2005/12/01(木)01:02
『プルーストによる人生改善法』/人生を愛することをめぐって
夜更け、ベッドに潜り込み、クスクス笑いの洪水の中で
この本を読む。
いつか読みたい、とくり返し挑戦しつつ、なかなか読み進むことの
できない『失われた時を求めて』。
20世紀文学の最高峰と謳われ、
「あの本のあとに書けるものなんて、果たして残っているでしょうか?」
とヴァージニア・ウルフの筆さえも折りかねなかった小説の著者、
プルーストの、ユーモラスで、誠実な、愛すべき一面をこんな風に
活き活きと描き出している本を、私は知らない。
『今日、人生を愛するには』
1969年スイス生まれの著者アラン・ド・ボトンは、
プルーストの、その人と作品を通して、我々がいかに
人生をよりよく出来るかを考察する。その足取りは
軽妙で、不敵で、人生が愛するに足ることを実に
ユニークに解き明かしてくれる。
『自分のために読む方法』、『時間のかけ方』、『感情の表し方』
『よき友になる方法』、『目の開き方』、『幸福な恋をする方法』
『本をやめる方法』、プルーストの記述するもの、人となりは、
本当に様々なことを我々に教えてくれる。
『上手な苦しみ方』の章では、プルーストの抱えていた、
精神的肉体的苦悩が幾つか紹介される。
――三十歳での自己評価
「楽しみも目標もなく、活動も野心もなく、この先の人生は
すでに終わったも同然で、自分が両親に味わわせている悲しみに
気づいている僕には、わずかな幸福しかない」
――敏感肌
いかなる石鹸も、クリームも、コロンも使えない。体を洗うときは、
目のつんだタオルを湿らせて用い、洗った後は清潔な理念で体を軽く
たたきながら乾かさなければならない(平均的入浴一回につき、
二十枚のタオルが必要。
――死
他人に自分の健康状態を知らせるとき、プルーストはいつも真っ先に、
自分の死は近いと宣言した。彼は確固たる信念と規則正しさを持って、
人生の最後の十六年間、それを予告しつづけた。
本人の説明によれば、自分の普段の状態は、
「宙づりです。カフェイン、アスピリン、喘息、
狭心症のあいだにつり下げられているのです。
概して七日のうち六日は、生と死のあいだで宙づりになっています」
そんなプルーストは、
あるときアンドレ・ジッド宛の手紙にこう書いている。
自分のためには何も得られず、
最小限の不幸ですら避けて通れない私も、
ある資質を授かっています。
…人をしばしば幸福にする力、人の苦しみを和らげる力です…
この本を読み終えたとき、
多分我々は自分の人生をもう一度愛するための、
第一段階に立っている。
そして、多分、『失われた時を求めて』を読みたくて
仕方がなくなっているはずだ。