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追憶

追憶

「初恋の記憶 7」

 二年生のクラス替えで、島はB組になり、阿比留と同じクラスにはなったが、上浦、宮本はC組に、水沼はA組にと別れた。上浦といっしょに居られなくなることがなにより寂しかった。何か用事でもない限り、他のクラスにいくことはほとんどない。学校で上浦と顔を合わせ、話をする機会も1年の時とは雲泥の差となる。それはしかし、いいことかもしれないと思えた。冷静になって見ることができる。上浦にとっても阿比留や島を離れて見直すことになるはずだ。このまま阿比留を忘れてくれたらいいのに。そう考えた。しかし、一度好きになったものを、別のクラスになったというだけで、簡単に忘れるとは思えない。
 島は一学期の級長に選ばれ、また忙しく活動し始めた。 女子の副級長は、卓球部で同じの野田友美に決まった。 彼女は三島小出身の“優秀な女子”の一人で、スポーツも万能、容姿端麗で、笑顔もかわいい。上浦のことがなければ惹かれてしまってもおかしくないが、島はあまり眼中に入らなかったようだ。しかし、噂はおかしなもので、同じ学級活動をいっしょにしていると、必ず噂となる。島と野田も例外になく噂になった。
 そのことを、塾で上浦や宮本に冷やかされるのが、心苦しい思いがした。本心はもちろん上浦のみを想っている。その上浦から、野田との関係を面白ろおかしく冷やかされるとは。
それで「かわいいんじゃない。」 とついついいってしまった。それが余計にうわさに火をつけた格好となった。だが、野田はしっかり者であり、島がリードされる立場であり、彼女からすると島は物足りないに違いないと思えた。噂はますますひろがっていたが、島も野田もほとんど気にすることもなく、いっしょに活動をつづけていた。
しばらくして阿比留とB組の別の女子、佐藤との噂も流れた。
どうもこれは、佐藤のほうの想いが広まったらしい。阿比留は今度もまた気のない態度を取り続けていた。

 ある日の部活が終わって、帰ろうと水沼を待っていると、島を上浦が呼び止めた。
「カズちゃん、いっしょに帰ってくれる?」
「――いいけど、一人?  じゃ、洋平に先に帰るって言ってくるから」
「じゃ、自転車のところで待ってる」
 島は誘ってくれた喜びを感じたが、彼女が何かワケありのような気配がして、不安も感じた。こういうときは明るくいこう、と、
「アミ兄イのことはあきらめて、僕とデートしてくれる気になった?」
とふざけていうと、彼女は軽くたたく真似をして、
「野田さんじゃなくて、ごめんねー」
「あのねえ!」
彼女は笑いながら、自転車を進めた。自転車専用道に出てから並んで走りながら、部活の話などをした。 卓球で、女子では野田が、男子では石井が、ともに春の郡大会で2年生では最高のベスト4に入ったが、島自身は、2回は勝ったが3回戦で負けたことや、上浦の女子バレー部が郡で優勝して、次は地区大会を目ざし上浦自身も出場する機会があるかもしれないことなどを話した。
 しかしその程度の話なら、普段でもしているし、わざわざ呼び出すことはないと思われた。そこで、阿比留を話題にした。
 「野球部は、アミ兄イが、3年が引退したら間違いなくエースだよ。 このまえリリーフで投げて、××中を無得点で抑えていたもん。」
 と、言うと、彼女は不意をつかれ、幾分狼狽したかように
「そうみたいね。 すごいね。」 
 といっただけだった。
「うれしい?」
 のぞきこむように見ると、
「なんで?」
 と片手ハンドルで、島をたたく真似をした。
それから、磯山地区の分かれ道近くになったところで自転車を止めて、
「その、阿比留君のことだけど」
(―――― やっぱり、そんなことかと)島は思った。話題を振ったのは自分だが、やはりあまり彼女の口から阿比留のことは聞きなくないような気がした。
「佐藤さんとのうわさ、あるでしょ」
彼女はおそるおそる、というように口を開いた。
「うん、最近ね」
「彼女、かわいいもんね。」
「―――」
「カズちゃん、阿比留君とは仲いいでしょ。」
「そりゃ、まあ。 」
なんとなくぎこちない会話が続いていた。
「好きな人、知ってるの? 」
「アミ兄イの? 知らないけど。 ウラちゃんがアミ兄イを好きなことは知ってるよ。」
島は真面目にずばりと言った。
「もう! 」
「 彼は、わからんな。 いろいろさぐりを入れてるけど。」
「佐藤さんとは?」
「それも、ようわからん。気になる?」
彼女はそれには答えず、
「カズちゃんに、頼みたいことがあるんだけど」
「なに? 」
「頼まれてくれる?」
いやな予感がした。
「いいけど。 ウラちゃんの頼みなら、しょうがない。」
島は、彼女の方から目をそらし、自転車の前方を見ながら答えた。
「しょうがないって!」
彼女は手紙のようなものを取り出した。
「うわ、ラブレター!」
島は彼女が差し出したものを見て思わず叫んだ。島の声が大きかったので、彼女は驚いて制止した。丁寧な、かわいい文字で 「阿比留宏様」と書いていた。それは、ほんとうは自分自身が彼女からもらいたかったものだ。阿比留のことが限りなく羨ましく思えた。
( 僕にも、こういうの書いてくれないの。) と、島は冗談半分を装って聞いてみようかと思った。 この場合、道化るしかないように思えた。彼女がそれで何と答えるか試してみたいような気がした。しかし、寸でのところで思い留まった。彼女を問いただしてもしかたなかった。
「これを、阿比留君に渡してほしいんだけど」
「――いいけど、ほんとうに渡せるかな。なんて言えばいい?」
「私から預かった、といってくれればいいから。他の人には見つからないようにしてよ」
「わかってるよ。 変じゃない、男が男に渡してるの、見られたら。」
彼女は笑った。
「でも、それでうまくいくかどうかは。」
「気持ちを伝えられたら、それでいいと思ってるから。」
「そう、わかった。うまくいくように応援するよ。」
「ありがとう。」
彼女は微笑んでいた。

