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南トルコ・アンタルヤの12ヶ月*** 地中海は今日も青し

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 (4)キノコ恋しや


《11月―キノコ奮戦記》~2002年11月の記録

 ∬第4話 キノコ恋しや

今日もまたタメ息。
外出からの帰り、遅くなった昼食に何を作ろうか、と頭の中ですばやく献立を考える。
冷蔵庫の中に残っているのはマッシュルームと、例のキノコ、若干のトマトくらい。冷凍庫の中に確か挽肉があった、そう、それでどうにかキノコのマカルナ(ショートパスタ)ができそうだ。

恐る恐る、冷蔵庫の奥から例のオレンジ色のキノコを取り出した。ゴミを取って下処理を済ませることなく、冷蔵庫にそのまま仕舞いこんでしまったので、どうなったことやら・・・。
袋を開くと、数日を経てさらに緑色の面積が広がり、見るからに不味そうだ。
しかし、3ミリオンも出したのだから、そのまま捨てるのは癪である。
ボウルに水を張った中で大雑把に洗った後、今度は流水で丹念に汚れを洗い流していった。こびりついた松葉や泥はなかなか落ちてくれず、形がどんどんいびつになっていく。
あまりに濃い緑色をした部分は切り取り、次々石突きを切り落とした。
「ひゃあ~、虫だ~!」
そう、冷蔵庫で何日か放置していた間に、目に見えなかった虫が体長3~4mmほどの幼虫に育ち、キノコの中で盛んにうごめいていたのだった。

こうなると、虫のついてない部分を探すことすら嫌に。
結局は捨てることになってしまったキノコに申し訳なく思いつつ、またしても食べ物を腐らせてしまった自分の怠け癖を恨めしく思った。
丁寧に下処理をしさえすれば、味はともかく人の口には入っただろうキノコ。未熟で怠慢な料理人のせいでゴミ箱行きとなってしまったのでは、私の要望でキノコ狩りに付き合ってくれた夫にも、苦労して採ったあの青年にも申し開きが立たない。
私には天然物のキノコを採ってくる資格など、まだなかったのだ。
仮に松茸が採れたとしても、果たして生かしきれていたかどうか。

生椎茸、しめじ、舞茸・・・・。
日本にいればいつでもふんだんに手に入るキノコばかりだが、秋になると、キノコ好きの夫のために毎食一品はキノコを使った料理を食卓に並べていた私にとって、今では夢に思い描くキノコたち。
使う頻度の少なかった、なめこやエノキタケ、エリンギですら今となっては懐かしい。
それに、実家の方でよく採れる平茸。シンプルに醤油と砂糖でさっと煮ただけなのに、口一杯にほうばる時の旨さよ。
嗚呼それに比べたら、マンタル(キノコ)といえば普段マッシュルーム1種類しか市場に出回らないトルコでの食生活は、私たちにとっては何とも物足りない。

茸、きのこ、キノコ・・・・。
たった2日で簡単に断念したキノコ探し。諦めきれない私の心は今や完全に「キノコ恋しや」状態だった。
こうなったら、トルコでしめじでも栽培してみるか。
淡白なマッシュルーム入りのマカルナを口に運びながら、私の野望にまたしても小さな炎が瞬き始めたのだった。

(おわり)



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