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LOYAL STRAIT FLASH ♪

第二章

27 名前:料理[sage] 投稿日:2006/12/28(木) 22:35:27.55 ID:T5DMejVm0


 第2章 ロクデナシ


この外食産業において華やかに着飾ったウェイトレスが微笑み動き回るホールを表の顔と定義するならば
元々何色だったか判らなくなるまで汚れたコックコートの料理人が必死の形相で走り回る厨房を裏の顔と定義する事に多くの反対意見は寄せられまい。
その理屈で言えばここ、『スタッフルーム』と丁寧な明朝体で書かれたプレートを張られたドアの奥は闇の顔とでも言うべきだろうか?

(´・ω・`)『そんな大げさなもんじゃないけどね』

僕は自分のバカな考え。どうにも進展を見せない仕事へのちょっとした現実逃避を否定するように首を横に振った。
歯形がついた禁煙パイプを唇から離し、冷めた缶コーヒーを一口。
うん。不味い。

(´・ω・`)『やっぱりお願いした方がよかったかな』

休憩に入るウェイトレスからインスタントコーヒーを勧められた時丁重にお断りしたのを今更ながら後悔した。
缶コーヒーもインスタントコーヒーも味自体に大差は感じないが、
出勤前駅前のコンビニで買ってすでに冷め切った缶コーヒーと入れたてのインスタントコーヒーでは後者に味の軍杯があがるのは明らかだ。
そんな事は僕自身判っている。
だがしかし、ここ最近どうにも誤魔化しきれない腹部の脂肪を見かねたスタッフから減糖命令、
つまりは一日に十杯以上も飲むコーヒーはブラックのみ限定の命令を出されてしまった僕は
スタッフの目から逃げるようにコンビニで禁煙パイプと大量の缶コーヒーを買い込むのが日課になっていた。







28 名前:料理[sage] 投稿日:2006/12/28(木) 22:38:08.08 ID:T5DMejVm0
スタッフルームなんて小洒落た呼び名をされているが、
実際は倉庫兼休憩室に過ぎない。
いや、むき出しのコンクリートの床に足元がガタつく会議用テーブルと安物のパイプ椅子があるだけで、
どう贔屓目に見ても倉庫に無理やり休憩スペースを作り上げた感が否めなかった。

僕から見て右手側には食品棚と業務用冷蔵庫。
更にビールケースやドリンクの濃縮原液が詰まった2ガロンタンクが積みあがっている。
左手側には従業員用ロッカーと称されるホームセンターで買ってきた木製の棚と
それと出身地を同じにするパイプハンガー。
その奥に申し訳なさげに垂れ下がっているのは、
女性スタッフの着替え時のプライベートを守るべく設置した厚手のカーテン。
ただ、異性の目を気にする女性は洗面所で着替えを済ませる事の方が多かったし、
『あんたなんか眼中にないのよ』とばかりに服を脱ぎだす猛者もいて活躍の場は少ない。

部屋中に充満する独特の匂いは、
片隅に積み上げられたクリーニング業者を待つコックコートにしみこんだ油の匂いだろう。
高温で酸化した油の匂いは飲食店よりも解体業者に相応しいと感じられた。

僕はこのお客様ですら不可侵の聖域の最奥に置かれた専用のスチールデスク
・・・どこの学校の職員室にも置かれているアレだ・・・でPCをいじっていたのだけれども、
思うようにはかどらない作業に辟易し
どこをどうしたのか判らないが2時間かけて作成した資料がいきなり白紙に戻った辺りで
ついに筆ならぬマウスを投げるに到ったのだった。







30 名前:料理[sage] 投稿日:2006/12/28(木) 22:40:52.54 ID:T5DMejVm0
(´・ω・`)『どうにもデスクワークは苦手だね』

そう呟きながら硬くなった背筋を伸ばす。
机の片隅に置かれた、誰が持ってきたのか分からない【団長】と書かれた三角錐。

(´・ω・`)『こんなのを持ってくる下手人候補は2人しかいないけどね』

その向こうでは2人のウェイトレスが休憩している。

僕から見て手前にいるのが自然に波打つ栗色の髪を持った女性。
美少女~美女のちょうど中間点に位置する年齢の彼女の名前はツンと言う。
深くスリットの入ったチャイナドレスの奥で組まれた形のいい足は10人中9人の男の目を釘づけにする。
しかし、彼女の本当の特徴はそのスタイルではない。
不機嫌そうに眉間に刻まれた縦じわと、猫科の動物を思わせる力強い目こそがツンと言う人間の代名詞だ。
今も彼女はその目で僕を一瞥し、

