苗字と名前
抽斗(ひきだし)を整理していたら、古いパスポートが出てきた。とっくに期限切れになったが、二度の海外旅行がいずれもアメリカだったから、これはなかなか捨てられない。英語圏では「名前」→「苗字」の順で自己紹介するが、この頃は、日常生活に合わせて「苗字」→「名前」で良いのでは、とする向きもある。どっちでも通じりゃOKなのだが、書類にサインする時、空欄に「Family name」「Last name」「Given name」「First name」と印刷してあったりすると、苗字を書けば良いのか、名前を書けば良いのか、一瞬、悩む。整理すると、 苗字(例:本田) Surname, Family name, Last name 名前(例:伸) Given name, First name, Personal name ミドルネーム Middle nameとなる。ミドルネームは日本人には関係ないようだが、武士の時代には「源九郎義経」「織田三郎信長」「羽柴藤吉郎秀吉」のように苗字+通称+名前に分かれていたから、今なら「九郎」「三郎」「藤吉郎」と書くことになろう…ところで、徳川家康の通称は、子ども時代が「竹千代」だったが、大人になってからは「次郎三郎」だったかな? ちなみに、昨日亡くなったサッカー選手のマラドーナの正式名は「ディエゴ・アルマンド・マラドーナ」Diego Armando Maradonaである。南米人は氏名と渾名が著しく異なるケースが多く、例えばペレ(Pelé)=「エドソン・アランテス・ド・ナシメント」Edson Arantes do Nascimentoとか、ジーコ(Zico)=「アルトゥール・アントゥネス・コインブラ」Arthur Antunes Coimbraとか、いったい「何でそうなったん?」と思ってしまう。 ペレやジーコはブラジル人だからポルトガル語を話すが、マラドーナはアルゼンチン人だからスペイン語を話す。そう言えば、元和6年(1620)に津軽地方を旅した宣教師「ディエゴ・カルワーリュ」Diego Carvalhoを「ディオゴ・カルヴァリョ」Diogo Calvalhoと書いたものがあり、どっちが正しいか、悩んだことがある。専門家に聞いたら「Diego」はスペイン語語表記で、「Diogo」はポルトガル語表記なのだそうな。彼はポルトガル人だから「ディオゴ・カルヴァリョ」とすべきで、それで自著『弘前藩』(現代書館、2008年)にはそう書いたつもりが、いま見直してみたら「ディエゴ・カルヴァリョ」と混ぜ混ぜになっていたのは、何とも不覚。本が売れて第三刷が出たら直せるが、果たして何時になることやら。 マラドーナは1960年10月30日生だから、ワタシとは同学年だ。今はただ、この天才の冥福を祈るのみ。合掌。