それにしても、彼女はよくもこの自分を伝達役に選んだものだ。私が彼女に好意をもっていることも多少とも気づいていたはずではないか。私の気持ちはどうなる。彼女はそれをも承知で、私に試練を与えようというのか。きっぱりとあきらめてもらおうということなのだろうか。あいまいなままにしておくよりも、はっきりと彼女の気持ちを私に伝え、引導を渡すということなら、それはそれで彼女のやさしやかもしれないとも思えた。

宮本が翌朝、島のところにきた。
「ウラのこと、知ってるでしょ。カズちゃんには気のどくだったけど」
「いきなり、なに?」 
「阿比留君のことだけど。 昨日頼まれたでしょ。」
「ああ、 うん。」
宮本の言いたいことは分かっている気がした。
「カズちゃんの気持ちはわかってるけど。でもウラの力になってほしいんだけど。」
「でも、なんで僕なの? そういう役。」
「それは、カズちゃんしかいないでしょ。」
宮本がすかさず言った。
「信用できる男子っていうことになると。」
「ふ~ん。ずいぶん信用されてますね。わたくし。」
宮本はにこりとして、再度うなずいてお願いする仕草をした。
「XXさんのときだって、カズちゃん頼まれてあげたんでしょう。」
島は、以前B組の女子から一度、頼まれて仲介約をやったことがある。そのときはうまくいってその二人は現在でも付き合っていた。
「それは――。 よく知ってるね。」
「私、そのへんは情報通だから。 お願いね。」
「ウラちゃんの頼みだから、できることはするけど」
「ありがとう。 そう伝えとくね。」
 そうは答えたものの、上浦の恋の成就のために自分がほんとうに協力できるのかどうか
自信はなかった。実際に阿比留が上浦をどう思っているのか、うわさになってから、避けているような感じだが、内心がどうもわからなかった。
その日の6時間の授業が終わったとき、島は阿比留の席までいって、先ほどの社会の授業の内容で確認したいところがあるからと、わざとノートを借りた。 他の生徒が回りにいなくなったころ、阿比留がそろそろノートを返してもらおうと、島のほうにやってきた。 島は上浦の手紙を少しだけ見えるようにノートに挟んで、阿比留に渡した。彼はちょっとどう対処していいかわからない様子だった。島はすかさず小声で言った
「彼女は真剣だから、帰ってからじっくり読んで。」
「カズ、何でおまえがそんな仲介してるんだよ。 おまえこそ上浦をーー」
島はギクッとして思わずあたりを見回した。数人が教室に残っていたが、だれも怪しんではいなかった。
「僕のことはいいって。 上浦のこと、どうなの? 」
「こういうことされても、困るよ。」
 阿比留は手紙を返そうとした。
 「だめだよ、彼女は真剣なんだから、とにかく帰って読んであげてよ。」
 「わかったよ。 読むだけだよ。」
 気のなさそうな様子を見て、島は正直ほっとしたのが本音だろう。実際、阿比留が喜んでいたら、嫉妬と寂しさを感じたにちがいなかった。
 上浦と宮本が部活の後で島を待っていた。島は約束どおり渡したことを話した。
