懐かしの家族HP

2008/02/06(水)01:17

田所は京南大学「ガチョーン ! 」

SF物語(76)

ブログ物語とは言え、ジオラマ製作を伴うので自業自得ながら大変なわけだが、さらにこの事情に伴って、物語世界だけを描くばかりというわけにもゆかず、物語の中にジオラマ製作の途中経過まで持ち込むこととなる。 無論、ひたすら造型作業を続け、画像を用意し、いざ更新というときは画像つき物語を突然出せば理想かも知れないが、何しろ趣味でやっていることだから、そこはわがまま勝手なやり方も出るというものだ。 さて、私はやや気まぐれであり出しぬけでもあると承知しつつも、何となく軽い衝動が起きてしまった。 ただ、いよいよ受話器を取る段になると、さすがに緊張した。 控えてあったダイヤルを押してコール音を聞いていると、やがて誰かが電話の応対に出た。 係「こちら京南(きょうなん)大学学務係ですが・・」 私「あ、お忙しいところ、恐れ入ります。私はそちらの物理学第八研究室の田所教授の知り合いの者で、静岡県富士市五貫島(ごかんじま)ブルーテントハウス在住予定の、村松と申しますが・・」 係「はあ ? まことに恐れ入りますが、少々お電話が遠いようで、お聞き取りになれないところがございまして、申し訳ありません。富士市まではわかりましたが、そのあとが、あの失礼ですが『土管(どかん)島』というように聞こえましたが、私の聞き間違いでしたら、申し訳ありません」 私はなるほどと思い、悪ふざけを通すことにした。 私「ああ、すみません、土管島でも通ります。何しろ富士川の河口近くで、どのみち行く末は似たようなものですから、あ、それで田所教授は・・」 係「それが、今、あの外出中と申しますか、少なくとも研究室にはおりませんので・・」 私「行き先か何か、わかりますか ? 」 係「はあ、それが、まことにお伝えしにくい表現になってしまうのですが・・田所教授は今グラウンドで『エイトマン』ごっこと名づけた実験をやっているさいちゅうでして・・」 私には何となく推測出来た。学内の部外者にはけどられぬよう、妙な実験名でテレポーテーションの応用実験と、今後への備えを周到にするためのトレーニングをやっているものと推察された。それに第八研究室にエイトマンごっこも、ヤツらしい。 それにしても大学名にひっかかりがあった。私があいつの大学に直接電話するのは初めてだし、そのために机の上に散乱したいくつかの名刺の中から、既に反古(ほご)となったものを処分しながら、ようやく見つけ出した一枚だったが、今改めて見てみると、どこかで見たか聞いたような名前だ。 私「あの、田所教授のことについてはよくわかりました。それで、つかぬことをおうかがいして、申し訳ないのですが、そちらの大学に、もう今から40年余り昔、『若大将』と異名をとった学生がいたということをご存知か、あるいは・・」 係「フフ、若大将なら、今でも有名ですわ。若大将・田沼雄一ですよね」 私「ご存知ですか」 係「実は田沼は、いえ父は、私の母・澄子(すみこ)と結婚して、今はレストラン田能久(たのきゅう)の経営をしております」 そこに聞き覚えのある声が飛び込んだ。 田所「あ、田沼さん、今夜、君のお店で夕食とる予定だったんだけど、何しろ一流の老舗レストランだろ。いきなりで、ダメかな ? 」 係「ふふ、そんなにおっしゃるほどの店でもありませんわ。あ、それより、今、静岡県富士市の村松様というかたから電話がかかっているさいちゅうで、田所先生にご用がおありのようですが・・」 「ありがとう」と言って電話を代わる気配がしたと思うと、ヤツの声が響いて来た。 田所「おお、村松が大学に電話するのは初めてだな。どうした ? 」 私「おい田所。お前、人が電話中にでけえ声で割り込むなんて、礼儀知らずもてえげえにしろ」 田所「ははは、済まぬ。何しろ田沼さんとは田能久(たのきゅう)を通じても顔なじみで親しくてな」 私「お前のオハコ病のアレルギーは出ねえのかよ」 田所「バカ、余計な気を回すな、彼女はとうに結婚しているのだ」 私「ほお、それじゃ婿をとったんだ。それにしても京南大学とは、もう著作権も何もあったもんじゃねえな。ところで田所、お前がさっきまでやっていた実験・・」 田所「村松、話の腰を折って悪いが、俺は今から研究室に戻る。