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カテゴリ:1977年頃のディスコのお話
ようやくダンサーから脱却し心機一転、ディスコDJそしてSOULバンドへの道をひた走る委員長の身の回りも新しい環境が整いつつありました。
大学の文化祭、いわゆる「学祭」へのバンド出演の依頼が、相棒のムラちゃんのもとへちょろちょろと舞い込んで来る季節となりました。 とは言うものの満足なバンド活動などしていない二人ですから、直接の出演依頼など来るはずもなく、すべてはムラちゃんが出入りしていた三鷹のフィルモアという楽器店経由で回ってきたものでした. (正直言って、三鷹だったか武蔵境だったか覚えがないのですが、当時その界隈のアマ・バンドにはかなり有名な楽器店だったように記憶しています) 時代の流れからいっても、当時のディスコ・ブームはもの凄かったですから、たとえ「学祭」と言えど、ちょいと目先の利く実行委員会あたりともなれば、ディスコ・パーティとか模擬店みたいなものを企画するのは当たり前で、そうなると本職のツテを頼らざるを得ません。そんな学生やらアマバンドが出入りするフィルモアの常連だったムラちゃんが、歌舞伎町のディスコで仕事をしているという噂を聞きかじった店員がある一人のミュージシャンを紹介してきました。 待ち合わせの中央線武蔵境駅前に降り立った二人。アフロ頭のド派手な委員長とハンチングを被った地味なムラちゃんの前に現れた男は、やや長身長髪、黒のスリムジーンに赤のボタンダウンシャツを羽織った一昔前のROCKミュージシャン風のむさ苦しい奴でした。 「こんにちは、○○アツシです。ムラ○さんですよね。こちらはロニーさんですか」 ちょっとハスキーな声に特徴がありましたが、どうもうだつの上がらないアマチュア・バンドという感じのアツシ君は、花の都新宿のディスコからやってきた二人を伴って徒歩数十分の自宅へと案内してくれました。 「XX新聞武蔵境販売所」の看板のかかった店の横を通り抜け、裏手にあるアパートのような下宿らしき一室に通されました。 四畳半ほどの部屋はその半分が土間のような段になっていて、高い段になっている方は畳張り、低い方は板の間という妙な造りでした。 アツシ君は委員長とムラちゃんを高い方の段に座らせると、自らは板の間にイスを持ってきて腰掛けました。 「フィルモアの△◇さんから聞いていると思いますが、実は僕の友達が家政大学の文化祭でコンサート企画をやってまして、僕のところに誘いがあったんですが、僕自身バンドを持っているわけではないので、一緒にやってくれる人を探しているうち、ムラ○さんを紹介されたっていうわけです」 「一応話は聞いてますけど、ディスコ・バンドをやるわけですか?」 ムラちゃんがマネージャーっぽい話をします。 「いえ、それは僕の友人の企画で、どうせやるならディスコ風にできないかって言ってきたもので、それでフィルモアの△◇さんが、それならちょうどイイのがいるってことで」 「で、どんな音楽をやられているんですか?」 あまり期待はできませんが、恐る恐る聞く委員長でした。 「ええ、僕自身は特にこれっていうジャンルはないんですけど、どちらかと言えばROCK系ですね。フォークっぽいのもやります」 「たとえばどんなのやってるんですか」 「あの、基本的にコピーとかはやったことないんです。全てオリジナルで自作です」 「それってシンガー・ソングライターってことですか」 「まあ、一応」 これは驚きです。一体彼がこの妙な部屋でどんな曲を紡ぎだしているのか、大変興味のあることでした。 アツシ君は古いカセットデッキ(昔はテレコみたいなのなかったからね)を運んできて、かなり年季の入ったテープをガチャリと入れると再生ボタンを押し込みました。 ジャーン、ジャーン、ジャジャジャッ、フォークギターのコードが流れ出し、続いてだみ声のハミングらしき歌が聞こえてきました。 本人がギター1本で弾き語りのような歌を録音してあるだけのものでした。 なんと表現してよいのかわかりませんが、とにかく雰囲気だけは独自のセンスが感じられます。 「歌詞は付いてないの?」 しばらく黙って聴いていたムラちゃんが訊きました。 「ええ、これは今作曲中の試作なんで、まだ詩がないんですよ」 ふ~ん、なるほどと頷くムラちゃん。 「で、オリジナルって何曲くらいあるの?」 更に質問を重ねます。 「そうですね、中学生の頃からのものを入れると250曲はあると思います」 「250曲!?」 これはまたまた驚きでした。 こんな座敷牢みたいな部屋で250曲もの作曲をしていたなんて、まるで岩窟王のようなヤツです。 「詩がついているのを聴いてみたいんだけどなあ」 ムラちゃんがそう言うと、黙ってカセットテープを止めると座敷の奥に置いてあったフークギターを手に取ったアツシ君でした。 (おっ、生演奏かい?) 「実は今度の学祭で演ろうと思っている曲なんですが」 と言って、ギターを弾き始めました。 8ビートのボサノバ風のコードが刻まれて、アツシ君が歌い出します。 「やさしくボクを包んでくれる~ この街の夜景~」 うーん、何処かで聴いたことのあるような無いような不思議なメロディーが座敷牢に響きます。 しかし、彼の声はちょっと特徴があるというか、個性的というか、中々面白いものはありました。 歌い終わったアツシ君。 「もうちょっとファンキーなのもあるんですけど」 と演奏続行を促しましたが、遮るようにムラちゃんが言いました。 「まあ、大体感じはわかったけど、編成はどうなってるの?」 (何の感じがわかったのでしょうか) 「ええ、できれば最低でもコンボは欲しいですよね」 「えっ、欲しいって、メンツは揃っているんじゃないの?」 またまた、驚きです。 バンドを持たないと言っても、出演依頼を受けた以上は寄せ集めでも何でもメンバーを揃えるのは常識です。 「いえ、ですからムラ○さんに相談してみようと思って△◇さんにお願いしたんです」 「そうは言ってもさあ、俺達だってバンドを持ってるわけじゃないし、そんなにすぐにメンツ揃えられるほど顔も広くないしなぁ」 ちょっと困惑した感じのムラちゃんでした。 しかし、本番まであと2週間ほどしかないってのに、バンドはない、メンバーは揃わない、しかもディスコっぽいことをやりたいなどとのたまうシンガー・ソングライター、この岩窟王は一体何者なのでしょうか? 顔を見合わせ言葉に詰まるムラちゃんと委員長。 と、そこへ母屋の方から声が聞こえます。 「アツシ~!時間だぞぉ!」 「ムラさん、すみません、配達の時間なんでちょっと行って来ます。2時間はかからないと思いますから、よかったら待っててくれますか?」 が~ん! 岩窟王は新聞配達を生業にしていたのでした。 衝撃を受けた二人が早々に引き上げたのは言うまでもありません。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005年09月22日 15時18分39秒
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