2008/02/18(月)17:04
『ひなたぼっこ』12
結局、候補から選別するまでに2時間近く費やしてしまった。
心地よい疲労感を味わいながら、レジにカゴを二つ持っていく。
元値は4、5千円ってところだけど、安いのは7割引だし知れてるはず。
精算をしていると、どこかへ行っていた田原さんが戻ってきた。
シックを通り越してゴシックな黒い布を手にしている。
「ねぇねぇ、これなんか、どう?」
ジャーンっと自分で効果音をつけながら、私の前で広げてきた。
満面の笑顔だ。
初見通り、ゴスロリって呼ばれるタイプの衣装だ。
そんな嫌がらせ的なの、あったらカゴに入れたと思うんだけど……どこにあったんだろう?
「いいですね」
ついついひなたに着せた時を想像して、顔がにやけそうになってしまう。
って、なんだか大きくないですか、それ。
ひなた用、というより、えっと。
「ね? 千鶴ちゃん好きでしょう、こういうの?」
言葉に詰まった。
好きなのは好きだけど、ゼッタイ似合わない。
こういう服は、文字通り小さい人向けだというのが私の信念だ。
っていうか、なんで私の趣味を知ってるんだろう、この人。
ぬいぐるみだって、ひなたが部屋に来るときは隠してる。
本間はここ数年、家に呼んだことすらない。
「あの、お客様……?」
私がぐるぐるしてる間に、レジ打ちが終わっていたらしい。
店員が困った顔をしていた。
「す、すみません」
慌ててカバンから財布を取り出す。
その間に、田原さんは別のレジでお金を払っていた。
あああ……。
「着て帰るので、タグを」
なんて、私がひなたのときに言ったのと同じことまで。
一言も良いなんて……。
喜色満面な様子で田原さんが引き返してくる。
その笑顔が怖い。
「ほら、せっかくだし」
何がせっかくですか。
「わ、私は別に、そういうのは」
「今だったらひなたくんも勝ちゃんもいないし、ね?」
着てみたいって気持ちはある。
昔から、ひらひらした服に憧れは強かったし。
だけど。
「でも……」
「私からのプレゼント、もらってくれないんだ」
目に見えて元気が無くなる田原さん。
戸惑っていると、ちらちらと上目遣いでこっちを伺ってくる。
神様、これはひなたで遊ぼうと思った私に対する罰ですか?
「わかりました。でも、着てみるだけですからね」
だめだ、彼女には勝てない。
まとってる空気が柔らかすぎて、なんだか逆らえない。
本当に年上なのかと疑いたくなってきた。
「わぁっ、ありがと! それじゃ、試着室借りますね」
店員さんに了解を得て、ボックスに連れ込まれた。
って、なんで一緒に?
「あの、田原さん」
「どうかした、千鶴ちゃん?」
「な、なんでもありません」
やっぱりだめだ。
なるようにしかならないってわけね。
そこから先は、思い出したくもなかった。
ひなたに制服を着せたときを彷彿とさせた。
ただし、立場が反対。
しかも私は意識があるのに。
脱がされ、見られ、着せられた。
「わぁっ……」
「も、もう良いですか?」
やっぱり変だ。
私にはこんなの無理。
鏡も見れない。
「だめよ、ちゃんと自分で見ないと、ね?」