『ひなたぼっこ』14
「本間!」「あ、赤座……その格好。あ、いや、それよりな」車の傍らに目的の人影があった。本間と、ぐじゅぐじゅと泣いている女の子。仮にもひなたの中身は男のはず。それがこんな風になるなんて。「アンタ、もしかして」頭に血が上った。何も考えられなくなった。脳裏をよぎったのは、ひなたのベッドで自慰をしていた本間の姿。身体が勝手に動いていた。ジャケットの襟を掴んで、車に身体ごと押し付ける。ぎしりと車体が軋んだ。「違う! 俺じゃない!」「と、トイレ……つ、連れ込まれ、てっ」「っ!」そのまま、もう一度叩きつけた。やっぱり。こいつなんかに預けるんじゃなかった。私が楽しみたいからって、それだけでひなたを任せるんじゃなかった。荷物を持った田原さんが追いついてきた。青い顔をしている。それでも気丈な声で、私を制した。「千鶴ちゃん、落ち着いて。ね?」「う、ちづ、ひくっ……しょ、勝司じゃ、ない」ひなたが私の服の裾を掴んだ。すっと頭がクリアになる。こんなに興奮したの、いつ以来だっただろう。大きく息を吐きだす。ゆっくりと手を離した。「ごめん、本間。止まらなかった」「い、いや、俺の方も迂闊だったよ」「それで何があったの、勝ちゃん?」自然な形で田原さんが私の斜め前に立つ。さすが年上。いっつもほわわんとしてるのに、何だかんだでしっかりしてる。私がまた暴走しないようにしてくれてるんだ。「ん……俺がちょっと目を離した隙に、男子トイレに引っ張り込まれてな。あ、いや、悲鳴が聞こえたから、すぐに駆けつけたんだけど」そこで詰まった。泣いてるひなたを慰めるように何度か頭を撫でる。「俺が行ったら、連れ込んだヤツはすぐに逃げてさ。ひなたが下着降ろされてへたり込んでたし、追いかけるわけにも行かなくて……」「ぅ、ぐす、怖かっ、た」「うん、もう大丈夫だから」やわらかく田原さんが抱きしめる。そんなの、私のキャラじゃないものね。任せておこう。「それで?」「ん、ああ。それで、まあ、何かされた、ってわけじゃないらしいんだけどな」「うん」だから良いとは思わない。それぐらいは、本間も分かってるだろうけど。と、ひなたと何事か話していた田原さんが立ち上がった。「ねえ、これからみんなでケーキでも食べに行かない?」「「ケーキ……?」」本間と顔を見合わせる。なんでそんな話になるわけ?「甘いもの食べると、元気になるから。ね?」そう言って、にこっと微笑んだ。