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欧州フットボールの空間

欧州フットボールの空間

理想とする、フットボールチーム・・


「あなたにとって、理想のフットボールチームは?」
こう聞かれたら僕は即座にこう答えるでしょう。

「74年ワールドカップのオランダ代表です」

それは何故か?

理由の一つに、多くの人が既に古い記憶の片隅に追いやり、美しい思い出と共にフットボールの宝石箱にしまいこんでしまうような30年も前のチームでありながら、未だに超えるものの現われない巨神のような存在だった、ということがあります。

実際、74年のオランダチームを賞賛する声は、今でも非常に多いようです。

例えば・・・

「世界は今も74年のオランダを夢見ている。でも(あのチームは)今や再現できないサッカーのユートピアなんだ」(アデマール・マリーニョ)

「確かに今回のチームは良かったけど、74年のチームと比べることなんて出来ない」(デニス・ベルカンプ、98年ワールドカップのオランダ代表と比較して)

「フットボールに革命はない。もし、あるとすれば、それは唯一74年のオランダ代表だけである」(ヴァレリ・ロバノフスキー、ディナモ・キエフ監督)

もし僕がロバノフスキー流に言うなら、こうなるでしょうか・・・
「もし“トータル・フットボール”を完全に遂行したチームがあるとすれば、それは74年のオランダだけである」

では、いったいどんな選手がいたのでしょうか。
そして何故夢のチームといわれたのでしょうか・・・


この時のメンバーは上記の11人でほぼ固定されていました。
基本的には4-3-3ですが、ポジションは流動的で、それに関しての約束事(誰かが上がったら誰かがそのスペースをカバーする)ということも選手間の共通理解として浸透していました。
クライフは一応フォワードとして登録されていましたが、かなり自由にポジションを取り、中盤で組み立てもするし、リベロとして残ってタックルもするし、勿論最前線で点にも絡む。

そのクライフ中心のローテーションが組まれ、彼も頻繁にコーチング(指示)していました。
かといって他の選手が彼のロボットかというとそうではなく、選手一人一人が各々の判断で動き、その時その場で自分なりのプレーを選択します。
両ウィング(レンセンブリンクとレップ)は共にスピードと突破力のある選手で、1対1に強くサイドアタックに欠かせないだけでなく、クロルやシュルビアといったサイドバックが上がった時などのカバーリングも担当。

中盤はヤンセンがディフェンシブ・ハーフとして泥臭い役を引き受け、ボールによく絡み、ニースケンスはどんどん前線に飛び出してチャンスに絡みます。たいていその時は、クライフが少し引いて、ニースケンスの飛び出すスペースを作ります。
ファン・ハネヘンは異色の存在で、ボールがキープ出来て、そこから意外性のあるパスを出し、しばしば局面を打開していました。(それもほとんど左足しか使わない)
ファン・ハネヘンがいることによって、単に力強いだけでなく、変化と意外性のあるプレーが出来てチームのバランスがとれていました。

ディフェンス・ラインの選手はレイスベルヘン以外は皆攻撃力も兼ね備え、当時アヤックスでヨーロッパカップ3連覇を成し遂げた時のメンバーが中心でした。
アリー・ハーンのロング・キックの精度は高く、次の78年のW杯において30m級のロング・シュートを2発決めています(そのうち一つはあのゾフから)。
クロルは、センターでもサイドでも攻守ともに高いレベルのプレーを見せるオランダきってのDFでした。

ヨングブルードは、単にGKのレベルとすれば並ですが、彼の特徴である積極的に前に出るプレーが、プレスディフェンスやオフサイドトラップを使うオランダチームにマッチする(ラインの裏のカバーリング等)ということで彼の出番となりました。
今では世界的に当たり前になりつつあるGKのフィールド参加も、この当時のオランダから始まったと言えるかもしれません。

このように、個々に能力の高い選手たちが揃っていて、なおかつ組織としてかつてない機能美を醸し出したのが当時のオランダ代表でした。

そしてそれを可能にする判断力・戦術理解力を一人一人が持ち、例えばディフェンスの選手であっても中盤に行けばゲームメイクに参加し、前線まで上がればフィニッシュに絡む。
前線の選手も単に前に張り付くだけでなく、カバーリングもきちんとする。
そういうことをごく当たり前にこなしたていたのです。
当時としては、他のチームとは全く毛色の違うゲームを見せ、その輝きは今もなお色褪せていません。

ですから、いまだ多くの人が、当時のこのオランダ代表に特別な感情を抱いているのだと思います。


最後に・・・僕がこの時のオランダ代表が理想だと思うもう一つ(そして最大)の理由、それはこのチームにヨハン・クライフがいたから、ということを付け加えておきます。



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