは爽やかな激戦と評すべきか。　結局は、9度のマッチポイントを凌いだ早田が逆転し、21-19で振り切った。「これを越えてもあと4人いるのか」とインタビューに応える早田の目の動きが、改めて、中国選手の壁の厚さを思わせる。何はともあれ、お疲れ様！！

  2023年05月26日

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• 遠来近況

  ​　高校時代の友人Ｈ川から電話が来て、「仙台のＩ島が会いたいと言ってる。３人で飯でもどうか」と言ってきた。3人とも高校時代はギター部に所属し、フォークギターを抱えて歌っていた仲間である。Ｉ島の弟さんが八戸にいるのだが、今回は足を伸ばして青森まで来るという。そうなりゃ30年ぶりぐらいのこと、二つ返事でＯＫした。　「それじゃ、店の手配を頼む」と言うので、行きつけの三九鮨（青森市古川）に予約を入れた。駅から近いし、何と言っても、安くて美味いし。八戸の人間に青森の魚はどうなのよ、という向きもあろうが、そういう思惑は余計で、刺身も鮨もつまみもウケた。「回らない鮨は久しぶりだな～」としみじみ言うので、店に関してはナイスチョイスというところ。思い出話というのは案外出ないもので、仕事のこととか家庭のこととか、それぞれの生き様と来し方を語り合ううち、あっという間に３時間が過ぎた。　春秋時代の思想家・孔子（こうし、紀元前552頃-紀元前479）の死後、孔子とその弟子たちの言行をまとめたのが『論語』。全10巻20篇の中に、512の文章がある。第１巻の冒頭が「学而篇」で、有名なあのコトバで始まる。　​子曰、「学而時習之，不亦說乎？有朋自遠方来，不亦楽乎？人不知而不慍，不亦君子乎？」（子曰く、「学びて時にこれを習う、また喜ばしからずや。朋あり遠方より来たる、また楽しからずや。人知らずして怒らず、また君子たらずや」と。）　​孔子はおっしゃった。「学んだことを、実践を通して自分のものにしていくのは、喜ばしいでないか。遠方から同好の士がやってきて共に学び合うのは、楽しいではないか。他者に認められずとも憤慨せず、ただやるべきことをやる人は、立派な人物ではないか」と。　孔子の言う「朋＝友」とは同じ学問の道を志す者のことだが、それを「人生の友」と置き換えたって全然、構わないのだ。年齢を重ねるにつれ、旧友に会いたくなる、話をしたくなるのがまた、人情というものではないか。

  2023年05月20日

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  面目を施す

  　今日はバス遠足で、弘前へ。弘前市観光館には10時に着いて、クラス写真を撮った後、生徒は14時30分まで散策。すぐ隣が図書館なので、顔を出し、受付の知り合いに挨拶を。「あれれ、H田さん、今日はどしたの？」「あはは、遠足の引率で、少し時間ができたので」と気の措けない会話をし、古文書を一つ出して貰って、撮影に及んだ。「仕事中にも仕事かぁ。大変だの～」「いやいや、こちらは研究用なので、趣味の世界ですね」と軽口を叩いていたら、あっという間に昼食の待ち合わせ時間に。　坂本町の「菊富士本店」は、地元では知られた郷土料理の店。実は３月に研究会の飲み会がここであったが、昼間に来るのは初めてだ。料理自体はなかなかで、今度は誰かと来ても良いかな、と思っていたら、「H田先生、これ、何て読むんですか」と声が掛かる。陶板のいろり鍋コンロに書いてある字を読んでくれ、というのである。「どれどれ、えーと、かざしみる、道行人の、た●●●て、桜に匂ふ、きさらきの●。この●●が読めないなぁ」「へー。でも、９割方、読めてるじゃないですか。流石ですねぇ」…と褒められたって、その残り１割が問題なのだ。帰ってきてから調べてみたら、藤原定家「詠花鳥和歌」の一つと分かった。　字面＝可佐しみる　道行人の　たもと満て　桜に匂ふ　き佐ら起の空　表記＝かざし見る　道行人の　たもとまで　桜に匂ふ　きさらぎの空「かざし見る」を「かざし折る」としたものもある（例えば書陵部所蔵「霊元天皇宸翰古歌短冊」など）が、このコンロの字は明らかに「かざし見る」である。また、きさらぎ＝如月＝２月だから「桜じゃなくて、梅じゃないの？」と訝（いぶか）しむ向きもあろうが、旧暦２月は今の３月だから、桜で良いのだ。　　　　桜と言えば、弘前城の桜。お城の桜は散っちゃったが、こんなところで別な桜に出会うなんてね。はは。