ξ゚△゚)ξ『・・・フンッ』

と鼻を鳴らして手元の通販雑誌に視線を戻す。

彼女と知り合って暫くの間。
僕は彼女を怒らせる様な事をしたのか不安になったものだ。
今ではその不機嫌フェイスが彼女の通常装備と知って、

(´・ω・`)『お客様に対しては愛想がいいからいいんだけどね』

と問題を自己解決させている。




32 名前:料理[sage] 投稿日:2006/12/28(木) 22:42:43.99 ID:T5DMejVm0
もう一人。
様々なポーズを決めるモデルに睨みをきかせるツンの奥で携帯をいじったりツンの雑誌を覗き込んだりしていた彼女は、
作業の手を止めた僕を見て

(*゚ー゚)『遊んでくれそうな人発見☆』

とばかりに駆け寄ってきた。
比較的小柄なツンよりも更に一回り小柄な彼女は、
バッサリ切った黒髪・クリクリとよく動く大きな瞳と合わせて『少女』・・・いや、『少年』と言っても違和感はないように見える。
実際、彼女は全スタッフ内で最年少でもある。
が、チャイナドレスの胸元にぎゅうと押し込まれた柔らかそうなそれは、はちきれんばかりに『女性』をアピールしていた。
彼女の名前はしぃ。

(*゚ー゚)『ショボ君またやっちゃった?☆』

僕の背後に回りこみ、嬉しそうに話しかけてきた。

(*゚ー゚)『最近ずっとPCとにらめっこだね☆ 何やってるの?』

(´・ω・`)『今後の人事育成計画の予定報告書さ。荒巻さんから急かされちゃってね』

荒巻さんはバーボンハウスのスポンサーを務める事業家だ。
先月末バーボンハウスはシベリア市に2号店をオープン。
流石兄弟をはじめとする多くの優秀なスタッフがそちらに移動していった。
その結果、ここバーボンハウス本店は慢性的な人手不足に悩んでいた。
募集広告は色々試しているものの、電話が全く鳴らなくては話にならない。

(´・ω・`)『時期が悪かったかな』

僕はそう一人ごちた。

33 名前:料理[sage] 投稿日:2006/12/28(木) 22:46:05.73 ID:T5DMejVm0
 (´・ω・`)(冷菜とデザートは充実しているんだ。麺場と鍋を任せられる人材を育てないと・・・)

そう考える僕の耳元にしぃが口を近づける。

(*゚ー゚)『募集広告成果がないんでしょ?』

そう言って不機嫌オーラ全開のツンをチラリと見た。

(*゚ー゚)(だからお姉ちゃんがモデルじゃダメって言ったじゃないw お姉ちゃん撮影中ニコリともしないんだもん)

しぃの言葉には悪意を感じない。
実の姉妹、と言うのもあるだろうが彼女の生まれ持った人徳によるものも大きいと言える。

(´・ω・`)『ふふふ。しぃちゃんをモデルにしたほうが良かったかな』

そう言う僕の肩をバシバシと叩く。
意外に痛い。

(*゚ー゚)『wwwいやですよwwwクーさんにお願いすればよかったじゃないですかwww』

しぃちゃんと会話していると癒される。
そんな事を考えていた僕の頭上を影が覆う。

ξ#゚△゚)ξ『聞こえてますよ。ダメなモデルで悪かったわね』

そこには両手を腰に当て仁王立ちで僕を見下ろすツン・・・いや、修羅がいた。




35 名前:料理[sage] 投稿日:2006/12/28(木) 22:48:58.19 ID:T5DMejVm0
(:´・ω・`)『い、いやモデルが悪いんじゃないって。毎年この時期は応募が少ないんだよ』

僕は必死に弁解する。

(;*゚ー゚)『そ、そうよ。それに最近じゃお姉ちゃんみたいな不機嫌顔が一部で人気なのよ』

一部ってどこだよ。
しぃちゃんは弁解するようで火にガソリンを注ぎ込んでいる。

ξ#^ー^)ξ『ふ~ん。それじゃあたしがモデルで応募が0なのは何故でしょうね?』

30字以内で答えよ。そう続けられた。
これは強制モードだ。失敗は死に繋がる。時間は沢山ある。落ち着いて答えるんだ。つか気にしてたのか!?

