(8)我が家訪問半日ガイド体験記 (2004年6月の記録) ∬第8話 我が家訪問 今まで、我が家にこれだけ大人数のお客様を迎えたことはなかった。 15人というと大変な人数に思えたが、サロンに案内し、ソファーとディナー用のテーブルに分かれて座っていただくと、十分に納まって空席が出るほどだった。 さすがトルコの住宅である。15人、20人の接客くらいできるよう、サロンは特に大きく作られているのだ。 家族を紹介してくれと言われ、子供たちふたりを傍に呼んだ。 名前、年齢、学年、夫の日本での仕事、トルコに来てからの年数・・・そんなごく一般的な質問をいくつか受けた。 目加田さんに目配せをされ、キッチンに行くと、飲み物はどうするか聞かれた。 しまった!下のバッカルでジュースでも買ってこなくちゃと思っていたのに、見事に忘れていた。 冷蔵庫に残っていたありったけのフルーツジュースを、ビルゲさんにも手伝ってもらいながら全員に行き渡るように注ぐと、なんとか人数分用意することができたが、しみったれた感じで穴があったら入りたいくらいだった。 なにしろトルコでは、9分目くらいまでコップに並々と注ぐのがよしとされるのだが、今まさにお出ししようとしているコップには、せいぜい6分目までしか入っていないのだった。 どうにかこうにかジュースが行き渡ったところで、目加田さんにもサロンに来てもらった。 目加田さんはイスタンブール在住生活も10年目に入る、私にとってはトルコ暮らしの先輩であり、8年来の友人でもある。 移住してこの方、過去7年にわたるトルコ生活をまとめたエッセイは単行本にもなっており、現在はテレビ番組のコーディネーターやコンサルタントなどの仕事を得て、第2の人生を謳歌している女性である。 ほとんどが目加田さんと同世代にあたるツアーのメンバーにとって、海外に暮らす一日本女性の生き方は、何らかの参考になるのではないかと思ったのだ。 それに、彼女の発表したエッセイは、出版社の営業努力不足もあって、まだまだ出版社の倉庫に眠ったままになっていた。少しでも宣伝になればと、書棚から彼女の著作を出し回覧してもらった。 彼女はトルコに移住するに至った経緯や、イスタンブールで携わった仕事などについて、駆け足で語ってくれた。サロンの空気は水を打ったように静かになっていた。 彼女が語り終えると、皆の間から拍手が湧き起こった。 よかった。目加田さんが居たことで、我が家への訪問は、より印象深いものとなってメンバーの心に残るだろう。これでよかった。 「ありがとうございました」 何人かが口々に礼を述べると、これが合図となって、全員が次々に立ち上がった。 (つづく) ∬第9話 和食ピクニック |