(8)湖水に浮かぶ《ヒッタイトの足跡を訪ねる旅―第1回》 (2003年8月の旅の記録) (8)湖水に浮かぶ 冷たい水に足を浸しながら、子供たちはしばし水遊びに興じていた。 いつの間にか私たちの周囲を、大きな袋を引きずってやってきた近所の農家の女性たちや子供たちが取り囲んでいた。 農道を走る見慣れぬ私たちの車を見て、男たちが家族に知らせたものかもしれない。 次々に取り出したのは手編みの手袋や靴下。 やはりここにも、時々観光客が訪れるのだろう。少しでも生活費の足しにと農閑期にせっせと編みためたものに違いない。 すぐに役に立つものならともかく、気温40℃に達する猛暑のアンタルヤからやって来た私たちには、あまりに縁遠い買い物に思え、引き取ってもらうよりほかなかった。 エフラトゥン・プナールを後にした私たちは、いったんベイシェヒルまで戻り、湖の西岸を北上する予定だった。 ベイシェヒル湖を訪れた2番目の目的は、これも私のまったくの独断だったが、クバダバード・サラユを訪れること。 クバダバード・サラユは、セルジューク朝時代のスルタン、アラエッディン・ケイクバード1世によってベイシェヒル湖の西岸に建設された夏の離宮。 もう何年も前、コンヤのカラタイ・メドレッセ(現在は博物館)に展示してある、クバダバード・サラユから発見されたターコイズ・ブルーを基調とした星型タイルに魅了され、その離宮を訪れてみるのがここ数年の夢だったのだ。 しかし、車を北へ向ける前に、子供たちへの約束を果たさなければならなかった。 何箇所かから仕入れた情報によれば、ベイシェヒルの町の南西約10km、湖の南岸には砂浜があり、そこでは湖水浴もできるとのこと。 途中何度も確認しつつ、標識もない林道をひたすら進むと、やがて遠くに湖と、湖岸に留めた何台もの車の姿が見えてきた。 日曜ともあって、意外にも多くの人出だった。車を留められる空き地の横では、浮き輪やタオル、ござなどを売る移動店舗まで来ているほど。 浜辺はせいぜい1~2kmに渡る短いものなので、そこにずらりと並ぶテントの多さには驚かされた。 海までは遠くて足を伸ばせない内陸の町に住む人たちが、せめてもの水浴を楽しむためにやって来たのだと思われた。 湖面は北からの風を受けてさざなみが立っている。 波のせいもあるだろうが、水はお世辞にもきれいとは言い難いものだ。 ちぎれた草の葉や木の切れ端、魚の死体、ゴミなどがつぎつぎ打ち寄せる岸辺で、地元の子供たちは歓声を上げていた。 私はまるで気乗りがせず、子供たちと夫が一緒に遊ぶ様子を見守ることにした。 30分ほどそこで過ごした後、キャンプをしたり、ピクニックをしている多くの家族を後に残し、私たちは車を先に進めた。 つづく (9)湖畔のドライブ |