  2023年05月10日

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  京都の女

  　高校時代の同級生T.Ｈ.は、大学を卒業後に京都で職を得、退職後もそのまま京都で暮らしている。時折、京都の美しい情景をラインで送ってきてくれるが、近年は、奥さんと一緒に出かけた旅先からの写真も加わって、なかなか楽しい。割と遅めの結婚だったが（そういうワタシはもっと遅いが）、随分、仲がお宜しいようで。はは。　昨日触れたＴＶドラマ『京都人の密かな愉しみ』は、配役の妙が楽しめる作品だ。ヒースロー教授に団時朗、和菓子屋「久楽屋春信」の若女将・沢藤三八子に常盤貴子、三八子の母に銀鱗蝶、興聖寺の高僧・龍仁老師に伊武雅刀など、それぞれが達者な演技で、京都の風情を紡ぎ出してくれる。加えて、イギリスからヒースロー教授を追いかけてきた言語学者エミリー・コッツフィールドを演じるシャーロット・ケイト・フォックスが、実に佳い。京都ことばをいち早く習得し、京都人の感性を熟知するエミリー。一方では京都の文化・伝統・慣習に疑問を抱き、本音と建前を使い分ける京都人に、心中で毒を吐いたりもする。そのエミリーがやがて久楽屋の下宿人となり、京都に馴染んでいく様子を、シャーロットは見事に演じている。　シャーロットと言えば、ＮＨＫの朝ドラ『マッサン』（2014年9月～2015年3月）で亀山エリーを演じたアメリカ人女優である。日本へ来たこともなく、日本語も全く話せない彼女が、ヒロイン役を射止めるに当たって、周囲はセリフの意味の理解度と演技力、コメディセンスを高く評価した。同年3月に来日し、クランクインまでの2か月間で一通りの日本語を習得した。　『マッサン』の成功は、シャーロットの優れた演技力と日本語習得への真摯な取り組みがあったればこそである。ちなみに、『京都人の密かな愉しみ』は2015年1月の放映開始だから、『マッサン』の仕事と並行して撮影が行われていたわけだ。全く、大した役者根性である。

  2023年04月10日

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  空へ帰る

  　3月22日に亡くなった俳優の団時朗（だん・じろう、1949-2023）の本名は、村田秀雄。最初の芸名は団次郎（初演映画の役名をそのまま採った）だが、姓名判断との兼ね合いで団次朗、団時朗と変わった。日本人の母とアメリカ人の父を持つハーフで、長身かつハンサム。歌も歌えて、モデルもできて。若い頃はさぞモテたと思われるが、独身を通した。　団時朗（団次郎）と言えば、『帰ってきたウルトラマン』。純粋で爽やかな好青年・郷秀樹を瑞々しく演じ、好評を博した。最終第51話で、地球を去る郷秀樹が残していった「ウルトラ五つの誓い」は、余りにも有名だ。　　一、腹ペコのまま学校へ行かぬこと　　一、天気のいい日に布団を干すこと　　一、道を歩く時には車に気を付けること　　一、他人の力を頼りにしないこと　　一、土の上を裸足で走り回って遊ぶこと　団本人は勿論好人物だが、酒は相当好きだったようだ。森次晃嗣（『ウルトラセブン』のモロボシ・ダン役）と仲が良く、森次宅を訪れては酒をカラにして帰ることがよくあったという。『帰ってきたウルトラマン』当時、プロデューサーの円谷一は「子供達の夢を壊すな」と飲酒を止めていたという。　団は途中から舞台俳優に転じたが、折に触れ、ＴＶや映画にも出演した。NHK BSプレミアムで放映された『京都人の密かな愉しみ』（2015年1月～2017年5月）では、京都の某大学で文化人類学を教えるイギリス人教授エドワード・ヒースローを演じて、元気なところを見せていた。その所作が京都の四季や街並みと随分マッチしているなぁ、と思っていたら、何のことはない、団は京都市出身で、お母さんは長唄の師匠だったのだとか。　好漢、惜しむべし。安らかにお休みください。合掌。

