うずらの小部屋

2008/02/18(月)17:04

『ひなたぼっこ』12

TS小説(32)

結局、候補から選別するまでに2時間近く費やしてしまった。 心地よい疲労感を味わいながら、レジにカゴを二つ持っていく。 元値は4、5千円ってところだけど、安いのは7割引だし知れてるはず。 精算をしていると、どこかへ行っていた田原さんが戻ってきた。 シックを通り越してゴシックな黒い布を手にしている。 「ねぇねぇ、これなんか、どう?」 ジャーンっと自分で効果音をつけながら、私の前で広げてきた。 満面の笑顔だ。 初見通り、ゴスロリって呼ばれるタイプの衣装だ。 そんな嫌がらせ的なの、あったらカゴに入れたと思うんだけど……どこにあったんだろう? 「いいですね」 ついついひなたに着せた時を想像して、顔がにやけそうになってしまう。 って、なんだか大きくないですか、それ。 ひなた用、というより、えっと。 「ね? 千鶴ちゃん好きでしょう、こういうの?」 言葉に詰まった。 好きなのは好きだけど、ゼッタイ似合わない。 こういう服は、文字通り小さい人向けだというのが私の信念だ。 っていうか、なんで私の趣味を知ってるんだろう、この人。 ぬいぐるみだって、ひなたが部屋に来るときは隠してる。 本間はここ数年、家に呼んだことすらない。 「あの、お客様……?」 私がぐるぐるしてる間に、レジ打ちが終わっていたらしい。 店員が困った顔をしていた。 「す、すみません」 慌ててカバンから財布を取り出す。 その間に、田原さんは別のレジでお金を払っていた。 あああ……。 「着て帰るので、タグを」 なんて、私がひなたのときに言ったのと同じことまで。 一言も良いなんて……。 喜色満面な様子で田原さんが引き返してくる。 その笑顔が怖い。 「ほら、せっかくだし」 何がせっかくですか。 「わ、私は別に、そういうのは」 「今だったらひなたくんも勝ちゃんもいないし、ね?」 着てみたいって気持ちはある。 昔から、ひらひらした服に憧れは強かったし。 だけど。 「でも……」 「私からのプレゼント、もらってくれないんだ」 目に見えて元気が無くなる田原さん。 戸惑っていると、ちらちらと上目遣いでこっちを伺ってくる。 神様、これはひなたで遊ぼうと思った私に対する罰ですか? 「わかりました。でも、着てみるだけですからね」 だめだ、彼女には勝てない。 まとってる空気が柔らかすぎて、なんだか逆らえない。 本当に年上なのかと疑いたくなってきた。 「わぁっ、ありがと! それじゃ、試着室借りますね」 店員さんに了解を得て、ボックスに連れ込まれた。 って、なんで一緒に? 「あの、田原さん」 「どうかした、千鶴ちゃん?」 「な、なんでもありません」 やっぱりだめだ。 なるようにしかならないってわけね。 そこから先は、思い出したくもなかった。 ひなたに制服を着せたときを彷彿とさせた。 ただし、立場が反対。 しかも私は意識があるのに。 脱がされ、見られ、着せられた。 「わぁっ……」 「も、もう良いですか?」 やっぱり変だ。 私にはこんなの無理。 鏡も見れない。 「だめよ、ちゃんと自分で見ないと、ね?」

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