2014/05/29(木)01:44
「マーチ」曲名当てごっこ
夕子「もしもし」
村松「あ、今晩は。ああ・・その美声聞くと、ホッとする」
夕子「あら、今夜はお上手ね。生活ペース、出来て来たの ? 」
村松「とんでもない。町内会の仕事が憂うつで、今年一年はイヤで仕方がない」
夕子「気の毒ね。あたしは仕事の都合で、町内会費は納めるけど、持ち回りの班長なんかはハッキリ断わったわ」
村松「それで正解。実はアパートに入ってる人の中にも、班長を務めるのは断わってる人もいるよ。これは実は強制ではないんだよ、本来は。ただ、動ける所帯の人が、好意的に引き受けるから、この悪弊が続いてるとみた。俺は今後のお偉方の態度いかんでは、軽いケンカするつもりだ」
夕子「あなた、お母さんを亡くしたばかりで、そんなことやりたくないのに、ホント、イヤよね。回覧板程度にして、あとの田舎行事なんか廃止すればいいのにね」
村松「元々、親父がいろいろやってくれて、独り暮らしになる俺の時は、辞退していいって言ってたのにね。親父が死んで、さらにお袋が特養に入ったら、じわじわと接近して来やがった。お前さんがおこってくれたように、庭木のほとんどを切られた恨みは忘れないぞ。こないだ回覧板届けに来た会長に少し文句言ったら、『全部切っていいと聞きましたが』って言いやがるんだ。で、俺は『程度問題でしょ。お袋が丹精したのを、幹からみんな切ったでしょ』ってやり返してやった。さらに、『今後、何か気に障ること言われたら、僕も黙ってませんよ』と付け加えておいた。会長のヤロウ、聞いてないフリしてたけど」
夕子「あの、市で発行するのあるでしょ。あれ、ほとんどの家(うち)で抜き取らないで、残るってね」
村松「おお、俺の地元でいう『広報ふじ』。これね、部数そろえたあと、俺は自分のぶん、取らないで、次の家に届けてんだ。ささやかな抵抗。で、一巡したあと、必ず何部も残って帰って来る。この一年で俺の身体がかなり衰えたら、自由な生活ペースを作る予定もダメになる。ああ、やだ。話題変えよう」
夕子「メールに予告もらったから、準備オッケーよ」
村松「何しろお前さんはクラシックに明るいから、マーチなんか、お手のものだろうけどね」
夕子「そんなことないわよ。マーチって、時々区別つかなくなるほど、みんな似てるって感じるから」
村松「それに、ブログ上にURL作りながらやっても、読むのが面倒だしね。ま、我々のゲームとして割り切るしかないね」
夕子「レコードの曲のリスト用意したの ? 」
村松「もちろん。リスト・アップしてある。電話は子機を使うね。それでは始めるよ。対戦相手なんかいないから、ゆっくり当ててね」
兄が中学生のときに買ったシングル盤レコード。マーチ王スーザの代表曲2曲を収録、まだステレオではない。
夕子「でも緊張するわ。・・あ、かかった。・・・何んだっけ・・ ? 聴いたことある気がするけど・・・」
村松「これ、俺が中学の時、ほんの何日か入ってた『吹奏楽部』で、ほぼ連日聴いた行進曲。上級生、うまいもんだなあって、尊敬した。今じゃ、ブラスバンド、ブラバンって言うのかな」
夕子「あたし『士官候補生』とごっちゃになるの」
村松「『士官候補生』はもっと勇壮な出だしだよ」
夕子「あ、このあたりまで聴いて、わかったかも知れない。間違っても笑わないでね。・・・『雷神』かしら・・」
村松「正解。いいよ、そのペースで」
夕子「次が『士官候補生』なんてこと、ないわよね。あ、ごめん。次どうぞ」
懐かしき針の音と共に曲が始まる。
夕子「ああ、困ったわ。これも聴いたことあるけど、『タッタカター、タッタカター』で始まるのよね。・・・何んだっけ・・ ? 」
村松「ヒント言うね。ワーグナー作曲」
