2006/02/23(木)13:30
「クライマーズ・ハイ」(横山秀夫 文芸春秋)
北関東新聞社の年配の記者たちが、心のよりどころにする「大久保清事件」と「連合赤軍事件」。別に新聞屋に限らず、なにか大きな仕事(新聞屋にとっては、その多くは天から降ってくるようなものだが)をしたことは、一生語り継ぎたいものなのだろう。
そこへ、文字通り空から降ってきた日航ジャンボ機墜落。男の嫉妬、そう、男の嫉妬のすさまじさ、横山秀夫の小説も、その多くに男の嫉妬が描かれてはいるが・・・。
作家本人が経験した地方新聞社というのも、またさまざまな嫉妬がうごめく世界なのであろう。その地方では、一個の権力でありながら、どこかで、全国紙(東京紙というべきか)に対する嫉妬があるのも確かだろう。その中で、彼らが経験できる事件、事故というものは、限られている。その嫉妬が、ジャーナリストとしての矜持など完全に吹き飛ばすほどの力を持っている。
いや、それはもちろん、地方紙に限られたことではない。全国紙だって、おなじであろう。そもそも、記者と名乗る人間で、ジャーナリストとしての矜持をもって生きてる人間がどこまでいるのだろうか。若いころは別かもしれないが、位階を上がっていくにつれ、社内政治に生きるようになり、はたまた自分の老後の保障だけを考えるようになり・・・。そうでもなければ、世捨て人のようになるか。もちろん、新聞屋でなくても、どの世界でも同じようなものなのだろうが。
この小説の中に出てくる人物で、整理部長のカクさん。かれがどんな経歴だかしらないが、直接に取材にかかわる部署でないだけに、ギラギラとしたものを出さずに、ひょうひょうと、しかも報道にかかわるものとしての矜持を通している姿が面白かった。
まあ、一般の人にしてみれば、「整理部って何?」だろうけど。