  2023年04月09日

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• アナハイムの奇跡

  　審判の判定の話になれば、どうしたって「あれ」に触れぬ訳にはいかない。野球の世界で「判定」「あれ」と来れば、2006年WBC第1回大会での誤審問題のことになる。　アメリカ・アナハイムでの第2ラウンド1組。3月12日の初戦はアメリカ戦。予想通りのシーソーゲームで、7回を終えて3-3｡日本は８回表、一死満塁の場面で岩村明憲が左翼方向に飛球を打ち上げ、三塁走者の西岡剛はタッチアップの態勢に入った。浅めのフライだったが、左翼手ランディ・ウィンの肩は弱いとの情報もあり、西岡の足なら楽々セーフ、と思われた。試合終盤での勝ち越しに、日本のベンチは沸き返る。　プレー後、アメリカは「西岡の離塁が早すぎたのではないか」とアピールするが、三塁のカバーに入っていた二塁塁審ブライアン・ナイトはセーフの判定。しかし、アメリカは「この場合のタッチアップの判定は、主審が下すべきではないか」と食い下がる。　4人審判制で満塁の場合、左翼方向への飛球は三塁塁審が追う。三塁での判定は二塁塁審がカバーするが、捕球と離塁を同時に見るのが難しいため主審が確認すること、とされている。その意味で、アメリカ側の主張は筋が通っており、これを受けた主審ボブ・デービッドソンは「この場合の判定権限は主審である自分の領域だ」として判定を訂正し、三塁走者の西岡をアウト（離塁が早い）とした。　公認野球規則9.02(c)には、次のようにある。－裁定を下した審判員から相談を受けた場合を除いて、審判員は、他の審判員の裁定に対して、批評を加えたり、変更を求めたり、異議を唱えたりすることは許されない。－従って、この判定変更には問題があるが、一方で、タッチアップの判定は主審が行うべきだから、デービッドソンのそれが誤審であった、とも言い難い。しかし、これだけの微妙かつ重要な場面なのに審判団の協議を行なわず独断で判定を下したその姿勢は、明らかな誤りである。責任分担上の権限の話ではなく、正確なジャッジこそが重要なのだから。　続くメキシコ戦は6-1と快勝したものの、勝たねば準決勝進出はほぼ絶望という韓国戦で、日本は1-2と敗れた。ここまでで韓国3勝、アメリカ1勝1敗、日本1勝2敗、メキシコ2敗となったが、最終戦でアメリカがメキシコに負けるとは思われず、日本は早々に帰り支度を始めた。　ところが、である。何があるかが分からないのが、勝負事というものだ。アメリカvsメキシコ戦は2-1で、メキシコが勝利。実はこの試合、3回裏にメキシコのマリオ・バレンズエラが放った大飛球が二塁打と判定され、大騒ぎとなった。右翼ポールに当たって大きく撥ね、フェアグラウンドに戻ってきたのだが、一塁塁審は「フェンスに当たった」として、プレー継続（ボール・イン・プレイ）を宣告した。しかし、フェンス上方でポールに当たったのだから、間違いなく本塁打である。会場のスクリーンでも確認され、誤審は明白。メキシコは激しく抗議したが、審判団の協議により一塁塁審の判断が採用された。メキシコはさらに、ボールに付着した黄色い塗料（ポールに塗ってあった）を示してアピールしたが、判定は覆らなかった。そう。この一塁審判がデービッドソンだった。　皮肉なことにこの判定がメキシコを憤激させ、その後の驚異的な頑張りを招いた。メキシコの勝利でアメリカ・日本・メキシコは1勝2敗で並んだが、大会規定の「当該チーム間の失点率」により日本がアメリカを際どく交わし、準決勝へ。いわゆる「アナハイムの奇跡」で、息を吹き返した日本は優勝を勝ちとることになる。　日本戦、メキシコ戦と疑惑の判定が続いたため、アメリカを意図的に勝たせようとしたのではないかと、審判を揶揄する声も上がった。メキシコのある選手は「我々が次のステージへ進むことは適わなかった」「しかし、残されていた最後の椅子に座るのに、アメリカはふさわしくないチームだった」「日本をその席につける力になれたのなら幸せだ」とコメントしている。各国がメキシコを賞賛する中、日本のメキシコ大使館には御礼の電話や感謝の電報、賞賛の電子メールがたくさん届いたという。　デービッドソンは後に受けた米スポーツ専門チャンネル「ＥＳＰＮ」のインタビューで、「日本は野球を知らない」「もう少し野球大国の米国をリスペクトすべき」と暴言を吐いた。野球以外のことで何か思い入れがあったのかも知れないが、他者の批判を気にしない精神力の強さには脱帽だ。ＭＬＢの審判員として通算62個ものボークを宣告し「ボーキング・ボブ」と渾名された実績もあり、そうした悪役ぶりで見事に、野球史に名を残したと評しておこう。　ちなみにアナハイムは、ロサンゼルス・エンジェルスの本拠地である。あれから17年が経ち、エンジェルス傘下の大谷とトラウトがWBCで、余計な思惑の入る隙間もない、正々堂々たる熱闘を演じることになろうとは。あまりに出来すぎた話ではないか。