そこから改めて連絡する、済まぬが待っててくれ。ああ、電話でもパソコン起動でもいずれでも構わぬ」 田所が初めて緊迫の様子を電話に乗せて伝えて来た。少し前から妙な雰囲気を感じ取っていたことを、彼のひとことが裏付けたような気がした。無論、仔細はわからないが、まもなくその片りんなりとも判明する予感がした。 田所「おお、待たせたな。パソコンだな。よし、ややぜいたくを言うと、パソコンのほうがお互いの顔を見て話が出来るから好都合だ。村松、ただいまからしばらくはお互い、どんなことを話しても、他人に盗み聞きされるなどという心配はない」 私「おい、俺はきょうは気楽な話をして電話を切るつもりだったんだが、どうやら雲行きが怪しくなって来たな。それから、まあ、たいして重要なことでもないけど、今までお前と俺を区別しやすいように、俺だけヘタなべらんめえ口調でしゃべってたのを、これもたった今から、本来の俺の話し方に戻すぞ。もっとも田所は文章でも読むように、本当に歯切れのいいきれいな話し方だから、ちょっと違うけどな」 田所「構わぬ。俺もお前も、東京での学生生活で、静岡の方言が取れて、ま、微妙なイントネーションは残るとしても、言葉遣いそのものは、標準語に近くなったしな」 私「田所、早速だが、なぜお前、学務係での電話を研究室のに切り替えた ? 」 田所「俺の研究室と自宅には、例の『量子通信機』を設置してある。あることへの対策が目的の一つだ」 私「盗聴器か ? 」 田所「その通りだ。前に簡単に説明したように、俺の特殊通信機は、仮に留守中、部屋に何者かが侵入して、盗聴器を仕掛けても、量子力学の応用による事前感知機能が働いて、必ず盗聴不可能になるから、心配ない。この量子の機能は、通信している同士の居住空間にも及ぶから、お前の家も大丈夫だ。村松・・・タイムマシンの試運転も終わらぬうちから、お前を巻き込む話をせねばならぬことになってしまったが・・・」 私「田所。本望だぜ。俺も実は前から疑問に思っていたし、それにこの冒険に期待もしていたんだ」 田所「・・・そうか。だが、村松は俺の行動について、どんな推理をしていたのだ・・」 私「俺は初め、お前が何かのプロジェクト実行に、俺を一方的に利用しようとしているのじゃないかって思ったよ。けど、どうやらそういうものでもないって気がして来た。世界は地球温暖化なんていう次元の低い問題をはるかに上回る未曾有の危機に直面しつつあるっていう、――理論武装に基づく確たる根拠はないけどな、なんか、とてつもないスケールの災厄が近づいてるって気がしてならねえ。そんな地球規模の危機にお前が、俺をパートナーとして、ま、オツムのほうは頼りにならねえとしてもな、二人三脚で、何かのプロジェクトに挑もうとしてるんじゃないかって、思ったわけさ」 田所「驚いた。鋭い読みだな。詳しい内容は、いずれ時間旅行に出発の直前くらいに話すとして、お前の危機感は漠たる表現ながら、当たっているとしか言えぬ。村松、今さらながらだが、これまで秘密にしていて済まぬ」 私「何言いやがる。俺はな、平成の世の中に入って、つくづく生きているのがイヤになっていたんだよ。田所から『冒険』っていう言葉を聞いて武者震いがしたよ。つまりは、今度の冒険には命がかかっているんだよな」 田所「いや、一つだけ約束する。俺にはもはや両親がいないから良いが、お前にはいる。それと、こんな言い方は無礼かも知れぬが、お母さんがお年を召して、めっきり老け込んでしまった。だから、親子さかさまが起きるような不幸なことは、お前のお兄さんだけにとどめなければならぬ。必ず俺がお前を無事に帰還させる」 私「ま、その言葉、ありがたく受けておくか。でもな、俺は命をかけるという働きをしたことがない。万一の時はお前に助けてもらうとしてだな、それでも、とことん命をかけるぜ」 田所「では村松、俺は田能久(たのきゅう)で夕食だから、そろそろ失敬するぞ」 私「あらま、ハラホロヒレハレ・・・・・ ! 」 田所「何だ・・」 私「最後へ来て真面目な話になったとこへ、いきなり若大将じゃあ、ハラホロヒレハレにもなるってもんだよ。じゃな」

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