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カテゴリ:虚  第一章
朝の清々しい光に目を細め、隣を無言のままに歩いている咬(ゼン)を見つめる。            咬の住むマンションを出てからずっと、唇を引き結んだまま口を開こうとしない。              何事かを考え込んでいる咬の横顔は、何かに追い詰められているようにも、呆然としているようにも見える。                                                        それを横目に見ながら、良将は煙草に火を点けた。                             そうすると、その煙草の香りが届いたのだろう、今まで視線すら動かさなかった咬がこちらに目を移し、細く息を吐いた。それに軽く手を振って返すと、咬はかすかに微笑し、先程より気を弛めた様子で再び前を向いた。                                                  近頃何かと理由をこじつけて良将が咬を連れ回すのは、こうやって、ともすれば思い詰めがちの咬の気を散らすためだった。                                              咬と居る時は、良将はほとんど喋らない。                                    さっきの様に、しぐさや視線で互いの思っていることが判るからだ。                     むしろ、余計なものを付着させたり、ストレートに感情を表すことができない言葉は咬との間では邪魔だった。                                                            咬は他人の感情の動きにかなり敏感だ。特に負の感情、同情、妬み、嫉み、憎しみ、嘲り。     咬の幼い頃を思い出すと、今では当然だと思うが、鋭敏すぎる感受性は人間不信を起こすほどだった。卑屈で甘い嘘など、咬には通用しない。そんなものは受け入れない。                だから良将はいつも咬には真正面からぶつかる。                               踏み込みすぎてもいい、それは問題ではない。                               多少傷を負わせても、其れさえも取るには足らない。                             けれど、嘘など一つでもついたら、一歩でも後ろに下がりでもしたら、咬にはもう二度と近づけなくなる。それは咬が幼い頃に必死で築き上げた最後の砦だ。それは良将へでさえも例外ではない。    傷つけられる前に傷つけ、裏切られる前に裏切り、他の誰かに心を殺される前に自らでその心臓を引き摺り出す。なまじ鋭敏な感受性故に咬の行動は早く、その刃は他人を傷つけるより深く、重く自らを傷つけている。                                                   まるで手負いの獣だと思った。                                           しかも自分の血溜まりに溺れながらも、獣は牙をむき、威嚇を止めようとはしない。            どうにか其処から引き摺り起こそうとし、向き合ったところで、其れが計算尽くだということに良将は気付いた。                                                      咬が自分で負わせている傷は死にもの狂いで自分の身を護った時についたものではなく、これから受けるであろう傷の深さを想定し、其れに堪え得る為に敢えて自分に牙をむいたものだった。      しかもその自傷行為はおかしなほどの冷静さで行われる。                         哀しいほどの防衛本能に、始め良将は絶句した。                               「良将。」                                                       戸惑った様な声に呼ばれ、間をおかず笑みを返す。                             「何だ?」                                                         そして迷わず咬の髪を梳いた。これは良将のクセだった。                          どうやら咬はスキンシップに弱いと気付いてからよくやるようになった。                  最初の内は、咬はかなり嫌がったが今ではもう何も言わなくなった。                   小さい頃咬が熱を出した時、髪を梳いてやるといつも気持ち良さそうに眠ったのを覚えていたからやり始めた。どんな些細なことでも何かの切っ掛けになればいいと思った。                   続けると、咬は微かに目を細めた。気持ちがいい、とでもいうように。                    思わず嬉しいと思ったことを良将は否定しなかった。                            「何だ?」                                                      もう一度聞いてやると、咬は少し考え込んだがすぐに目を上げ苦笑した。                「いや・・、いい。何か、どうでもよくなった。」                                  咬の温かな微笑が自然と浮かぶのを見、祈るように思う。                          『守らなければ』、と。
















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最終更新日  2005年09月10日 16時11分10秒
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