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高知県立坂本龍馬記念館 館長日誌

高知県立坂本龍馬記念館 館長日誌

第13回  ミニバス

60歳だからできたウルムチ新疆大留学記 (第13回)



 ウルムチの庶民の足は、バスである。普通のバスと、ミニバスの二種類ある。路線はし市内縦横。停留所も多い。ダイヤは濃密で、時に連なって来たり、後続が追い越して行ったりもする。
 何よりの魅力は、安いことだろう。市内ならどこまで乗っても一元(約十五円)である。ただし、乗り換えはできない。その時は、再び一元。それでも安い。
 さて、日本にはないミニバスの運用方法を紹介しよう。まず、ミニバスは、乗り降り自由。停留所以外でも止まってくれることだ。タクシーと同じに、道端に立って手を上げる。運転手さんと目が合えば間違いない。
 もう一つ。普通のバスはワンマンだが、ミニバスには車掌さんが乗っている。小窓から身を乗り出して、路線名を叫んで、客を誘う。
「七路、七路=チールー、チールー=七路線のバスですよ」
 その独特の言い回しが面白い。女性の車掌さんもいる。制服なんかない。普段着。乗客と変わらない。
 違うのは、手に裸の一元を束にして握っていることだ。切符がないので、乗客が乗ると同時に一元を集める。車内は広くない。お互いに手を伸ばし合って受け渡しをする。
 大きい体のウイグル族のおじさんやおばさんにとってミニバスの座席は窮屈そうに見える。お腰の半分ははみ出ている。ひざも当たる。身体も触れる。しかし、にこっちちょっと足をずらすだけでコトはない。家族旅行の貸切バスの様相である。


 早い夕食を済ませて買い物に町に出た。「七路=チールー」。耳元で聞いたはずみで乗ったら満員だった。すぐ、携帯電話片手にサラリーマン風がしゃべりながら乗り込んできた。
 もう一人、ひげのウイグルおじさんは、動き出したバスのステップから身を乗り出して、友人なのだろう、歩いている若い男になにか怒鳴っている。足元には持ち込んだリンゴ箱がある。これを右足で押さえていた。
 そんな様子を、対面の長い髪のこれもウイグルの美人さんがガムをかみかみ楽しそうに眺めている。スカーフの下の大きい目が印象的だ。その目が光った。とおもったら、空いた一人席にひらりと移っていた。
 最後部席で、じっと私を見つめている視線を感じた。小学生の男の子だ。低学年。目が合ったとたん、彼が立ち上がった。
「イエイエ、チンズオ=おじいさん、お座りください」
 周囲の目線が集中した。ガムの美人さん、ウイグルのおじさん、携帯のサラリーマンも。それに、車掌のお兄ちゃん、その子の側にいるのは、父親らしい。私より年配とみたが、一番真剣なまなざしである。迫力のまけて
「シエシエ=ありがとう」腰をおろした。
 車内にほっとした空気が漂った。お父さんが息子の頭をひとなでした。


「七路、七路」
 車掌さんんお声が一段と高くなった。隣をもう一台
「チールー、チールー」が走っている。手を出せば届く距離である。二台のミニバスはしいばらく並んで走った。
 


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