  2023年03月29日

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• アマとは言うが

  　かつてＮＰＢの審判員を務め、今はスポーツニッポン新聞社野球担当記者の柳内遼平氏が、3月28付の「スポニチアネックス」（スポーツニッポン新聞社のHP）で、センバツ高校野球について書いた記事が面白かった。　第3回戦、専大松戸vs高知の試合、2回1死一塁の場面。ピッチャーゴロを処理した投手は「1―6―3」の併殺を狙って二塁へ送球したが、遊撃手のベースカバーが間に合わずにボールが逸れ、二塁はセーフ。カバーに入った二塁手がキャッチし一塁へ転送するが、これが悪送球となって、一塁側のカメラマン席にボールが飛び込んだ。　ボールがスタンドやベンチ、カメラマン席に入った場合は自動的に試合が中断され（ボールデッド）、打者や走者には安全進塁権が与えられる。この場合は野手の「送球」に関わるものなので、「起点となる塁」に加えて二個の進塁が許されるが、走者が二人居るので、それぞれに「起点となる塁」を判断しなくちゃならない。審判団は協議により、一塁走者を本塁へ、打者走者を二塁へ進塁させた。すなわち、一塁走者は悪送球の前にすでに二塁に到達していたので、２＋２で本塁へ。打者走者は悪送球前にまだ一塁に到達していなかったので、０＋２で二塁へ。　一塁走者の二塁到達と二塁手の一塁送球は、ほぼ同時に見えた。しかし、ストップウォッチで計測すると「0秒11」だけ、前者が速かった。「アウト」か「セーフ」かに目が行きがちなプレーの中で、審判団は「0秒11」の差を見切り、正しいジャッジを導き出した。適用された規則の理解度、下されたジャッジの正確性は当然として、プレー全体を見る審判団の目を「人間離れした神業」と、柳内氏は絶賛する。　審判は、厳しい仕事である。正しいのが当たり前、間違えれば非難される。誤審のリスクを背負いつつ、求められれば、判定に至った経緯を説明する。加えて高校野球の審判員は、選手の指導という側面も担わされる。この大会では、開幕戦の東北―山梨学院戦で「ペッパーミル騒動」があったが、あれは相手選手がエラーした時にパフォーマンスをした選手を注意したのであり、それはマナー違反でしょ、という趣旨である。柳内氏は「正しいアンパイアリングだったと思う」と述べるが、高校野球に指導者として関わってきたワタシも、その点には激しく同意である。

