第28回 ヒマワリ三昧60歳だから出来たウルムチ新大・留学記(28)茶館の茶菓子に「香瓜子=シアングアズ=味付けしたヒマワリ、スイカの種」がい いと教えてくれたのは、旅行会社の「廉=リエン」さんである。 最初聞いた時、「お茶」と「ヒマワリの種」の取り合わせがピンとこなかった。 ただし、ヒマワリの種が、新疆の人たちの大好物であることは知っていた。学内で も、毎朝のように、教室に殻が散乱していた。前夜、学生達がおしゃべりした残骸 といっていい。 お陰で、授業開始前、よく掃除しなければならなかった。 ポケットに入れたグアズ=ヒマワリの種=をかじって、殻をペッペッと路上に吐 き散らす習慣も未だ“健在”である。 ** * 「日本じゃあ、動物園のリスのえさですかネエ」。 冷やかし半分のお付き合いである。廉さんはお構いなし。この店のが一番おいし い、それに、手に油汚れが付きません、と、茶館の側で一キロも買って持ち込んだ 。「持ち込み可です。さあ」。 どさりと机の上に置くと、ウエイトレスが来る前にもう「パリッ、パリ」。殻は灰 皿に、殻が山を築き始める。軽快に、いかにもおいしそうに見える。つい手が出る。 やってみるが、どうも上手く出来ない。 「パリッ」の音が「ガジ」。 廉さんが、実演して見せてくれた。 「こう持って先の細い方を、前歯でかんで割ります。パリッ。次にもう一度今度は 、少後ろのほうをかみます。パリ。ほら、ひとりでに実が出てきます」 なるほど、指の間に割られた殻が、三枚の花びらだ。上手いものである。 意地になってガジガジやって、取り出した一ミリほどの実を食べた。かんだ感触 もないままに食道に消えて行く。味わうには至らない。味わうにはさじですくって 食べるしかない。そう質問した。すると、 「割った時のカリッとくる感触と香りも味の一部です。やっぱり、一個ずつでしょ う。練習、練習、パリッ、パリ」。 右手に数個握っている。「パリッ、パリ」とほぼ同時に、次がいく。そして、美人 はサマになる。 クワットもヌルザットもヒマワリにはめがない。あれば食べる。特に、クワット の早食いには驚く。私が一個割る間に、三個は軽い。そんな環境で、練習が足りて きたようで、度が過ぎて癖になってきた。それでも、クワットにはいくら挑戦しても 及ばなかった。 * * 留学生活のゴールが見えてきて「紅茶坊」に通う回数が増えた。 最後の夏休み旅行計画や帰国の段取り、日本からシルクロードにやって来る友人た ちのお世話など、廉さんもフル回転だった。八月はウルムチには三、四日しかいなか っただろう。 ヤルカンドから帰ったばかりの廉さんと「紅茶坊」で、会った。私の帰国用チケッ ト準備のためである。ヒマワリ買って、お茶飲んで 「パリッ、パリ。パリ、パリッ。パリッ、パリ。パリ、パリッ。・・・・・・・」 言葉のタイミングがずれて「パリッ」が続いた。黙って殻の山を積んでいた。と、 「モリサン、上手になられましたねえ」。廉さんがポツリと言った。なぜかギクリ として、とんちんかんに 「えっ、何が?」 「ヒマワリですよ」。 ふと、前の年の夏、アルタイで見た広大なヒマワリ畑の広がりが頭の中にあった。 |