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虚

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カテゴリ:虚  第一章
「あああああッ!!」
力の限り喉を引き攣らせ、悲鳴を上げる。
喉の奥が痛み、血が流れたが、そんなことに頭は働かなかった。
重く湿ったシーツをわし掴み、ベッドから飛び起きる。
「咬(ぜん)・・・っッ!?」
焦りを含んだ声とともに乱暴にドアが開けられ、何かが寝室に入ってくる。
その何かを判別することもできず、けれど間をおかず背に触れてくる熱に咬は縋りついた。
「うッ、ごほッ・・・・、違、・・・俺はッ違・・・・ゥ、ゴホッ・・・・・・・・ハッ・・・・・ハアッ。」
悲鳴を上げて咽返ると、背の熱が優しくなだめるように背を撫で、次いで髪を梳いた。
その熱が、いつも夢に出てくる腕の温かさと少し似ていて、だんだんと落ち着いてくる。
どうにか呼吸を楽にしようと喘ぐと、すぐに姿勢が楽になる様に身体を支えてくれる。
そうしてようやく息をつけるようになって、徐々に自分の目に周囲の様子が映り始めた。
そこにあるのは、月光の降り注ぐ見慣れた自分の寝室と・・・・・・・、
「・・・・・・良、将(よしまさ)・・・・・・。」
ぐったりと疲労した目を向けると、良将の口元がいつもの見慣れた形に動いた。
咬、と。
そのことにほっとして、思わず良将の肩に頭をあずける。
それに応えるように背に腕が回され、らしくなく良将が切迫した声で聞いた。
「・・・・大丈夫か、どうした。」
間近に顔を覗き込まれ、目が・・・・、合う。
良将の目と、あの女の目が脳裏に重なった。
知らず身体が動き、良将をおしのけてしまう。
途端、良将の目がキツく細められた。
「またあの夢を見るようになってたのか?」
怖いほど真っ直ぐな目に、嘘などつけなかった。
「・・・・・慣れているから大丈夫だ。」
感情を殺した声に、一瞬良将の顔が強ばった。
「・・・んなもんに慣れるなっ、馬鹿野郎ッ!!」
眼が怒りと失意に燃えていた。
“何故俺を頼らなかった、まだ信用できないのか。”
真摯な怒りがそう告げていた。
その眼を咬は一筋に見返した。
(そんなんじゃない。)
口には出さず、静かに見据える。
そうだ、そんなことじゃない。
告げなかったのは、ただ・・・・・。
良将はこちらを切るように見返す。
それに静かに堪え、瞳を逸らさず告げた。
「悪かった。」
しばしの間、睨み合う。
が、良将が深く息をついた。
「・・・・いいぜ、もうわかってるよお前のことなんざ。今日は俺もここで寝るぞ。まだ夜中の1時だ、お前ももう一度寝ろ。・・・・夢なんか見なくていい。」
他人がそばにいると例の夢を見ないことを承知での良将の申し出だった。
「・・・・・ありがとう。」
ここ一ヶ月ろくに眠っていなかった故の疲れが一気に襲って来、咬は目を閉じた。
良将が髪を梳いてやると、咬はすぐに幼子の様に寝入った。
それを見、今まで気づきたくもなかったことに良将は目を向けた。
咬の首筋と足に、ねっとりと血が絡み付いている。
唇も微かに紅に染まっていた。
それを乱暴に自分の服でぬぐい、それでも堪え切れず良将は低く獣のように唸った。
「お前か・・・・っ、また、“貴様ら”かッ・・・・・・・っ!!」
『・・・・・・・・ッ!!』
先程の声にならぬ咬の悲鳴が耳の中で木霊する。
怒りに似た衝動が突き上げてくる。
その激情のままに良将は拳を壁に叩きつけた。
咬はよほど疲労していたのだろう、身じろぎさえせず、死んだように眠っている。
「・・・・・咬にまた同じことをしてみろ・・・、許さねえぞ・・・・っ。」
あまりの激情に臓腑が焼き切れそうだった。
それを冷静になろうと冷たい夜気を吸い込む。
いつもは涼しく心地よい春の夜気が、甘く陰惨に凝っている。
この狂夢の中に咬は今の今まで身を置いていたのだ。
しかも其れは咬が思っているような夢の中ではなく、<現実>で。
冷静になれ、良将は自分に言い聞かせる。
激情に身をゆだねるだけなら、馬鹿にもできる。
・・・近頃様子がおかしいと思ったら、案の定例の夢を見ていたらしい。
(咬の母親が死んでからは見ることがなくなっていたのに、だ。)
今から思い返すと、再びあの夢を見始めたのはおそらく一ヶ月ほど前だろう。
気付くのが少し遅れたが、接触したのは今夜が初めてのようだった。
ならばまだ手の打ちようがある。
「・・・・・・・。」
と、眠っている咬が細く息を吐いた。
目を向けると、咬の唇が切なげに震え、知るはずのない名を上らせた。
「な・・・・・っ。」
こうして良将が傍にいて抑えているので接触などできないはずだ。
(一体どういうことだ、どいつが入り込んでやがる・・・・っ。)
咬が呼んだあの名は・・・・。
まさか、ありえない。
けれど・・・・、と今朝のことを思い出す。
今朝も咬は夢を見ていたはずだ、けれど悲鳴どころか、うめき声一つ上げなかった。様子はおかしかったが、今まで見たことのないくらい深遠な目をしていた。満ち足りたような、それでいて全てを拒んでいるような。
(奴らじゃ、ないのか・・・・・?)
先程の昏く淫靡な波動は、今朝も今も感じられない。
どちらかといえば神聖で、殉教者が纏うのと同じような思念が咬を守るように包んでいる。
よほど愛しているらしい。
しかもかなり咬の魂と順応している・・・・・、ということは今まで何度も咬の夢の中に入り込んだはずだ。
(この一ヶ月咬と接触していたのは、こいつか・・・・?)
ふと脳裏に鋭利な気を持つ男の顔が浮かび上がる。
ゆるゆると、驚愕が上がってくる。
(まさか・・・、けれどあの男は元虎が殺したはずだっ。)
けれど何かにだまされているように、咬が呼んだ名とその男の符号が一致する。
思わず咬を見やり、手をのばす。
が、その手も途中で凍り付いた様に止まった。
なんともいえぬ予感めいたものが走り、良将は戦慄した。





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最終更新日  2005年09月10日 16時08分48秒
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