  2023年03月28日

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  14年ぶり

  　2023年のWBCは、日本が14年ぶり、3度目の優勝で幕を閉じた。試合内容の素晴らしさは語り尽くせないが、9回表、マウンドに向かう大谷を見て中居正広が「泥だらけのストッパー」と表現したのには、感心した。救援投手はブルペンから直に登場するので、通常はユニフォームが汚れていない。大谷はずっと試合に出ているから、泥も着くのだ。二刀流の大変さをしっかり伝えていて、これは中居君、ＧＪだ。　大谷とトラウトの真っ向勝負も、見事。トラウトは間違いなく、ＭＬＢの最高峰に立つ選手だ。エンジェルスでは同僚だが、実に戦い甲斐のある相手で、これこそ、力と魂のぶつかり合いだ。そう言えば、2006年の大塚の最後は、スライダーで空振り三振。2009年のダルビッシュも、スライダーで空振り三振。2023年の大谷も、スライダーで空振り三振。偶然の一致も、ここまで来ると運命的だ。　大谷のMVPは当然だが、その大谷やダルビッシュを代表に引き入れ、メジャーリーガーのヌートバーを一番打者として生かし、不振に喘ぐ村上を信じて使い続けた栗山監督の求心力・包容力・忍耐力こそ、本当の勝因かも知れぬ。優勝トロフィーは11kgもあり、記念写真は皆でしゃがんで。おめでとう、侍JAPAN！！

  2023年03月22日

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  劇的な、あまりに劇的な

  　春分の日の朝。東京の妻とSkypeでやりとりしながら、WBC準決勝のTV観戦に臨む。「佐々木朗希のストレートは、凄いね」とか「メキシコのサンドバルも、変化球の切れが良いね」とか、評論家然として序盤の投手戦を楽しんでいると、インターホンが鳴った。注文しておいた新しいPCが届いたのだ。いそいそと開封し、セットに掛かったところで、妻の「ギャー」という叫び声が。佐々木が３ランを打たれたらしい。こちらも焦るが、今はとにかく、PCを使えるようにしなくちゃな。　買ったのは、NECのLAVIE-PCA2365-DAB。Windows11。メモリは8GB。SSDは512GB。モニターは23インチと、まあまあのスペックだ。　2番手の山本由伸の好投もあり、試合は膠着状態に。日本もチャンスは作るが、どうしてもタイムリーが出ない。メキシコ打線が目を覚まさぬうちに追いつきたいな、と思っていたら、7回裏に吉田の３ランが出て、ようやく試合は振り出しに。　しかし、メキシコも流石だ。8回表に山本、湯浅を叩いて、すぐに２点勝ち越す。日本にとっては悪い流れだが、3-0と5-3では、選手のやる気に雲泥の差がある。8回裏に山川の犠牲フライで5-4と1点差になり、9回表には源田の背走キャッチが出て、気分はもうイケイケだ。　9回裏に入る辺りで、PCの作業が終わる。すぐに大谷の２塁打が出、吉田が四球を選んで、無死１、２塁。村上の一打は、打った瞬間に外野の頭越えを確信させる素晴らしい当たり。　奇跡のような逆転サヨナラ勝ちで、妻もワタシもご機嫌、ご機嫌。終わり良ければ、全て良しだ。それにしてもいろいろな意味で、印象に残る日になったわいな。

