焦れる僕を満たして欲しい 見送り
BL小説です、興味ない方、嫌悪感を抱かれる方はご遠慮下さい。見送り心にもやもやを抱きながら佐伯先生の旅立ちの日を迎えた。全と見送りに空港に向かうと編集長、砂田さん、春日先生が送りに来ていて賑やかだった。砂田さんと春日先生は全の退院の時より親密な雰囲気を醸しだして、上手く行っているのだと確信出来た。「全」佐伯先生の声、全だけを呼んで二人でどこかに消えた。取り残された僕、編集長や砂田さんと談話をしながら時間を潰した。「春日先生、和樹さんから何か連絡有りましたか?」「ああ、有ったよ、元気にしてるそうだ、君のところには?」「ええ、有りました、だけど少し気に成る点が有ったので、先生は何も感じませんでしたか?」先生は眉間に皺を寄せて尋ね返してくる。この時、何かあるのではと思えた。「いえ、エアメールとE-メールが来たのですが文面がいつもと違う気がしたんです。エアメールは筆圧が弱い気がして」正気に言ってみた。春日先生のところに届いたのならば付き合いの長い先生の方が、何か気付いたのではと思ったのだったが返事は意外なものだった。「なにも気付かなかったね、疲れからじゃないかな、忙しい様だし、こちらにはE-メールのみだからね」「そうですか。。。」思った答えは返って来なかった。だが、以前よりも先生の僕の対する態度が柔らかくなったのは砂田さんのお陰だろうか、二人はにこやかに談笑を始めた。「葉月先生」「はい」「以前、言っていた例の件だけどね、O,Kだよ、うちで出そうって事に成った」「本当に!」「ああ、あれなら素晴らしい本になるよ、おめでとう」一つ肩の荷が下りた。以前から書いていた恋愛小説、編集長に見せたら、検討してみるって言われていた。それがなんとか認められたのだと言う。「ありがとうございます」「いや私は何もしてないです、先生の努力ですよ、将来が楽しみです、そこでそちらの担当は皆藤にさせようと思うのですが」「はい、皆藤さんなら気心知れていますから助かります」全と僕の夢が一歩近づいた。僕は変われるんだと思った。「お待たせしました」全の声、佐伯先生の後ろから付いてくる。二人が輪に加わり空気が華やかになった。別れのシーンとは思えないほど楽しく明るい時間だった。佐伯先生は明るい笑顔で飛行機に乗り込み、僕らも笑顔で見送った、ただ、言えるのは全の様子、普段と変らない、だけど何かが違っている。車の中が静まり返る。「どうした?」「全、本が出せるんだ」「聞いた?」「うん」「読んだよ」「本当、恥ずかしいよ」「なに言ってるのあんなに出来が良いのに見せないなんてズルイよ」肩を抱かれた。見上げる全の顔はハンドルを握って真剣な顔をしてるけどどこか嬉しそうに微笑んで見えた。僕の杞憂はこの会話で消えたわけではなかったけれど、心の痞えは少し解れた。「俺が担当だ、分かるよねこの意味」「ああ」「気が乗らない?」「違う、ただ、こんなに順調で良いのかな?」「君の努力だよ」同じ言葉が返って来るけれど全に言われるのは悪くない。「なに?」「何でもない、和樹さんは幸せに成れるよね」「ああ、成れるよ」「僕も幸せに成れるかな?」「俺が幸せにする」心が暖かい、泣きそうに成るのを抑える。「違うよ全、君と二人で歩いて行くんだよ、僕は小説家、君が編集長、憶えてる?」「ああ、憶えてる」信号で止まった車内、キスがされた。にほんブログ村