阿比留の様子については、驚いていた、とだけ言っておいた。彼女は失恋するだろうと思った。ちょっと気の毒な気もした。
次の日の朝、さっそく阿比留が島のところに来て、上浦の手紙を読んだ。という話をした。
「で、どう?」
「きれいな字だね、かわいくて。 ずいぶん積極的で、でも人の気持ちもよく考えてる子だよね。手紙読むと、そんな感じがした。」
島は、阿比留の観察力はするどいと思った。彼女の本質をついている。
「で、だから?」
「だから? 僕にどうしろって? カズ」
「返事、書かないの?」
「僕はこういうのは苦手だから、カズから言っといてよ。」
「だめだよ、直接言うか、せめて宮本に言ってくれないと。 でもなんて言うの」
阿比留はそれには答えず、
「わかった。 宮本に言っとく」
とだけ言った。
 それから二三日して、島は宮本から、阿比留が上浦の気持ちに応えることはできない、と言ってきたことを聞いた。上浦の様子が気になった。当たって砕けろ、と言った感じだったが、砕けて落ち込んでしまったのではないかと心配になった。宮本に聞いてみると、
特別落ち込んではいない、彼女はだいたい結果は最初からわかっているようだった。と言った。
 「初恋は難しいものねえ。」 
宮本が付け加えた。
 「それは、自慢ですか? ミヤさんは洋平と順調じゃない」 
島は冗談半分だが、彼女を責めるように言い返した。
 「ごめんごめん、そんなつもりじゃ。」
 「この、幸せものめ!」
二人とも苦笑していた。そこに水沼が部活を終えてやっていた。
 「ほれ、噂をすれば。」
島は冷やかした。
 「なんだよ。 ミヤちゃん、ではいっしょに帰ろうかね。 あ、よかったらカズちゃんも」
水沼がおどけて言った。
 「ははっ! 仲のよろしいことで。 僕は遠慮しとくわ」
宮本と水沼は島を残して帰った。 
 「あの二人はどちらも失恋したもの同士、慰めあってるとまた違ってくるかもよ」
 「いや、ちょっとちがうんじゃない。カズオ君のほうは、ずっとウラが好きなのよ。
要は、ウラの恋がカズに向けば、何の問題もないのよ」
「いや、わからんよ。 カズだって野田のほうに気がいってるかも。」
「いやカズオ君は絶対ウラよ、今でも。 洋ちゃん、親友なのにわからん?」
「だけど、自分が好きな人の恋愛幇助(ほうじょ)するか? 僕なら断るけどね。ほんとうに好きなら。 断って、自分が告白するよ。」
「恋愛――幇助!?  だけどそこがカズオ君のいいところじゃない。」
「ウラちゃんじゃなくて、カズが気の毒だよ」
「ごめんね、私がウラにカズオ君に頼んだら、と勧めたから。」
「僕に謝ってもしかたないけど。 まあ、失恋したウラちゃんを、カズが慰めているうちに、ウラちゃんも恋の方向が変わるかもしれない。 そうなることを祈ろう。 いや、やっぱり無理か。なんたって四頭身男だからな、カズは。阿比留とは違う。」
「何なんよ、それ」
そんな会話を宮本と水沼はしながら帰った。


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