地域密着スイーツ戦略!ケーキ×ストーリーで売上アップを叶える方法
地方ケーキ屋が生き残るための“価値の可視化”戦略〜顧客の心に響くマーケティング手法少子高齢化が進み、郊外まで大手チェーンのスイーツショップが進出する昨今、地方で洋菓子店を営む経営者には厳しい逆風が吹いています。SNSで一度バズを起こしても、次の月には話題が薄れ、固定客の確保に苦戦するケースは少なくありません。視覚的に美しいケーキは確かにお客様の目を引きますが、それだけでは他店との差別化にならず、結果として「価格競争」に巻き込まれてしまうことも多いでしょう。しかし、実は「価格」や「美しさ」だけでなく、ケーキを通じてお客様に届けられる“体験”や“意味”を明確に伝えることで、価格競争から抜け出し、地域に根ざしたファンづくりが可能になります。この切り口こそ、テレビ通販で連結売上高2,600億円を超える大躍進を遂げたジャパネットが長年実践してきた「価値の可視化」手法です。本稿では、その本質を中小企業向けに抽象化し、地方のケーキ屋がすぐに取り入れられる具体策へと転用しました。ケーキという“小さな商品”に、大きな意味と感動を宿すためのステップを、実例を交えながら詳しくご紹介します。1|「スペック」から「ストーリー」へ──価値は“使い方”に宿る多くの菓子店では、店頭ポップやSNS投稿で「北海道産生クリーム100%」「ふんわり焼き上げたスポンジ」など、商品の素材や製法といった“スペック”を前面に打ち出しがちです。確かにこれらは商品の魅力ですが、お客様はスペックそのものに感情を揺さぶられるわけではありません。では何にお金を払うのかと言えば、「それを食べることで得られる嬉しさ」や「誰かと分かち合う時間」といった“体験”や“意味”なのです。ジャパネットはテレビ通販のMC(商品説明役)を通じて、単なる機能説明を二段階深掘りし、「その商品を使うと生活にどんな変化が起きるか」「誰がどんな場面で使うと感動が生まれるか」を鮮明に描き出してきました。例えば大画面テレビなら「くっきり大きく見える」という機能説明からさらに一歩踏み込み、「リビングに置くことで、各部屋でばらばらに過ごしていた家族が自然と集まり、一緒に映画を見る幸せなひとときが生まれる」といった生活の変化まで示します。この二段階の深掘りが、視聴者の心を強くつかむのです。地方ケーキ屋も同様に、自店の商品が「どのようなシーンで、誰にどんな感動をもたらすか」をストーリーとして語る必要があります。ただケーキを並べるのではなく、そのケーキがあることで生まれる“家族の笑顔”や“友人との語らい”を具体的に伝えましょう。2|TPOで“場面”を描く──身近なエピソードで顧客を引き込む価値を可視化する際に有効なのが、TPO(Time, Place, Occasion)の考え方です。時間(いつ)、場所(どこで)、機会(誰がどう使うか)を明確にすることで、ただのスイーツが“パーソナルな贈り物”や“日常のご褒美”としてお客様の心に届きます。例えば、ある地方の洋菓子店「菓子工房あかり」では、店頭のポップに次のようなストーリーを書き添えました。「部活動を終え、帰宅した高校生の息子さんに。親子の会話のきっかけになる、一口サイズの苺タルト」「季節の果物を思い切り楽しみたいお母さんへ。朝食のカフェタイムに、ちょっと贅沢な一切れを」これによって、お客様は「自分(あるいは家族・友人)のどういう場面にこのケーキを合わせればいいか」をイメージしやすくなり、購買意欲が自然と高まりました。単に「苺タルト200円」と書かれているよりも、「家族の団らんを彩るタルト」という意味が付随することで、価値の本質が浮き彫りになるのです。3|具体例:地元イベントとコラボした「限定ケーキ」の成功事例さらに、価値の可視化を強化するには、「場面」をイベントと結びつける手法も有効です。