  2023年03月21日

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  大所高所（たいしょこうしょ）

  　ソ連の作家ボリス・パステルナークの『ドクトル・ジバゴ』は、ロシア革命による社会の混乱と人間の運命的交錯を、医師のユーリ・ジバゴと町娘のラーラ・アンティポヴァの恋愛を通して描いた傑作である。ソ連では発禁処分となったが密かに国外に持ち出され、1957年にイタリアで刊行された。「戦争と革命の最中でも、人間は愛を失わない」と、その普遍的内容が高く評価され、パステルナークは1958年のノーベル文学賞受賞者となった。しかし、当時のソ連共産党はこれを侮辱的と捉え、受賞辞退を迫る。パステルナークは渋々同意したが、人間の自由意志を尊重する姿勢は揺るがず、その方向性は、アレクサンドル・ソルジェニーツィンら反体制作家に引き継がれることになる（同賞は、パステルナークの死後に遺族が受け取った）。　これを映画化した『ドクトル・ジバゴ』（Doctor Zhivago、1965年）は、上映時間３時間17分の大作となった。「長すぎる」と不評を買ったが、監督のデヴィッド・リーンはこの時期、『戦場にかける橋』（1957年、2時間41分）や『アラビアのロレンス』（1962年、3時間27分）といった大作を連続して手掛けていた。だいたい、ウィリアム・ワイラー監督の『ベン・ハー』（1959年、3時間32分）なんてもっと長いんだから、映画はやはり、中身そのものを評価すべきと思うが。　YouTubeを見ていたら、主役のユーリ・ジバゴを演じたオマー・シャリフ（1932- 2015、『アラビアのロレンス』でアリ首長を好演した名優）が製作の裏話を語る「ドクトル・ジバゴ撮影秘話」という動画が出ていた。実に面白いのだが、こちらもけっこう長い。一つだけ書いておくと、オマーがリーン監督から要求された演技は「何もしないこと」だったとか。　撮影中に話題になったのは、ジュリー･クリスティ（ユーリと恋仲になるラーラ役）の美しさ、ジェラルディン・チャップリン（ユーリの妻トーニャ役）の利発さ、ロッド・スタイガー（ラーラを暴力的に支配しつつも支え続けるコマロフスキー役）の狡猾さ、トム・コートネイ（ラーラの最初の恋人パーシャ役）の変貌ぶり、アレック･ギネス（ユーリの兄イエブグラフ役）の存在感だ。　それぞれの役者が高い評価を受ける中、オマーを称える声だけがない。オマーは出ずっぱりだが、それは他の役者のシーンに参加しているのであって、自らを中心に置くものではない。思い悩むオマーにリーン監督は、「これはユーリ・ジバゴの映画だ」と言う。　ユーリは詩人だが、それを表現するのに、詩を読ませるわけにはいかない。優れた詩人は優れた観察者であり、ゆえに感情を表さず、反応もしない。「君は私を信頼していれば良い」「私の言った通りにやれば、誰もジバゴを褒めなくても当たり前なのだ」「しかし、映画を見終えた観客の心には君が残るだろう」と、リーン監督はオマーに我慢を要求し、オマーはそれに応えた。結果、オマーは永遠の名声を博することになる。物事を俯瞰的に、大局的に見ることができたリーン監督の、正に真骨頂である。

  2023年03月17日

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• 些細なことで

  　「あかりをつけましょ　ぼんぼりに」で始まるあの歌の正式なタイトルは、「うれしいひなまつり」。昭和10年（1935）にサトウハチローが作詞し、翌年2月に河村光陽が曲を付けて、ポリドールからレコードが発売された（歌唱の河村順子は河村光陽の娘）。　あかりをつけましょ　ぼんぼりに　お花をあげましょ　桃の花　五人ばやしの　笛太鼓　今日はたのしい　ひなまつり　　お内裏様と　おひな様　二人ならんで　すまし顔　　お嫁にいらした　姉様に　よく似た官女の　白い顔　金のびょうぶに　うつる灯を　かすかにゆする　春の風　すこし白酒　めされたか　あかいお顔の　右大臣　　着物をきかえて　帯しめて　今日はわたしも　はれ姿　　春のやよいの　このよき日　なによりうれしい　ひなまつり親しみやすく覚えやすい、子供にとっては実に良い歌詞である。しかし、少しおかしなところもあり、サトウハチローも後で誤りに気付いて、随分、気にしていたそうな。例えば、「お内裏様」も「お雛様」も雛人形に違いなく、男雛・女雛の意味じゃないだろう、という類。まぁ、「童謡なんだから良いんじゃない？」と大らかに済ませたら気が楽なんだろうが、そうすると、子供を馬鹿にするな、とか言われちゃったりするのかな？　或いは、「赤い顔」をしているのも実は左大臣で右大臣ではない、とか。そんな風に突っ込んだりするのが現代風かも知れないが、「こっちも酔っ払ってるから、左と右を間違えたよ～」ぐらいに笑い飛ばせば、角も立たないだろうに。　…で、今日はワタシの62回目の誕生日でもあり、3回目の結婚記念日でもある。

