「重版出来!」感想
最近、出版業界かいわいで話題になっている「重版出来!」という本。 ちなみに「じゅうはんでき」ではなく、「じゅうはんしゅったい」と読む。出版不況が叫ばれて本の売れないこの時代に、1冊でも多くの本を売ろうと、作家、編集、営業、書店員たちが汗水たらして奮闘する様が、読者の感動を呼んでいる。で、自分もけっこう感動した口だ。 もちろん、作品で熱く語られている「物語」ももちろんだが、作中でこれでもかと描写されている「リアル」にも。 「重版出来!」の舞台は超大手出版社の、有名週刊漫画雑誌編集部。そこへひとりの新人女性が配属されてくるところから話は始まる。この女の人は頭脳明晰スポーツ万能、おまけに気配りもできて礼儀正しい体育会系のさわやかさん。いかにも「フィクション世界の主人公」だけど、それはそれでいいと思う。現実の出版界を舞台の作品が、いかにも現実の若者を主人公にすえたところで、辛気くさい話になるだろうし。 けど、その爽やかなヒロインをもってしても暗〜いムードになってしまうのが、「現実の出版界」。ひとりの新人マンガ家が始めての単行本を出す時、営業から提示された部数が「5000部」。 大手出版社なのに、有名週刊漫画雑誌なのに、そこで連載を持っている「期待の新人マンガ家」なのに、5000部。熱血な編集長が営業課長に「もっとどーんと売ってやりたいじゃないか!」と反論するも、「雑誌を潰してもいいなら刷りますが」と、冷ややかな答え。 「新人が5000部スタート」というのにもビックリだが、「5000部以上刷ると、雑誌が潰れる」というのに、もっとビックリだよ! 大手出版社なのに! 有名週刊漫画雑誌なのに! 潰れるのかよ! しかも! ページをめくると、その「ひややかな営業課長」が、お座敷で書店員さんにビールをついでいる! なんだよこの「上下関係」! 「編集部<<営業部<<<<<越えられない壁<<<<<<書店」ですか! 自分はこの「重版出来」というマンガに、特別な先入観はなかった。予備知識としては「ネットで話題なんだな」くらい。だから、最初のページからずっと、素直な気持ちというか、まっさらな気持ちで読んだ。裏読みしようとか、深読みしようとか、重箱の隅をつつこうなんて思ってない。この話は単行本の4話なんだけど、素直に読んで、「ああ、今、書店って強いんだな、力持ってんだな」ということを知らしめる話だと思った。「編集部がかなわない営業部。その営業部がビールをつぐ書店員」。「本屋大賞」が「直木賞」よりも売れるはずだよ。 …もっとも、あくまでこの「重版出来!」はフィクションである。上下関係を匂わす描写があっても、ヒロインの新人編集者、最初の頃こそやる気がないが、しだいにそのヒロインに影響されて仕事に精を出す営業くん、そしてブレイク間近のマンガ家、本を売るために日夜頭を悩ましている書店員、みんながみんな手を取り合って「1冊でも多く本を売る」ために頑張る姿はやっぱり感動する。 …けど、結局、5000部でハンコを捺されてしまった「タマルハイツ先生」は可哀想。担当もやる気のない人だし。1,500円以上お買上げで送料無料!!【漫画】重版出来! 全巻セット (1巻 最新刊) / 漫画全巻ドットコム