第22回 好意的なウイグル族60歳だからできたウルムチ新疆大留学記 (第22回)十二月に入っていた。急に冷えた日であった。買い物帰りに、覗いた「南門」の果物屋台のリンゴが、毛布をかぶっていた。厳しい寒さの前触れである。 前に立つと、じいさんが毛布をめくる。自分でご自由にほしいだけ、はかりにかけてくれと目配せされた。かごを取ると爺さんがボソっと言った。 「一キロ八元(百二十円)。特別いいやつなんでね」 何時も感心するのは果物屋台の商品がきれいに積み上げられていることだ。リンゴでもミカン、桃、梨もそうだ。面白いといえばなんだが、地元の人は一山崩してでも狙った一個をとる。外より内側。何か、中のリンゴが光って見えるのだろうか。 干し葡萄は、ピラミット形に積んである。その中央付近にぐさりとスコップを差し込むのが普通である。根元を掘るわけだからピラミッドはざざっつ崩れる。 お客のスコップに合わせて「ヘイ。エイ!」じいさんはたしなめの声を発するが、効果はない。お客は笑っている。そして、じいさんも笑っている。楽しい駆け引きである。お客はお望みどおりに買えた満足の笑い。 じいさんの笑いは「内も外も同じなのに、お客が満足ならそれでいいさ」愛想笑いの気がする。というのも、じいさんは決してまけてはくれないからだ。 新疆は果物の宝庫である。なんでも甘さの質が違う。アクス、イリのリンゴ。コルラの梨、ハミウリは、ハミだ。トルファンはもちろん葡萄。カシュガルの杏子は、これまで杏子はすっぱいものだと思っていた常識を覆した。 平べったい桃、石河子=シーハーズ=のパンタオは皮ごといける。これらは代表的なもので、外にも、まだ数多くある。とにかく、ウルムチの辻々には季節ごとに果物屋台がでる。 ところで、生産者は、90%以上がウイグル人である。新疆にウイグル人の占める割合はおよそ50%、ほとんどが農業に従事している。 新疆大学の周辺は圧倒的にウイグル族をはじめとする、少数民族が多い。ウイグル族は、外見でもすぐ分かる。目立っている。美人で男前が、定説。ほりが深く目が大きい。男性は、若くてもちょび髭はやして、靴をぴっかり光らせている。特技は歌と踊り。 女性の場合、ちゃんと自分の利点を心得ている。流行のファッションなど、モデルのように上手に着こなす。キャンパスでもジーパンがよく似合っている。学園祭では、花形だ。 やっかみの声は当然ある。「ウイグルは食より衣なんだから」新疆の代表的民族は、十三民族。それぞれ独自の文化を守りながら、同じ中国人という枠の中にある。日本人との接し方も得手不得手あるようだ。 そんな中で付き合いやすい筆頭がウイグル族だと思う。日本語の勉強をしている人も多い。日本語と文法が似ているせいか上達も早い。発音もきれいだ。ボランティアで日本語教室を開設している日本人留学生のSさんの話である。 Sさんの教室に通う二十人近い生徒はすべてウイグル族だという。 「何故、ウイグル族ばかりなのか、他は?」 Sさんは言った。 「現状脱出を思う気持ちが一番強い現われじゃないでしょうか。」 納得した。踊り上手、「食より衣」。華やかな彼らの胸のうちによどむモノの一端を覗いた気がした。 「南門」で買った三個のリンゴはその晩、ヌルザットとクワットと三人で一個ずつ食べた。 |