2004/09/18(土)11:23
破局と再会シリーズ・バイク娘の告白
夕子から電話がかかって来た。と言っても今のことではない。高校時代のことだ。
久しぶりの土曜夜の電話だった。
「村松さん、あした、会ってくれる・・ ? 」
久しぶりだ。ダメなわけがない。二つ返事でオーケー、ついでに思い切って頼んでみた。
「あの、誤解されるとつらいんだけど・・、夕子ちゃん、あした制服着て来られるかな。あ、もちろん俺はバイクで君はタクシーに乗るってことにして・・・」
夕子「あら、バイクのタンデム・シートに横向きってのはダメなの ? 」
私「うーん。俺はいいんだけどさ、交通規則がうるさくてね、実際それやってる子もいるけど・・、タクシーと電車のぶん払うからさ、ダメ ? 」
夕子「ううん、制服で行ってバイクに乗れるわよ」
私「えーっ、それはまずいよ。スカートはいたままシートにまたがるなんて・・」
夕子「そうじゃないの。わたしに考えがあるから、心配しないで」
私「ええ ? どうやって ? 」
夕子「いいの。それ以上言ったら制服着てって上げない。大丈夫だから ! 」
どうするのか、わからなかったが、彼女がそう言うので、任せることにした。
私「ねえ、制服なんて、変に思わない ? 」
夕子「ぜーんぜん。だってわたしのポートレートでしょ ? 」
とりあえず、妙な趣味と断わられなかったのはホッとしたが、どうやって来るのかが気になった。そして日曜になった。
富士駅へ行くと、彼女のほうが早く来ていた。だが約束の制服姿ではない。
夕子「約束が違うって思ったでしょ。でも、ほら」
彼女はトレーニングウェアのチャックをおろして、胸のあたりをチラと見せた。
胸がドキンとなった。だが良く見るとウェアの下に制服の上着があった。
私「でもスカートは ? 」
夕子「ううん、いいのよ。こんなとこで恥ずかしいから言わせないでッ」
恥ずかしい ? 駅では恥ずかしいことを、河川敷でやるつもりか・・。
ともかく夕子を後ろに乗せて河川敷に向かった。
私「夕子ちゃん、ここ、更衣室なんてないしさ、どうするの ? 」
夕子「じゃ見てて。ほら、後ろ向かないの。見ててッ」
彼女、急に大胆な姿をこんな所で見せようというのか ! ?
夕子はまずウェアの上着を脱いだ。その下から濃紺(のうこん)の制服の上着が見えた。
夕子「いい、絶対目をそらしちゃ、ダメよ」
夕子はバッグから何かを取り出したが、それが制服のスカートだった。
ようやくわかった。でもやっぱりまともに見ているわけにはいかなかった。
夕子「何よぉ、見ててって言ったでしょッ。なんにも変なことじゃないんだから」
私「でも、ズボン脱ぐ時、パンツが見えたら・・・」
夕子「あら、村松さん、案外ウブね。それくらいわたし平気よ」
私「でも、わざわざ見せることないだろ」
夕子「じゃあ、パンツ見せないで、じょうずにやるわ」
弱った。せめてスカートに替える時くらい、あっち向いててなどと言えばいいのに。
夕子「いい ? まずスカートをこのままはくでしょ。それでと、下を脱ぐから。こうしてと・・」
夕子「あ、ちょっとズボンがきつかったかな。パンツが一緒に脱げそうになっちゃった」
私「ダメだよ。もう、後ろ向く」
夕子「ダメ、見てて ! 」
たくし上げたスカートをおろしながら、ズボンを少しずつ脱ぐ。なるほど、見えない。
夕子「ほら出来上がり。制服姿に早替わり。これね、陸上部の練習が終わったあと、更衣室で、みんなでやるの。で、パンツがチラッとでも見えた子が、みんなにあとでなんかおごるってゲームなの」
私はなんと答えて良いかわからないまま、ボケッとしていた。
夕子「あら、見事とかさすがとか、ほめてくれないのッ。ん、もお、気が利かないんだから」
何だよ、いちいち、こんなことでほめるのかよと思ったが、言う通りにした。
私「うん、鮮やかな腕前、あっぱれ、あっぱれ」
夕子「プッ ! 何それ、まるで時代劇みたい」
あーあ、なんか疲れて来た。だがその疲れも次の瞬間、吹っ飛んだ。
夕子は、スカートのすそを両手でつまんで広げて見せ、更に小首をかしげて、ウインクして私を見つめたからだ。ドキンとまた大きく胸が鳴った。
夕子「こんなポーズ、ちょっと古いわよね。さて、どんなのがお気に入りですか ? 」
私「夕子ちゃん、撮影が済んだらそのあと、バイク乗る時、また今の逆やるんだろ。もう勘弁してよぉ」
夕子「あら、このまま乗るわよ。ここなら誰も見てないからいいじゃない」
私「俺が見てるのッ。パンツ見えちゃうじゃないか」