  2023年03月03日

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• 困ったなあ

  　１０年ぐらい使ってきたＰＣが不具合で、色々な事が滞っている。タブレットがあるので、メールをやりとりするぐらいは出来るが、文章を書いたり、写真を加工したりするのは、なかなか難しい。職場のＰＣを使うとしても、急な事態が生じた時に困る。原因は分かっていて、外付けＨＤを繋いで作業した後で、終了の仕方が悪かったからだ。何度も再起動させ、自動修復を試みるも、これがどうもうまく行かない。買い換えても良いのだけれど、その前に、内蔵ＨＤのデータをサルベージしなくちゃならないから、それはそれで費用が掛かりそう。便利さと不便さとは、正しく表裏一体だ。

  2023年02月16日

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  わりと好評

  　『詰将棋パラダイス』令和4年11月号「短期大学」に採用された作品を11月1日付のブログに載せておいたが（再掲）、その結果が、令和5年2月号に掲載された。そちらはフリーページ欄の「入選作018 詰将棋パラダイス 令和4年11月号」で確認いただきたい。　ちなみに、Ｎ方九段からの年賀状に「詰パラの問題、解後感良かったです。また楽しみにしています」と、お褒めのコトバ。これは、思わぬお年玉を貰ったわい。

  2023年01月31日

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  素材１３４

  　年末年始は上京していて、詰将棋を作る暇が無かった。本作は１月１０日にできたが、新年の挨拶を兼ね、１月１日付けでＵＰした。最終８手に同手数変化があるから、入選級とは言えないな。手の流れを楽しむだけの１９手詰。令和５年が皆様にとって、良い年でありますように。【手順】34馬　13玉　12金　同玉　24桂　22玉　12金　31玉32桂成　同玉　43銀不成　41玉　52銀不成　31玉32歩　同玉　43馬　31玉　21金まで　　19手詰

  2023年01月01日

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  朝の風景

  　週末からの大雪で、市内の積雪は60cmに達したとか。青森市民は雪に慣れているから、「これは積もりそう」と見たらすぐに雪掻きをして歩行スペースを確保するが、降ったばかりで手が着いてない場合は、歩く本人が自分でラッセルして道筋を付けなくちゃならない。だから、膝までの長靴が必需品というわけだ。　雪の日は車道の除雪が追いつかず、車がすれ違えないことがある。ワタシは7時9分のバスに乗り、20分ほどかけて勤務先に向かうのがルーティーンだが、バスは図体がでかいから、太い道から細い道に入る際に対向車があると、非常に困る。去年なんか、バス道路に路上駐車のマナー違反車が居て、交わすスペースがなかったので引き返し、迂回するのに30分かかったことがあった。ちなみに、バスはドア内側の最下部に雪が着くとセンサーが働いて閉まらなくなるから、運転手さんが掃除するまで1～2分、待たされたりする。今日は今日とて、ドアに挟まった雪で1cmほど隙間が空き、それでしばらく発進できなかった。5分、10分は遅れて当たり前の世界である。齷齪（あくせく）しても、しかたあるまい。　バスを降りると、バス停の脇で野球部の連中が雪を掻いていた。いったい、何時に登校しているのだろう。「おはようございます」「ご苦労さん」と声を掛け合い、正門を入ると、グラウンドに朝日が射していて、風の吹き跡だけが残る雪の表面を美しく照らしていた。同じ景色でも、光の具合で表情が全く違う。雪との生活は大変だが、こんな楽しみもあるのだ。

  2022年12月20日

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