例えば秋の収穫祭や花火大会など、地域のイベントと連動した限定ケーキを開発し、その商品の開発背景や想いをストーリー化して発信すると、地元住民からの共感を得やすくなります。ある地方都市のケーキ店では、毎年9月に開催される「ぶどう収穫祭」に合わせて、地元産のぶどうをふんだんに使ったタルトを限定発売しました。店主自らがぶどう農家へ足を運び、生産者の想いを取材した映像をInstagramに投稿し、ケーキに込めた「農家さんへの応援」と「収穫の喜び」を丁寧に伝えました。その結果、発売初日に完売し、SNSでは「今年もあかりのぶどうタルトが楽しみ」という声が多数上がり、リピーターが前年の1.8倍に増加しました。このように、地域行事や季節の変化と組み合わせることで、「その場でしか手に入らない体験価値」を訴求しやすくなるのです。4|ロジカルに伝える力──スタッフ全員で“価値を言語化”するジャパネットが重視しているのは、感覚的なトークではなく「ロジック(論理)」を磨くことです。具体的には、MCたちに「主張(何を伝えたいか)」「理由(なぜそれが魅力か)」「根拠(それを裏付ける事実)」のフレームワークを徹底的に訓練しています。地方ケーキ屋でも、同じフレームを活用してスタッフ全員が「なぜこのケーキが売れるのか」を言語化できるようにしましょう。開発秘話や素材選びの背景、実際に食べたお客様の声などを整理し、毎朝のミーティングで共有することで、パートやアルバイトのメンバーも自然と「価値の伝え方」を身につけられます。たとえば「季節のチーズケーキ」なら、「秋限定のマロンチーズケーキ」という主張に対し、「栗とチーズの濃厚な風味が同時に楽しめる」(理由)、「地元産の栗を厳選し、通常の2倍のペースで渋皮を丁寧にむいている」(根拠)と伝えることで、店頭での一言紹介やSNSの文章に説得力が生まれます。5|価格だけではない“体験価値”で選ばれる店へ地方ケーキ屋が価格競争から抜け出すには、商品そのものではなく「その商品を通じて得られる体験価値」を前面に押し出すことが欠かせません。価格に対して敏感なお客様ほど、「同じ値段ならどこで買っても同じ」と考えがちですが、一度「誰かの想いを感じる」「その瞬間を特別にする」という価値体験を味わうと、価格以上に重視するようになります。先述のぶどうタルトの例では、「地域を応援する」というストーリーが体験価値を高め、たとえ通常のタルトよりも100円高く設定しても、多くのお客様が納得して購入しました。価格訴求から、心に響く“物語訴求”へシフトすることで、顧客は「ただ食べる」だけでなく「応援する」「思い出を共有する」体験を求めるようになるのです。6|明日からできる3つのアクション最後に、今日から実践できるステップをご提案します。まずは紙とペンを準備し、次の問いに答えてみてください。1)主力商品を一つ選び、そのケーキが登場する「一番嬉しい場面」を具体的に書き出す。2)その場面でお客様が抱く気持ちや、家族・友人との会話を想像し、一文のストーリーにまとめる。3)スタッフ全員で、そのストーリーの「主張・理由・根拠」をシェアし、店内POPやSNS投稿用の短文に落とし込む。この3つのステップを踏むだけで、単なる“見た目勝負”から脱却し、ケーキを通じた感動体験を提供できるようになります。地方ケーキ屋だからこそ、お客様の生活に寄り添い、地域の物語と結びついた価値を発信できる強みがあります。あなたの店が「地域で一番、心に残るスイーツ店」として選ばれる日も、そう遠くはありません。地方ならではの温かみと、顧客一人ひとりへの細やかな配慮を大切にしつつ、「価値の可視化」で競合との差別化を図りましょう。小さなケーキに込められた大きな想いが、多くの人の心を動かし、店の未来を明るく照らしてくれるはずです。