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カテゴリ:1979年頃のディスコのお話
かつてそうであったように、道楽者人生の更なる山場はある日突然にやってきました。 それはジュリーが幼い頃兄のように慕っていたという、S氏との偶然の再会から始まりました。 何十年ぶりかでジュリーが再会したというS氏は、数人の仲間と金融関係の仕事をしていて、これから新しい事務所を六本木に構える準備をしているとのことでした。 事務所を開業するとなれば事務員や電話番も必要になりますから、それならエスメラルダに事務代行を任せるから、同居して会社を立ちあげてみてはどうかという話になったのです。 まさに渡りに船、事務所を探していた委員長とジュリーにはもってこいの話でした。 (上手い話は必ずオチがつくんですけどね。二人ともまだ若かったから) 早速S氏がジュリーと委員長の二人を相棒のF氏に紹介してくれました。 新宿歌舞伎町、普段エスメラルダが溜まり場にしている喫茶店「トゥモローエース」で初顔合わせが行われました。 イタリア製ダブルのスーツに太めのネクタイ、金の指輪にローレックス、中々恰幅の良い落ち着いた紳士F氏は誰がどう見てもそのまんま、筋の人でした。 また、そのひょうきんな話し振りはどことなく人をひきつけるカリスマ性があり、おとなしいS氏とは対照的にどことなくユーモラスな感じさえしました。 委員長はどうもこのF氏の顔に見覚えがあり、それとなく聞いてみると間違いなく委員長の知っている方でした。もちろん委員長が一方的に知っていただけのことですが、まさかこんなところでこういう出会いをするとは思ってもいませんでした。 その昔、ツッパリ修行に明け暮れていた高校生の頃、ボンタンなどを仕立てに出かけたテーラー並木の柱に刻まれた文字「国士F参上」の文字が目の前にいるF氏の顔と重なりました。そうです、当時ツッパリ少年の間で勇名を馳せた国士舘高校の超有名人F氏その人だったのです。 なんのこたぁない、不良高校生のボスはそのまんまプロの世界にデビューして、現在はS会に所属する中堅幹部でした。 委員長が知っているくらいですから歳だって未だ若いのに、すでに落ち着いた風格を漂わせているF氏に親近感の湧く委員長でもありました。 ふ~ん、それじゃ金融業っていうのもそれなりのお仕事ってことですね。 心の中でそう思った委員長、所詮俺達が関わるのはこんな感じの人でしかないんだろうなぁ、などと自身で納得しつつも、乗りかかった船ですからとにかく船出と相成りました。 「じゃあ、皆で事務所見に行こうか」 そう言って店を出るF氏の後に続く委員長とジュリーは、近くの駐車場に止めてあったロールスロイスに乗り込むと一路六本木へと向かいました。 麻布を抜け神谷町飯倉の交差点、角地にあるビルを指差してF氏が言いました。 「このビルの4階なんだけど、まだ何も入ってないから要るものがあったら言ってくれれば用意しとくから」 道路を隔てて対面にはヨーロッパ車のショールームがありました。 こんな一等地にいきなり事務所出すってのも玄人っぽいよなぁ~、などと感心しつつビルに入ってまたも驚きでした。 部屋は家具こそ入っておりませんが、一般事務スペースの奥には社長室があり、ちょっとした商社のような趣でした。 「どうだい、ここで君達の仕事はできそうかい」 飄々と語るF氏は部屋の中を歩きまわりながら、事務机や応接セット、電話の数などをS氏と相談しています。 委員長はジュリーと顔を見合わせ、余りにも急なことの成り行きに戸惑うばかりでした。 その夜新宿の喫茶店に集合したエスメラルダのメンバーは、この急激な話の進展をジュリーの口から聞かされ目の色を輝かせました。 「良い話ですけど、ヤバくないでしょうね」 ヒロシが心配します。 そりゃ誰だってこんな上手すぎる話を丸呑みできるはずがありません。 「まあ、どのみち俺たちだけで元手なしで何かを起こそうとすれば、それなりにヤバい話にも乗らなきゃならないだろうし、博打にはリスクはつきものってことだよな」 委員長がそう説明すると皆納得したようでした。 「これはジュリーの知り合いが持ってきてくれた話だからオレも乗ったんで、仮に失敗してダメになったとしてもオレ達が失うものなんて何もないじゃないか」 更にそう付け加えると、心持ちみんなの顔が晴れ晴れとしていくようでした。 「さて、こうして事務所を持つとなると、今までのように皆でDJをやりながら片手間の仕事というわけにもいかなくなるから、ここでマネージメントの担当者を決めたいんだけどどうだろう?」 ジュリーがそう言って組織をまとめに入ります。 「今までの動きから見て、ヒロシと花見に営業に回ってもらおうと思うんだけど、ロニーはどう思う?」 少々不服気味なヒロシでしたが、委員長も含め全員が同意したので渋々ながらも受けざるを得ないヒロシでした。 花見キョンはすでにレコード会社の代行プロモーションの仕事を着々とこなしていたせいか、本人の意思とも合致して快諾しました。 「あとは事務なんだけど、経理というか簿記の方はチーちゃん(ジュリーの彼女)の親父さんが税理士なんで面倒見てもらうことにするとして、事務所で働く事務員がいると思うんだ。そこで、今まで手伝ってもらっていたMちゃんを正式にパートで雇おうと思うんだけどどう思う?」 Mちゃんは今までボランティアで手伝ってもらっていた女子大生ですが、その並々ならぬ奉仕の姿勢はメンバー全員が納得するほどの活躍ぶりでしたから即決です。 本人の意思を確認しなくて良いのかなとも思いましたが、ジュリーがそこまで言うのだから内諾は取れているのだろうと納得した委員長でした。(元々ジュリーのファンだからね) この組織作り、人選に間違いはなかったのですが、次第に人も増えて所帯もどんどん膨らんでいくと当然の成り行きで派閥が生まれていきます。 どんな団体や組織でもみな同じです。人間が群れて集まると必ず仲間内で衝突が起きるのが当たり前で、これに損得勘定が加わるから尚更やっかいなことになります。 24歳の二人を頭にして20歳前後の後輩が追随する組織ですから当然といえば当然です。ただ、ディスコがあるから自分達の存在があるという原理原則にまで気付くにはまだまだ若い組織でした。 喩え店は潰れてもディスコ業界はずっと続いていくものだと皆信じていましたからね。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005年10月23日 07時21分13秒
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