夕子「そんなのヒントにならないわ。作曲者と結びつかないもの」
村松「では次のヒント。『楽天の野球』。はは、これはわかり過ぎかな」
夕子「ええっ ? あたし、野球わからないもの」
村松「では第3ヒント。お前さんがいっとき得意だったのね。F15戦闘機」
夕子「F15イーグル。あ、鷲って意味ね。あああ、ここまでヒントもらうと、答え同然ね。『双頭の鷲の旗の下に』かぁ・・・。ああ、この先、自信なくした・・。でも、どうぞ」
村松「ではこれ」
夕子「あ、これは。コラっ ! あたしへのあてつけのつもり ? 」
村松「答え、言う必要ないね。でもほぼ同じ曲名で二曲あるよね。代わりに言うね『結婚行進曲』」
夕子「今のはメンデルスゾーンよね」
村松「さすが。俺は遂に未経験だけど、このほうが情熱的で好きだよ。これからいかにも新婚旅行へ出かけて、初夜も燃え上がるってムード」
夕子「あなたのお得意のネタね」
村松「ところで初夜は楽しかった ? 」
夕子「うるさいぞ ! 思い出したくないのに」
村松「失敬。では次」
夕子「ちょ、ちょっと待って。あたし、一夜漬け勉強みたいでダメ。もう少しマーチのCD聴いて、なじんでみるわ」
村松「あのさ、嫌いってわけじゃないんだろ」
夕子「もちろんよ。でも今のあたしの調子だと、どれも似て聴こえちゃうから、まだ学習が足りないわ。あなた、凄いわね。でね、フフフ、あなたのマーチの知識度、ちょっと試していい ? 」
村松「うえっ ! この逆襲は予期しなかった。ってのはウソで、お前さんのCDで試していいよ」
夕子「行くわよ。日本の行進曲だけど、軍艦マーチじゃないわよ。はい」
村松「何んだ、『敷島艦行進曲』じゃんか。これね、東宝の『太平洋の翼』で、戦艦大和直掩(ちょくえん)シーンで流してたよ」
夕子「さすがね。では次はこれ。イントロが長いからむずかしいかもよ」
村松「何んだ、『太平洋行進曲』だろ。帝国海軍ものは得意だからね」
夕子「わかったわ。ではこれはどお ? 」
村松「おお、本来の世界的名作だな。『星条旗よ永遠なれ』」
こちらは2003年発売のCD。購入の際、曲名の充実と演奏バンドの両方を見定めるのがむつかしい。本CDは相棒と共有。
夕子「たいしたものね。じゃあ、あたしが知らないのにしようか。はい、これ」
村松「『ナショナル・エンブレム』。日本名で『国民の象徴』とも言う」
夕子「なんでわかるの ? 」
村松「出だしは一瞬『美中の美』かと思わせるけど、すぐにアメリカ国歌のメロディーのアレンジになるだろ」
夕子「恐れ入りました。あ、もう一曲、さすがのあなたも混乱するかもっての。イントロ部分で当ててね。はい」
村松「『愛国行進曲』。お前さんの狙い当てるね。『太平洋行進曲』の出だしと混乱すると思ったんじゃないの」
夕子「図星 ! あなた、かなりマーチを聴いてるわね。それも、何十年間、たびたび」
村松「俺も正直言うとね、『士官候補生』と『雷神』、ごっちゃになる時があったんだよ。これはイントロに集中しなきゃって思ってね。聴いてみると、出だしは全然似てないけどね、たくさん聴くうちに混乱が始まる経験したよ」
夕子「しばらくおいて、再チャレンジしたいけど、何かアドバイスある ? 」
村松「役立つかどうか自信ないけど、例えば軍艦マーチは、出だしの素晴らしさでは、俺は世界一だと思うんだ。西洋に充分通用する名曲だね。あ、それでね、出だしの印象が強そうなのを何回か聴いて、それから少しずつ増やしていくといいと思うよ」
夕子「わかった。あたし、マーチは体質的に好きだから、もっと聴いてみるわ」
村松「お前さんが本気出したら、音感では圧倒的に俺はかなわないから、今度は対戦でもしたら、お前さんが勝つよ」
夕子「うわ、またお上手ね」