懐かしの家族HP

2004/09/16(木)16:36

破局と再会シリーズ・仕組んだ一本橋教習

回想とノロケ(12)

私「今朝は困った。書けるかどうか・・」 夕子「どうかしたの ? 」 私「一本橋だけだよ。物語の肉付けが浮かばない・・・」 夕子「じゃあ、無理しないで一本橋やったこと、簡単に書けばいいじゃない」 私「ところでお前、ここのところ書き込みもなかったしさ、当時のこと思い出せなくて・・」 夕子「その代わり電話を連日してるでしょ。会えなくなったぶん、いろいろ交流のチャンスつかまえようと思ったけど、夜書き込んで朝電話ってのも、ちょっと大変で・・。あ、気に障った ? 」 私「いいや、済まないな、気をつかわせて・・」 夕子「いいのよ。お互い様でしょ」 私「急に妙なこと言うようだけど、お前、声の調子がなかなかいいね。ちょっと聞いていたいから、なんかいろいろ話してくれないか」 夕子「え、何よ、声の調子って・・」 私「会えなくなると発見があるな。俺、照れるけどお前にほれ直した」 夕子「なによ、恥ずかしいわ。ただ話してるだけで、そんなにいいの ? 」 私「そうか、ひらめいた。サンキュー。書いてみる」 夕子「何よ、急に ! ? 」あとは、よもやまの話をして電話を切った。 シリーズに入ります。 一本橋走行の練習の日だった。まず私がバイクにまたがってエンジンをかけ、外周をゆっくり回ってから、自作一本橋の板の前に前輪が来るよう、止めた。ギヤは一速のままだ。これでまず、やや勢いをつけて板の上に乗る。 なぜか中型二輪を取った頃、私はバランス感覚に自信があった。ここから、ブレーキは後輪ブレーキのみ。ギヤは一速のまま、ハンドルでバランスを保ち、進路修正しながら、出来るだけゆっくり板の上を進む。 脱輪、つまり板からハズれて路面に降りたら失格だ。腕時計がちょうど見えるので、時々チラと見ながら時間計測し、10秒を少し切るあたりで、15m走りきるほどになった。 ここでイタズラ心が頭をもたげた。 なぜこんな気分になったのか、その時はわからなかったが、あとでいろいろ思い出すうちに気づいた。 元の場所に戻ると、彼女と交代した。 夕子「やっぱりむずかしそう。どうやるの ? 」 私「まず、一本橋走行中はギヤは一速のまま。そしてブレーキは後輪ブレーキだけ。前輪ブレーキはバランスを失うから必ず使わないこと。ここまでいい ? 」 夕子「うん」 私「それからね、板につまり一本橋に完全に車体全部、言い換えれば後輪まで乗り切るまでは、やや勢いをつけて進めること。あとは、ハンドルでバランスを取りながら、なるべくゆっくり進むこと。それからエンストも失格。いい ? 」 夕子「うん、やってみるわ。とにかくなるべくゆっくり進めばいいのね」私はそうだと答えた。 夕子は言われた通り、一速で板の上に乗った。ここからハンドルを右に左に切りながら、なるべくゆっくり走行に入る。 「あッ ! ! 」と声を上げて、彼女は脱輪し、板から降りてしまった。私が一周して戻るように言うと、元の位置に来たが、明らかに不安そうな顔つきだった。 この瞬間、私は更に意地悪な気持ちを募らせた。 「夕子ちゃんね、一本橋だけは中型・大型問わず、10秒以上かけて走るのが規則なんだ。それ以前に脱輪してしまうあいだは、とにかく問題以前。まず無事走り抜けることだけ考えてやってみて」 彼女は再び挑んだが、勝気なせいか、初めから10秒を意識していることがわかる。 脱輪の連続だった。何回目かを終えた時、いよいよ不安を顔中にみなぎらせて言った。 「村松さん、わたし、これダメみたい・・・」 私はリュックからおもむろにストップウオッチを取り出した。 「夕子ちゃん、初めから最高の状態を目指そうってのは無理だから、まず脱輪しないで走り抜けることだけに割り切りなよ。脱輪がなくなったら、これ使うよ」 何でこんな意地悪をして、平然としているのか、まだハッキリわからなかったが、妙に楽しかった。 「それ、本物のストップウオッチね」夕子は陸上部で短距離をやっていたから、すぐわかる。 「でも、それで時間計測するのは、まだだいぶ先だなぁ・・・」とまだ不安いっぱいの顔だ。 「さ、とにかく練習あるのみ。もう一度」促すと、彼女はまた板の上に乗って、よろよろ運転を始めた。今度は時間を意識しないことにしたのか、何とか15mを走りきって、板から降りた。 「オッケー。それでいいよ」とほめてやったが。 「わたし、ここへ来て何だか自信がなくなっちゃった・・・こんなにむずかしいなんて。それに30cmの幅なんて、すごく狭いのね・・」 私は少しいじめすぎたことを後悔して、慰めた。 「一本橋いきなりスムーズになんてやられたら、教習の意味なくなるよ。でも、君、いい筋してるよ」だが運動に自信があったせいか、表情は沈んだままだった。 「もう一度やります」ポツリ言うと、何回目かの一本橋に挑んだ。これも脱輪した。 「村松さん、もう一度お手本見せて・・。あ、そのストップウオッチ貸して下さい」 私は言われるまま、板に向かった。どうやら少しむきにもなっているようだった。私のタイムを計るつもりだからだ。 