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高知県立坂本龍馬記念館 館長日誌

高知県立坂本龍馬記念館 館長日誌

第18回  二道橋大バザール

  60歳だからできたウルムチ新疆大留学記  (第18回)

 
 「ニ道橋=アーダオチヤオ」に行くには、新疆大前から「勝利路=ションリールー」を北に下って行く。バスなら三つ目の停留所である。
 モスクを模したレンガ造り、宮殿風の建物が目印で、異彩を放っている。そこを中心に一キロ四方が「ニ道橋大バザール」。以前は露天だったが、次第に、建物内に吸収されつつある。
 しかし「ニ道橋」を中心に南に「延安路」、北の「山西巷」の間は、昔の面影を残す露天が並んでいる。ビルとのアンバランスが、不思議な雰囲気を生み出し、変貌途中の新疆を象徴している。


 新疆大近辺もそうだが、このいったいは独特の異国ムードに満ちている。ウイグル族、回族の姿が目立つ。逆に漢族が少ない。彼らは行かない理由を「危険だから」。スリに財布を盗まれた。言いがかりを付けられ、けんかに巻き込まれた。そんな話はいくらでもある。
「カバンはきちんと体の前で押さえてください」
「二道橋」の観光ガイドは、お客に必ず警告する。言われると、怖さ半分、興未半分が人間の本性で、つい覗いてみたくなる。人の波に誘い込まれてもみたい。
 ボリュームいっぱいのウイグル音楽。民族衣装の女性達が、悠々と闊歩する。車道も渡る。警笛など気にしている風はない。運転手と歩行者が、間一髪でかわして行く。路上に物乞いがいる。少なくない。
 子供連れの母親もいる。目の前を、両親に手を引かれた“豆紳士”だ。子供は同年代。座る者、行く者。どこに差があるというのだろう。考えてしまう。そんな感傷をミキサーにかけて等しく包んでしまう明るすぎるほどの太陽が頭上にある。雲なし。少し風。


 ちょっとしたものを買いに、土産物屋をのぞく。待ってましたとばかり、満面の笑顔の店主。値段交渉になると、とたんにもっともらしいしかめっ面だ。例えば絨毯。商品の能書きが長い。ポケットからライターを取り出して、絨毯を焦がして見せる。「本物だろう。もう一度やろうか?」「いや、いい」それが、値引きに応じられぬ理由なのだ。
「では、やめた」
「仕方ないね」
「じゃあ、再見」
 外にでかかる。すると、追いかけてくる。
「分かった、仕方ない。あなたは友達だ」
 そこで、お金を払う。双方が笑っている。その笑いの意味を考えると面白い。店主とのやり取りが、言葉のまさに訓練である。いくつか知り合いの店もできた。
 一年になると
「どうですか?勉強のほうは?」
などと、声をかけてくれる。
「まあまあですよ」
「おっ!上達しましたね。ところで、新しい柄の絨毯、見てください」
 屈託がない。


 帰国間近のある日、ウルムチ市内で起きた殺人事件の発生を新聞で知った。一人の少数民族の青年が、ナイフで数人殺傷したという。死者は四人。日本なら社会面のトップニュースだろうが、申し訳程度の小さな記事にまとめている。被害者の名前はない。
 ところが、巷では「被害者は全員、漢族だったらしい」。そんな噂が流れていく。真偽のほどは分からない。新疆ウイグル自治区の抱える民族問題の原点を見るのである。


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