懐かしの家族HP

2005/11/14(月)17:31

在りし日の本田美奈子さんと雑誌コラム

コラム(113)

歌手の本田美奈子さんが白血病にかかり、先ごろ38歳の若さで帰らぬ人となったことは、たいていの人の記憶に新しいと察する。 私は彼女のファンでも何でもなかったし、その存在さえ知らなかったが、ある時、購入した一書で、彼女が忘れられぬ存在となった。 文藝春秋に「諸君 ! 」なるオピニオン雑誌があり、その巻頭コラム「紳士と淑女」は、名コラムニスト山本夏彦翁亡き今、唯一、辛口と機知に富む名コラムと断じている。これの足かけ15年分をまとめた大冊に、本田美奈子さんに言及した一文を見つけた。 その巻頭コラムを抜いてみる。 ただし、この、必ず名前を出さない「紳士と淑女」子は、辛口と形容した通り、忌憚(きたん)なき時事評をつづるから、誤解されるおそれがあるが、本田美奈子さんの経験に関するコラム文は、内容をよく読めば、彼女の透徹の観察眼と澄んだ心根を評価していることがわかる。掲載誌は、1992年4月号というから、平成4年、既に13年前である。 以下、抜書き。 歌手の本田美奈子とスタッフ八人がベトナムに行った。四月から帝劇で始まる「ミス・サイゴン」に先立って現地を見、写真集をつくるのが目的だった。 事前にベトナム当局から許可を取っていたし、現地で雇ったカメラマンも同行していたので、撮影は順調に進んだ。 ところが滞在四日目、ホテルに帰ると十数人の公安局員が待っていた。フィルムは未使用のものも含めすべて没収され、人間は別室に連れて行かれて二時間の事情聴取を受けた。 カメラマン一人を残し、ほうほうの体(てい)で成田に帰った本田は、記者会見の席上で「ベトナム人が国を出たい気持ちがよく分りました」と語った。 また「日本はいい国だと思いました」とも言った。 もとより芸人に起こったことである。大きく報じたのはスポーツ新聞だけで、天下の大新聞はこの事件をほとんど取り上げなかった。 そういうことを歯牙(しが)にもかけないのが、大新聞の見識というものであろうか。だが民衆は、教えられずして知るのである。サンタフェには自由があるがベトナムにはないことを(rainbowmask註/覚えておいでか、サンタフェを。宮沢りえ嬢写真集を示唆したと察しられる)。 かつてベトナム解放( ! ) のために献身したという小田実(おだ・まこと)は、「日本人は、自由という問題を考えているのは少ないじゃないですか。俺は考えている」と豪語した( rainbowmask註/小田実は、極左共産主義思想に凝り固まった、反日日本人である)。 本田美奈子は二十四歳の、歌って踊ってキレイなだけが取り柄の娘だが、骨身に徹して自由というものを考えた。 戦後のベトナムについて「俺は知らんよ」と言う小田と違って、彼女は、自由というものをあらゆる政治体制を超えた普遍的なものとして考えることが出来た。 そして結論は――「日本はいい国だと思います」だったのである。 以上抜粋。 ベトナム戦争が始まった、つまりアメリカが南北ベトナム戦争に介入を始めたのはまだ私が小学六年の昭和39年だったが、北ベトナムが勝利し、和平協定が結ばれる頃は、既に大学生になっていた。 戦火著しい時、テレビは連日のように、ベトナム民衆の悲惨や不幸のシーンばかりを強調して映し出し、論調は今の対イラク戦の如くアメリカを鬼畜と扱い、北ベトナムが勝利を収めるや、「ベトナムは解放された ! 」と我がことの如く喜びの表情を作って報道し、我が国民にもそう思えと言わぬばかりだった。 なにゆえか弱年の頃より、理屈抜きで我が国を誇り、愛で、大東亜戦争にも我が旧軍擁護の立場を通した私は、このベトナム戦争が、ソ連とアメリカの、事実上の代理戦争であることを皆知っているはずだ、それとも自分の勘違いかと、この頃は疑問を持っていた。つまり今も北朝鮮や支那が政治体制としてかたくなに敷いてはばからぬ共産主義と自由主義の戦争だと断じていた。 既に星移って、ベトナムも安定したかに見える現在も、ベトナムは自由のない国だということを露呈したのである。 それを知らしめてくれたのは、国家思想にも何にもこだわらぬ一歌手の本田美奈子嬢であった。 遅ればせながら私は彼女の声量と歌唱力を知って驚いた。 自らを拙い芸能人とけんそんし、ミュージカルに活路を見出さんと、芸域と活動の場を求め広げんとしている矢先の不運であった。 いい奴ほど先に逝く。彼女にもこの言葉があてはまると思ったのである。 仲良しの南野陽子は、インタビューに答えて「たいした努力もしないで人気者になる人がいる中で、彼女は体全体で努力した人です」という意味の本音を泣きながら言った。 思い切ったことを言ったことになるのかも知れぬが、私は元スケ番刑事で活躍した南野陽子の発言を諒(りょう)とすべしと共感し、この言葉が天国の本田美奈子さんの魂魄(こんぱく)に届いていたら良いがと、ひそかに願った。

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