それでも私は乗りなれたバイクで、ゆっくり走って、腕時計を確認しながら10秒くらいで走りきった。 「やっぱり村松さん、10秒くらいで走ってますね。あああ、なんだかやんなっちゃった・・」 この日は成果、すこぶる良からず。結局、脱輪したり何とかクリアーしたりのくり返しのまま終わった。彼女はかなり落胆したらしく、いつものように食事して帰るのも断わって、そのまま富士駅から帰った。 帰宅してから、ふと思い出した。小学二年の時、隣の女の子に難くせつけて口論に発展させたあげく、しつこい舌戦に勝ったと思ったら、その子が両手で顔を覆って、しくしく泣き出したことがあった。その泣き顔を見ているうちに、らちもないことで泣かした罪悪感と同時に、胸にドキンと何かを感じた。その子を好きになったことに気づいたのだ。 夕子にいわれなきイタズラを仕かけたのもこれではなかったかと思った。好きな異性に対する屈折した感情表現なのかどうか、わからないが、決して悪意からやったことではなかった。罪悪感はあるものの、胸の中がなんだか妙に熱くなっていた。 それでも、これは相手にとっては悪質なイタズラだ。同時に取り返しのつかないことをした後悔の念も、時間が経つにつれて高まって来た。 どうしよう、電話出来ないからすぐには謝れない。いや、謝って済まされることではない。全く自分はいい年して大バカやろうだと思った。へたをすると、いや多分これで彼女をいたく傷つけ、これまで何とか続いて来た仲もおしまいだとの予感がした。 夜、彼女から電話があった。 「村松さん、きょうはありがとうございました」 罪の意識をぬぐえなかったが、彼女の言葉が尋常(じんじょう)のようだったので、救われる気がした。 「わたし、今度こそ自分が技術があるなんて、思い上がっていたのを砕かれたから、書店へ行って、二輪関係の本を読んだんです。中型の項目・・」 え ! ? 「村松さん、10秒以上っていうのは、試験場一発試験の大型二輪の規定なんですね。なぜあんなウソをついたんですか ! ? 」 怒っていた。返す言葉はない。夕子が言葉をついだ。 「返事出来ないんですか ! ? 何か言って下さい ! ! 」 「ゆ、夕子ちゃん、ごめんなさい。もしすぐ目の前にいたら、土下座したい気持ちです。自分でもわからないんです。でも、弁解出来ません。本当にタチの悪いことをしました。すみませんでした。お詫び致します」 「質問に答えていませんよ。なぜ、あんなウソついたんですか ! ? 」 ああ、これはもう彼女次第だ。それでも何か言わなければならない。 「あの、今言ったように、言い訳出来ないんです。本当にごめんなさい。お詫び致します。すみませんでした」 「これから二度とあんな意地悪しないって約束出来ますか ? 」 「はい、約束します。これからは心を入れ替えて、一所懸命教えさせていただきます」 この時、初めての感覚が起こって来た。叱られている。それなのになんだかわくわくして来る。彼女も今回のことを許してくれるような口調に変わった。 「村松さん。中型二輪の一本橋の規定を言ってみなさい」 命令されている。またもこの曰く言いがたい感覚。快感とも言える。素直に答えた。 「はい。中型は時間制限なし。脱輪さえしなければパス、です」 「じゃあ、もう一度約束できますね。今後二度とあのような悪ふざけはしないと」 「はい、決して致しません。・・・夕子ちゃん、これで許してもらえますか・・ ? 」 電話の向こうで彼女がクスッと笑うのが聞こえた。何だッ ? 「村松さんって、まるで子供ね。これ見よがしにストップウオッチなんか持って来て・・。そんなにわたしをいじめるのが楽しかったの ? 」 「楽しくなんかなかったけど・・」 「フフッ。ウソよ ! わたし、怒ってなんか、い・ま・せ・ん・よ ! 村松さん、電話しながら何回頭を下げたのかしら、わたしには見えないけど・・」また彼女がクスッと笑った。 私には異性との交際の要領なぞ全くわからない。乏しい経験にもよるが、まして相手は高校生。ともかく、ようやく彼女の明るい声を聞いてホッとし、あとは適当な雑談をして電話を切った。「なんだか、俺がからかわれた結果になったな・・」と心の中でつぶやきながら、既に彼女の術中に陥り始めている感じも味わっていた。 部屋へ戻ろうとした時、初めて廊下の向こうの暗がりに母が立っているのに気がついた。 「あんた、何さっきから米つきバッタみたいに何度も頭下げてたの。なんか、あの娘(こ)をいじめたでしょ。そういう態度だと、すぐにフラれるよ」 母の言葉にも一言(いちごん)もなかった。 部屋に戻ってふとんに入ると、先ほどの感覚がよみがえって来た。叱られたうれしさの余韻もあったが、妙な疲労感もあった。 今は普通二輪でも、一本橋7秒以上との規定がある。日記の下書きにかかる前の彼女の意見も同じだった。 きょうの日記も書いたあと、随分疲労感があった。なんだか過去と現在がごちゃ混ぜになって来たような感じだろうか。ふうー。お粗末でした。

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