夕子「いいわよ。パンチラ見えたら、カメラで撮ってもいいわよ」
何だきょうはこの娘。どうかしてるんじゃないか。
私「大人をからかうんじゃない ! 」
私はムッとした顔で、そばの草むらに腰をおろした。ついでにタバコを取り出した。すると、夕子がツッと寄って、ピタリ隣に腰をおろした。近すぎる。
夕子「なんか、気に入らないの ? 」
私「夕子ちゃん、きょうは大胆すぎるよ。俺、おじさんだよ」
夕子「そうよ。でも、童顔のおじさん。大学生くらいにしか見えないもの」
と、言いながら夕子は顔を近づけて、流し目というのではないが、また首をちょこんとかしげて、私に甘いというか柔らかいというか、そんな視線を向けた。
夕子「わたし、きょうは村松さんに、確かめておきたいことがあって来たの」
私「確かめてって ? 」
夕子「そうよ。わたし、もうじき受験でしょ。だから忙しくなる前に、聞いて確かめておきたいことがあるの」
私「何 ? 言ってみて」
夕子「ちょっと恥ずかしいんだけど・・、村松さん、ううん、あなた、わたしのこと、どう思ってる ? 」
私「どう思ってるって、いきなり聞かれても・・」
夕子「きょう、ホントはさよなら言いに来たの・・」
ガーン ! ! 六尺棒でいきなり後頭部を強打された衝撃だった。それにしても凄まじい仕打ちだった。
スカートをはくところなんか見せておいて、そのあとすぐこの言葉だ。
私は一瞬に無表情になった感じだった。それを目ざとく彼女が見抜くように言った。
夕子「プッ ! おっかしい。村松さん、能面みたいな顔になった」
衝撃を与えて今はもう吹き出している。頭の中が空っぽになった。
夕子「あっ。村松さん、また傷ついてる。どうして ? 」
当然だろ。こんなフラれかたは初めてだ。別れるなら電話か手紙で済んだろうに。それにしても妙なとこ、鈍い娘だ。
私「能面じゃなくて、オランウータンが口を閉じて済ましたような顔だろッ」
夕子「アッハハハーッ。やーだ、そんな形容しなくてもいいのに」
夕子はどこまでも明るい表情のままだった。妙にむかっ腹が立って来た。
私「夕子ちゃん。いずれこういう時が来るのは覚悟してたけどね、何もわざわざこんな場所へ来させておいて、別れを告げるなんて、残酷なマネしなくたっていいだろッ ! ! 君はずいぶん冷たい娘だね ! 」
夕子「何、怒ってるの・・。やだ、わたし、言い方が悪かったかしら。あ、そうか、村松さん、わたしにフラれたと思ったんだ。やーだ、もお。違うのッ」
私は思考停止していた。無意識にタバコに火をつけた。と、思ったら、火がつかないうちに、彼女がサッとタバコを抜き取った。
夕子「まじめなお話なの。ごめんなさい、タバコ取ったりして。でも、しっかり確かめておきたかったのです。わたしの聞くことに答えて下さい」
私「ああ、いいよ。何聞きたいの ? 」
夕子「村松さん、わたしのこと、好き、嫌い、どっちですか ? 」
まさかとは思うが、この顔つきでは、恋人同士になろうという決意を告げる雰囲気なのがわかった。
私「それは・・もう前にもほれたって言ったろ。好きに決まってるじゃん」
夕子「良かったぁ。私も村松さんのこと、好きです。でも、これから大学行って、どんな素敵な人に出会うか、わかりません(グサッ ! ! ) 。でも、今はとりあえず(チクッ ! )村松さんだけだから(チクッ ! ) 村松さんが好きです」
夕子「だから、村松さんを恋人って思っていたいんです、今のところ(グサッ ! ! ) 。村松さん、どうかしましたか ? 」
私「いや、どうもしないよ」
夕子「わたし、告白したんですよ、これでも(チクッ ! ) 。なんか、村松さん、余り私のこと、気にとめてくれなかったみたい・・」
君の言い方がへたなんだよと返したかった。娘はまだ言葉をついだ。
夕子「とにかく女子高っていう閉鎖的環境で、異性として付き合ったのは村松さんだけだから、先のことはわからないけど(またチクッ ! ) 、今は村松さんが一番好きな人です」
この娘、なんにも男心を射止める告白してないも同然だ。ウブなのか、かなり打算が強いのか、見当がつかない。
あとのことは印象にない。やや脱力感に襲われたひとときだった。
ま、確かに娘の言うことに間違いはなかったし、私はなんと言っても十(とお)も年上の男だ。本当の別れを告げられることを思えば、これで良しとしなければならないかも知れなかった。だが、複雑な気持ちのまま、やがて娘と富士駅で別れた。
帰宅してどっと疲労感に襲われた。