某月某日。
場所はリコーの企画会議室。
デジタルカメラ事業部の部長は優秀な社員を会議室へ呼んだ。デジタルカメラに精通している社員とあの有名なヒット高級コンパクトカメラGRシリーズを作り出した社員とリコーGR1が自分の人生を変えることになった社員だった。
「なんだか急に集まれって言われたけど、いったいなんだろうな?」
「この顔ぶれだともしかするともしかする企画かもしれないね」
コンコン。ガチャ。部長が入ってきた。
「我が社のデジタルカメラも順調に売上を伸ばしている。ありがとう。特にCaplioシリーズはプロをはじめしてハイアマチュアのユーザーから高い評価をいただいている。そこで今日みんなに集まってもらったのは他でもない。銀塩コンパクトで一時代を築いたGRシリーズのデジタルカメラ版を作りたいと思う。みんなの忌憚ない意見をぶつけて欲しい」
部長の一言ひとことに集まったスタッフは閑静の中固唾を飲んで聞いていた。そして最後の言葉からそれは歓声へと変わった。会議室に集まった誰もが心の中に望んでいたことだったからだ。
部長は続けて言った。
「『GRシリーズ』は、画質を追求した薄型・高画質コンパクトカメラで、1996年から計5機種のカメラを発売してきたな。そこには28mmまたは21mmの広角レンズを採用し、今までにない高級コンパクトカメラの市場を席巻した。特にレンズには力を入れて画面の隅々まで優れた画質を実現することによって、プロカメラマンをはじめ写真好きの方々から高い評価をいただいた。まさにこれから君たちで考えて欲しい製品は、『GRのデジタル版を』という数多くのユーザーの声にお応えするものなのだ」
喧々囂々とした会議が始まった。
「『GRシリーズ』の血を受け継ぐデジタルカメラなわけだから、まずは薄型であって、高画質を追求するべきだ」
「薄型という形は現在のコンシューマー機の主流だよな。でも単なる薄型で大きい液晶画面ならスタンダードシリーズでカバーしている。このジャンルに高級をぶつけても意味無いぜ」
「そうなると、多機能でしょうか?」
「いやいや、多機能という考え方よりも『GRシリーズ』の名を汚さないようにするためには高画質を目指すべきなんだろうな」
「高画質というと日本人はついCCDの画素数に走りがちだけど、銀塩の感覚から考えれば画面を作り出すのはやっぱりレンズということになる」
「それじゃ『GRシリーズ』と同様に広角単焦点レンズを搭載すればいいのか?」
「単焦点を搭載したからって即高級高画質に繋がるのかしら」
「画素数だ、ズームだというならCaplioシリーズがある。これだって十分高画質でプロユースを謳っている。機能的にCaplioとぶつかるようじゃ売れないよ」
「ある意味Caplioを超える高級感を打ち出すのは難しいね。なぜならCaplio GX8なんて実売40000円で盛りだくさんの機能を乗せている。これを超えるとなるとどうなんだ?」
「デジタルカメラの根本から考えてみよう。本当に高級で高画質を提供するにはどうすれば良いんだ?」
「やっぱり売りになる点はレンズではないでしょうか。『GRシリーズ』と言うぐらいだからレンズにはこだわりたいですわ。具体的にいえないんだけど、ユーザーがこのレンズが搭載されているなら買いたいと思うような仕様が欲しいんですけど」
「コンパクトデジタルカメラで広角を作るのは難しいじゃない?ここはやっぱりきっちりとした広角、28mm相当の単焦点で行きたいね。プラスCCDが小さいことを利点と考えて明るいレンズを作ってみてはどうだろうか」
「28mm相当って言ったら焦点距離5.8mmだよ。今Caplioに乗せているレンズだってF2.5のズームだよ。ということはそれ以上ってこと?」
「本当に写真を好きな人がCaplioを使っているということを考えると、新開発で隅々まできっちり写る性能と、明るさがF2とかF1.4とかならおもしろいんじゃない」
「レンズは単焦点、それも広角。そして明るくてシャープな解像度を持っている。という感じが望ましくないかしら」
「それじゃ、受ける側であるCCDはどうするんだ?その高級レンズを積んだからと言って、ハイ高級、って訳にはいかないよ。Caplioで850万画素だからその上の1000万画素とかをいけばいいのか」
「いやいや、今現在作っているCCDからすれば、1/1.8型原色CCDで850万画素って言えば十分限界行っているよ。それに流通していないCCDを開発するのは並大抵じゃできないって」
「とすると今みんなの頭の中に浮かんだことを代表して言っちゃおう。いっそのことAPS-CサイズのCCDを使うっていうのはどうでしょう?」
「『GRシリーズ』の28mm単焦点にしても、21mm単焦点レンズを搭載するってことにしても、本当に売れるのってぐらい不安も合ったけど、発売後はかつて見たことがないコンパクトカメラって言われるくらいインパクトが強かった。まだどこのメーカーもやっていないことでもあるし、目指す所を高く考えるならAPS-CサイズのCCDを使う意味が十分あると思うな」
「今キヤノンさんのEOS Kissデジタルが60000円前後で買えるでしょ。あちらはCMOSだけど、今の値段でAPS-C素子を搭載できるなら、やっぱり世界初を考えませんか」
「APS-Cサイズなら堂々と高級で高画質と言えるよな」
「APS-Cを搭載するとなると、コンデジって呼ばれるようなハイアマチュア向けのハイスペックデジカメに走りがちだけど、その方向性は他社に任せればいい。我が社はニッチなパートにこだわりを持つということをベースに考えるべきだよ」
「写真の基本は足で寄ること。これは『GRシリーズ』のユーザーならわかっていることでしょう。それなら最初の単焦点高級レンズを搭載する意味も、わかる人にはわかってもらえるとはずですよ」
「まとめてみよう。『GRシリーズ』の基本コンセプトにのっとってデジタルも制作する。仕様としては次の通り。世界初のAPS-Cサイズセンサー搭載。画質へのこだわりとして世界初の17mmF2(35mm換算で28mm相当)で非球面レンズ・高屈折率・低分散レンズを使用して収差や周辺減光をバランス良く補正したレンズを搭載。短いレンズでありながら大口径にすることによってボケ味を感じる撮影が可能。という超高級で超高画質なデジタルカメラである。その他基本仕様は、撮影モード、測光モード、レリーズタイムラグ、起動時間、長時間駆動、ホワイトバランス、RAWデータ、液晶モニタ等をCaplioの機能を磨き上げる。」
「さんせーい!」
朝から始まった企画会議は、みんなの意志が統一されており短時間でまとまった。あとはこの仕様書を技術系のスタッフにプレゼンテーションするだけとなった。いやいや、そこが難関だということは全員わかっていて仕様書を組み立てたのだ。『GRシリーズ』の名にかけて、写真にこだわったデジタルカメラをきっと作ってみせる。全員の意気込みは社内を動かした。
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全部フィクションですからね。
銀治の妄想なデジカメを出してくれたら、買う買う。絶対買う!
ということで、この文章をお読みになったコメントが欲しいです。もちろんリコーさんの社員のみなさまにも。ってそりゃ無理か(笑)