(:´・ω・`)『そ、それはやっぱり・・・』

僕は無意識のうちにしぃのダイナマイトな胸元と、目の前に立つ修羅の布地にかなりの余裕がある胸元をちらりと見比・・・

瞬間。
僕の頭上を一陣の物質的暴力が通過した。

ξ#゚△゚)ξ『・・・胸とか言ったら・・・殺すわよ』

あっけに取られていた僕はその一言で我に返り、頭上を通過した凶風の正体がツンのすらりとした足だと知った。
彼女はゆっくりと足を戻し、僕を道端に捨てられた空き缶を見るような目で一瞥すると
そのままさっきまで座っていたパイプ椅子のところに戻っていく。

コツン。後頭部に何かが当たって僕は振り返った。
僕の背後のコンクリートの壁が直径20センチ大のクレーター状に陥没していた。
そこから落ちたコンクリート片が僕の頭に当たったのだった。

36 名前:料理[sage] 投稿日:2006/12/28(木) 22:51:53.66 ID:T5DMejVm0
 (;´・ω・`)『ちょ、ちょっとしぃちゃん』

僕はツンの上段蹴りの風圧で床に転げ落ちた禁煙パイプを拾うフリをして
机に陰に隠れしぃちゃんを呼び寄せた。

(;´・ω・`)『ね、ねぇしぃちゃん。お姉しゃん普段に増して機嫌悪くなひ?』

直前まで目前に広がっていた死の恐怖のせいか舌がうまく回転しない。

(;*゚ー゚)『そ・・・そうですか?』

(;´・ω・`)『そうじゃよ。普段だったら無言で雑誌投げてきてお終いじゃない』

(;*゚ー゚)『確かに・・・あ!もしかして・・・お姉ちゃん今日生理で機嫌悪いのかも!!』

(;´・ω・`)『しょれはないよ。だって今パンチュ丸見えだったし・・・』

(;*゚ー゚)『でもお姉ちゃんタンポ・・・』

しぃちゃんがそこまで言った時。
つんの周囲の殺気が爆発的に高まった。

(;´・ω・`);*゚ー゚)『・・・殺される・・・』

僕達2人が死を覚悟した時。



机の上の電話が突然鳴り出した。


39 名前:料理[sage] 投稿日:2006/12/28(木) 23:00:58.89 ID:T5DMejVm0
 川 ゚ -゚)『その電話の向こうにいたのがこの内藤君だったというわけだ』

彼女はクー。
すらりとした長身と腰まで伸びる美しい黒髪を持った僕の右腕だ。
常に冷静沈着。事務・経理の天才にしてホールマネージャー兼バーテンダー。
吸い込まれそうな黒水晶【アメジスト】色の瞳をしている。

(´・ω・`)『うん。おかげで命拾いしたよ』

初めて応募の電話が鳴った事にツンは気をよくしたのだろう。
僕達に天誅を下すことなく、そのまま休憩時間が終わるまで通販雑誌を眺めていた。

(´・ω・`)『ただね・・・無職、外食産業経験なしでしょ。19時に面接希望とか言い出すし・・・断ろうと思うんだ』

ふむ。白く長い指をあごに当てて考えていたクーはやがて考えがまとまったようで口を開いた。

川 ゚ -゚)『私は反対だ』

川 ゚ -゚)『我々には【経験がないから】などという理由で応募を断れるほど余裕がない。
     経験がなければ教えればいいんだ。それをしないのは怠慢と言うべきだろう』

川 ゚ -゚)『それにもしこの内藤君が使い物にならないとしても・・・次の採用が決まるまでのつなぎにはなるのではないか?』

なるほど。クーが言う事はもっともだ。
最悪、夏までにある程度の仕事を覚えてくれてクソ忙しい時期だけ乗り切れるだけでもいいじゃないか。

(´・ω・`)『じゃ、採用の方向で面接してみようかな』

ツンのご機嫌も治るかもしれない。
僕はそう考えた。


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