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27 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:46:53.15 ID:KaUUj71H0
第二話 多分僕は相当のバカだ。 たとえ父が亡くなって部屋が空いているといっても、何の面識もない男を泊めるなんてどうかしている。 ただでさえ今、周囲で連続殺人事件が勃発しているのだ。 その点で見れば、彼は十分に怪しい。 ……とはいえ、あの状況で放っておくというのもできなかった。 なぜだろう。やはり、似ているから、だろうか。 昨夜。 扉に引っかかっている木札を「OPEN」から「CLOSE」に変えた。 これで僕はマスターではなくなり、一介の二十四歳男性となったわけだ。 ジョルジュさんに置き去りにされて、自失の中に微かな困惑を垣間見せている男の人は、椅子に座ったまま動かない。 僕は彼の目の前に、さっきつくったばかりの水割りを差し出した。 とりあえず、事情を聞こうと思ったのだ。 僕が名乗ると、彼も小さな声で返事してくれた。 モララーというらしい。どこかで聞いたことがあるような気がするけど、はっきりとは思い出せない。 (´・ω・`)「それで……いったいどんな事情があったんですか」 ( ・∀・)「……まぁ、いろいろあったんです」 水割りを手に取るが飲もうとはしない。 氷がグラスを打つ音だけが響く。 28 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:47:11.93 ID:KaUUj71H0 (´・ω・`)「これから、行く当てとかは」 ( ・∀・)「……別に、どこにも」 ふて腐れたような口調。僕は押し黙ってみる。 ( ・∀・)「あの、すいません。私、酒は飲めないんです」 しばらくして、モララーさんはきまり悪そうに呟き、水割りをテーブルの上に置いた。 瞬間、ふっと空気が少し和んだような気がした。 (´・ω・`)「そうですか。じゃあ、コーヒーは」 モララーさんが礼を述べるのを確認し、僕は背後の棚からコーヒー豆を取り出す。 その頃、僕はやっと彼に対する心の中の違和感に気づいた。 その正体はおそらく既視感……それも、ずっと昔の記憶が掘り起こされたようだ。 コーヒーをつくりながら、その既視感についてしばらく考慮してみる。 でも、頭のビジョンには霞がかった記憶が映るだけで、はっきりとは知ることができない。 (´・ω・`)「どうするつもりですか?」 ( ・∀・)「何も考えてないですが」 30 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:47:45.58 ID:KaUUj71H0 この人は何を目的としているのだろう。 着ているコートも、時代遅れではあるが汚くはない。 見れば見るほどこの人がホームレスでなく、それまでごく普通の暮らしをしていたように思える。 しかしいくら推測しても仕方ない。 尋ねてもおそらく、答えてくれないだろう。 次の言葉は、ほとんど自然に口から飛び出した。 (´・ω・`)「今夜、うちに泊まっていきませんか?」 モララーさんは驚いたようにこちらを見た。 それはそうだろう。僕自身も驚いているのだから。 気まずい沈黙が流れ、僕はとりあえずできあがったブラックコーヒーを彼の前に置いた。 だがモララーさんは微動だにしない。 僕の台詞を気にしてしまっているのだろう、釈明の文言を考えなければならない。 (´・ω・`)「あ、その。僕はここに一人暮らししてて……それに部屋も空いてるんです」 実際、四ヶ月前に死んだ父の部屋は綺麗に片付けた後、全くの手つかずになっていた。 でもその事実は彼に告げない。 「気味が悪い」とでも言われるとおそらく僕はショックを受けてしまうからだ。 32 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 11:48:11.61 ID:KaUUj71H0 いいんですか、と彼は確認する。それに僕は、若干戸惑いながら頷く。 直後、僕は彼の口から二度目の感謝の言葉を聞いた。 コーヒーの焦げたような香りが鼻をくすぐる。 ( ・∀・)「このコーヒー、おいしいですね」 (´・ω・`)「……めっそうもないです」 二階の元父の部屋に案内するまでの道程で、僕は彼からいろいろなことを聞き、いろいろなことを知ることができた。 年齢は僕より一つ年上。 記憶喪失になってしまったらしく、ここ最近の出来事が全く思い出せない。 身体的な情報についても、名前と年齢以外は曖昧だ。 気がつけば路上に旅行カバンとともに座り込んでいて、ジョルジュさんに拾われた。 ( ・∀・)「何か、事件に巻き込まれたんですかね」 自嘲するように、彼は笑って言った。 僕は、件の連続殺人を思い出さずにいられない。 最初に発生したのは昨年十一月二十八日、深夜のことだった。 若い女性が路地を歩いていると、突然背後からナイフで刺されたという。 すぐに発見されたが女性は出血多量で死亡、それはしかし、ただの発端でしかなかった。 57 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/02/17(土) 12:13:05.78 ID:KaUUj71H0 二件目は十二月の初旬、橋の下に住むホームレスが犠牲になった。 犯行時刻や使われた凶器が同じらしく、警察は同一犯の犯行と見て捜査しているようだ。 三件目はクリスマスのやはり深夜、公園に住む同じくホームレスが被害者となってしまった。 以降、犯人は息を潜めている。しかしながら安心はできない。 何せ犯行の頻度はそれほど高くない。期間的に考えれば、そろそろ四度目の犯行があってもおかしくはないのだ。 連日報道されるそれらのニュースは、僕ら周辺住民の不安をいたずらに煽る。 ……というようなことをモララーさんに事細かに話した。 すると彼は、少し意外そうに私を見つめたが、やがてそうですか、と頷いた。 モララーさん自身が犯人とは思えない。 もし犯人ならば、ジョルジュさんに声をかけられた時点で何らかのアクションを起こしているはずだ。 僕は半ば安心していた。 押し入れから布団を取り出すと、モララーさんは自分ですると言って分厚い布団を受け取った。 (´・ω・`)「暖房とかなくて申し訳ないですが」 ( ・∀・)「いえ、お気遣い無く」 彼の声からは眠気が見て取れた。 だから僕はそれ以上何かお節介せず、ただ「早めに休んでください」と声をかけてその部屋から離れることにした。 58 名前:愛のVIP戦士[sage] 投稿日:2007/02/17(土) 12:13:25.94 ID:KaUUj71H0 そして、朝。 今日は一応定休日ということになっている。 昨日から再開したばかりなのにいきなり休みというのも考え物だったが、モララーさんのこともあるし、 何より定期的に訪ねてくる常連さん主体の店だから無意味に開けても仕方ない。 いくら遅く寝ても、六時半頃には目が覚めてしまう。 おそらく高校時代、部活の早朝練習に間に合うためにつけた習慣だ。 寝ぼけ眼で起き上がり、着替える。 今日はどうしたものかと自失のカレンダーを見つつ物思いにふける。 とりあえず、お店の掃除をすることに決める。 ついでに棚の整理もしておこう。 適当に朝食をとって、七時半、僕は階下に向かった。 もっとくつろげばいいのに、と自分でも思う。 でも今の僕には、バーのマスター以外に為すべき仕事がない。 そして仕事とは、僕自身を体現している。 ような、気がする。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Mar 12, 2007 09:00:13 PM
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